手紙と終わり
無理やり終わらせました。中途半端は良くないと思って。スッキリする終わり方じゃないけど、もり本当に不倫があるなら、こんな終わりじゃないかなとリアルを追求しました。
康太から手紙をもらった。
怒らないで読んでね。
最初あなたとああなった時、正直「こりゃマズイぞ」と思った。
あなたはマリッジブルーの真っ最中で、このままだと俺以外の男にも同じことをすると思った。
だったら俺が全部引き受けようと思った。誰も傷つかないように、愛美さんの衝動を全て俺に向かわせて、適当な所でフラれようと思った。
そうすれば全てうまく行くと思った。愛美さんはやはり翔さんが一番だと気付き、俺とは前よりも良い友人になって東京に来た後人間関係が安定されるまでの、キーパーソンになる。
完璧だと思った。これがベストなプランだと信じていた。
なんて傲慢だったんだろう。俺は何様のつもりだ?
今思い出すと自己嫌悪しか感じない。
あなたの言う通り自分を過信していたんだね。
ずっと金とゲームの世界で生きてきたから勘違いしてたのかな。
人の心をどうにかするなんてできないのに。
ずっと言えなかった。
嫌われるのが怖かったから。
幻滅したかな?
1度目に荒川を歩いている時、ずっと暖かい気持ちだった。
友人のような妹のような姉のような母親のような娘のような恋人のような。
キスがしたくてしかたなかった。
大切にしたい反面、強く抱きしめたいような。
俺はいつも自分の気持ちがよく分からない。
「そんなのわかんねぇよ」と投げていた感じ。
この時はそれが強烈に知りたかった。
そういう心の動きをする自分に、ひどく戸惑った
この気持ちはなんだろう?って。
確か夜だった。
電話で話をしていた。
愛美さんが珍しくよくしゃべっていた。
「康太の歩き方が・・・」
「康太の文章が・・・」
「康太の服装が・・・」
「康太が前話していた・・・」
驚いた。
俺がよく知っている俺と全然違う。
でもよく考えるとその通りだった。
ああ、この人はこんなに俺を見てくれてるんだ、こんな俺なんかを。
不意に明るい感情が湧いてきた。
恥ずかしい、くすぐったい、あったかい、安心する。
電話の切り際にあなたが聞いた。
「愛美の事好き?」
はぐらかした。
だって俺はアマノジャクだから。
「も~~」と拗ねるあなたがかわいくて。
素直にそう思える自分が嬉しくて。
多分、この時から、すっとあなたに恋をしてる。もちろん、今も。
好きだと言われると生きててもいいような気がした。
それからは幸せだったなぁ。
とにかく愛美さんが何をしても愛おしくてかわいくて。
そのくせ俺はどうしていいのかわからずに、体重のことをバカにしたりして、
・・・小学生かよ!!
行動や言動を打算で選べない俺はなかなか見物だった。
まるっきり子供なんだもん。
そんな俺にもあなたは優しくしてくれた。
自分以外の人の為に大人になりたいと願うのも貴重な体験だ。
どんどんあなたが好きになっていった。
そして不安も大きくなっていった。
不安の内容ははっきりしてる。
愛美さんと別れるのがこわい。
あなたは結婚している。
しかも相手は翔さんだ。
客観的に見て、俺は邪魔者だし、翔さんにはかなわないだろう。
別れは目に見えてる。
そんな事はわかり切ってる、最初からわかり切ってる。
いつもの俺なら「だったらそんなにマジになるなよ」とツッコむ所だ。
でも、こわい。
本当に愛美さんが好きで、幸せで、満ち足りていて。
失いたくない、本当に初めてなんだから。
俺には何もない。
金も、学歴も、車の免許も、顔も、運動神経も、良い生い立ちも。
でも、愛美さんが好きだ。
それだけで傍にいたい。ってのは図々しいかな?
この文章読めばわかると思うけど、俺は女々しくて、小心者で、情けないヤツだ。
だけど、まだ若いから(笑)もっと成長するから。
できれば今はフラないで。
長い目で見て頂けると嬉しいです。
だってホラ俺は「三十過ぎてカッコよくなる男」だから。
合点がいった気がした。私の挑発に乗ってきたことも、最初は冷たかったことも、最近はよく泣くことも。
新年度になって翔は東京の本社から、横浜の支社に異動になった。
新居も、横浜の上大岡に決まり、私たち夫婦の新しい生活が始まろうとしていた。
引っ越しの前に、私は鍵のかかる小さなBOXを買って、康太からのラブレターを大事にしまった。誰にも見られないように。触られないように。
あの手紙は私の心を潤す。
筆圧の強い、男の子らしい汚い字。読み返すといつも笑ってしまう。
身長183cmの男の子がクマさんのレターセットを買ったのかと、つい想像して笑ってしまう。
京急上大岡駅のすぐそばの白いマンション。駅から徒歩5分。上大岡の駅には電気屋さんや本屋などの入った駅ビルがあったし、マンションのすぐそばにはコンビニがあった。私にとってそこは便利な街だった。京急上大岡駅は快速も、急行も止まる。なにせ、実家でも、駅まで徒歩5分のところに住んでいたため、駅まで遠い家など考えられなかった。
私は失業手当をもらうため6か月間は働かない予定だった。とりあえずは専業主婦。
子供のころ『お嫁さんになりたい。』という希望が叶って、マリッジブルーだった自分を忘れていた。
つい何か月か前のことなのに。
人の心なんてすぐ変わるよね~~などと思っていた。
私は、翔のために朝ご飯を作り、送りだしたあと、康太に電話をかけおはようと起こす役目をしていた。
朝、康太に電話すると、「愛美さ~ん。会いたいよぉ」と康太は毎日のように言った。
洗濯物を干しながら聞くその声に微笑みを浮かべ、太陽の光を浴びながら
「今日もいい天気だよ。早く起きて。」
と、笑う。
こんな毎日が続くんだと思っていた。
素晴らしじゃないかと思っていたのもつかの間。
すぐに、専業主婦に飽き、暇を持て余すようになった。
やけくそぎみに、晴れた日は毎日のように洗濯し、布団を干し、掃除をした。
料理はほとんど本を読みながらだったけど、だてに遊び歩いていたわけじゃなく、味は確かなものが食卓に並べられた。
翔は毎日18:17分に帰ってきた。
前の会社とは違い、新しいところは研究室なので、残業がないのだ。毎日同じバスに乗り、同じ電車で帰ってくる。なので毎日同じ時間に帰ってくる。
私が思い描いていた新婚のあり方に、暇をもてあましながらも、満足していた。
週末が待ち遠しい。
康太は毎週のようにうちの遊びに来ては泊まって帰っていた。本人は
「暇だから。」
と言っていたけど・・・。
その実、翔が、ちょっと席を離れた時などにすかさず、キスしていた。
夜になると、翔は規則正しい生活をする男性で、私たちを置いて一人で先に寝てしまう。それを待ってたかのように、康太と抱き合った。囁き合い、キスをした。康太はそのうち、うちに康太の着替えなども持参するようになっていた。
時にドライブをし、湘南や茅ケ崎まで行った。康太と助手席の取り合いをし、3人で笑い合った。
康太は週末とは別に私に逢いに会社をサボったり、休んだりするようになった。そして、私たちはセックスし、お互いの快楽に没頭することになる。
康太がしてもらいたいこと、それが手に取るようにわかる。なのに、じらしたり、意地悪したり、恥ずかしい格好して、とねだってみたり、そんな楽しいセックスをしていた。
私は不感症なんじゃないかと思っていた時期がある。なのに、康太の顔を見るだけで、濡れて、康太の声を聞くだけで、とろけるような悦びを感じ、康太に触れられるだけで、声がもれた。
康太は私以外の人がいるところで、女々しい姿を出すような男ではなく、いつもポーカーフェイスを保っていた。
なので、外で康太と逢うとその仮面をかぶり、男らしい青年へ変身する。
私にひざまずく、従順な仔猫ではないのだ。
思わぬことが起きた。
妊娠したのだ。
ヤバい。これは非常にヤバい。父親は明らかに康太だった。この頃は翔としてない。
私は子供はまだ欲しくない。まだ離婚もしたくない。
翔の子じゃないのに、産めない。まだ細胞レベルの子に愛など湧かない。
どうしよう?
康太に言う?言っても私の心はもう決まってる。堕ろす。一応
父親なのだから報告だけでもする?
その夜電話をかけた。
「言いにくいことが起きたんだけど。」
「うん。どうしたの?」
「妊娠した。」
「え?」
「一応報告したからね。この子は堕ろす。細胞レベルの子に人生歪められたくない」
「俺の子なんだよね?」
「そうだね時期的に。翔としてないから。」
「だったら、産んで欲しい。もし翔さんの子だとしても俺は受け止められるから」
「あのね、相談をしてるんじゃないのよ。報告をしてるの。この子は堕ろす。父親がどっちだろうと堕ろすことに変わりはないのよ。
厳しい口で言い放った。議論の余地もないくらい。
「大阪でいい産婦人科があるから堕ろしてくる。」
「俺の意見は反映されないの?翔さんと離婚して俺と赤ちゃん育てる未来はないの?俺と結婚する未来はないの?」
「ごめん。それはないよ。こんなことがおきたのに、今までの関係続けましょうって気にもならないから別れてほしい。」
「そんな一方的な。俺に選択権すらないの?こんな電話一本で子供もも愛美さんも失うの?理解できないよ!」
「そうだね。私の気持ちは変わらないけど、一度会って話そう。」
翔に実家に遊びに行ってくると言い大阪に帰省した。康太も一緒に行くといい同行することになった。
電話してから初めて会った時は、深刻そうな康太を連れてショッピングをした。
いつも通り何ともなかったように。
何か言いたげだったけどわからないふりで笑顔でデートした。
先に大阪にいた私に合流する形でホテルで過ごした。
何も、私とて嫌いになったから別れようと言ったわけではなかったので、子犬みたいになってる康太を抱きしめてキスをして、そのまま抱き合った。
別れたくないな〜ってのが本音だったけど、ケジメも必要だと思っていた。電話での言葉は思わず口から出た一言だったけど、別れるのか〜と思うとちょっともったいなく思った。だから余計にセックスに夢中になった。この子がくれる快楽には中毒性があった。何度も果てては、もっととそれの繰り返し。
離れたくないな。一度はこれでも別れることに同意してしてくれた康太だったけど全く忘れてしまったかのよう。
翌日産婦人科に行き堕胎手術を受けてきた。
麻酔科切れて、寝かされてた時、しくしく鳴き声で起きた。ケータイで相手の男?に文句言ってた。あんたのせいで私がこんな目に・・・。って
私はそうは思ってなくて、妊娠するのは女だけど、避妊を全面的に男性側に依存するのはどうかなって。
病院で、性行為はしばらくしないでくださいね。と言われたのに、翌日にはもう抱き合っていた。私はダメなんだ。この子を見ているとセックスがしたくてしょうがない。
けど、だめなんだ。別れないと・・・。
失業保険ももらい終わり仕事に復帰することにした。季節は秋になろうとしていた。
私が選んだ病院は川崎にあった。京急に乗って快速で4駅。久しぶりに嗅ぐ病院の特有の匂い。帰ってきたんだそう思った。
○○病院は、1階が外来、2階が手術室とか、カンファレンスルームとか、薬局、更衣室だった。
3階から5階までが病棟となっている。
私は5階の整形と内科の混合した病棟に配属された。
整形と言っても、ほぼ内科の寝た切りの人が主だった。
白い外壁にオレンジの屋根。柔らかい印象を受ける病院だった。
配属されてすぐに、思い知った。ここすっごい忙しい・・・。
8時20分に病棟について、点滴を詰める。30分からカンファレンス。9時からシーツ交換。終わったらおむつ交換。点滴。そうこうしてるうちに、10時がきて検温。11時にケア。12時にご飯を食べて、1時に戻って少しケアをして、2時からカンファレンス。3時からおむつ交換に回って、終わったらまたケア。それが、なかなか終わらず、就業終了の5時が来る。それでも、薬局からお薬が上がってきて、配薬の整理。そこで、チームとしての仕事は終わり、少しだけ休憩がもらえる。
それからが問題。看護記録だ。私は電子カルテに慣れていなかった。タイピングも遅いし、書き残したこととかも多々出てきた。
ゆうに2時間以上はかかる。
だからいつも終わるのが9時とか10時だった。
疲れ果てて、家路につく。
食事はいつも翔と外食。
たまに作って待っていてくれることも。
『お帰り』と微笑んで待っててくれる旦那様。
『ただいま』と言うだけで、なんだか、その日の疲れも癒されるように感じた。
私の帰ってくる場所はここなんだ。。。
今ある生活に充実感を感じていた。
復職して2ヶ月が経とうとしていた。
仕事に熱中するあまり、康太のことも忘れかけていた。
と言うより、仕事を覚えるので精一杯で忘れていた。そりゃ、私には看護師としての経験はある。けれど、病院によって、そのシステムが違う。
私は、病院に慣れることに必死だった。
相変わらず仕事は忙しく、康太からのメールもたくさんあったけれど、返信する気力も、気持ちもなくなっていた。
そんな自分に驚き、納得した。
そっか、私マリッジブルーでゲームしてたんだ。康太もゲームだったんだ。今の生活が充実してるから、もう康太いらないかな?
なんだったんだろ?あの気持ち。熱にうなされたような求める心とセックスへの欲求。もうそういうのないや。遊ぶのは時々でいいや。暇つぶしはもういらないんだね。
冷たい女だな。私。12月の末からだから、もう10か月か・・・。長いな。そろそろ飽きたな。
なんて思ってた。
それでも、たまに、平日に2連休とかになると康太を呼び、セックスした。
康太は
「なんで最近メールくれないの?」
と聞く。
曖昧に笑い、
「仕事が忙しくて。ごめんね。でも、いつも、康太のこと想ってるよ?」
と笑顔で言い、キスをする。
打算や計算が戻ってきた。
心の中で思う。そろそろ康太から離れないと。ヤバいな。
康太は、静かに見つめる。茶色い瞳が本当のことを見透かしているように感じた。
「愛美さん。仕事楽しい?」
「うん。超楽しい。忙しくて、目が回るけどねww」
「そっか。」
悲しげに、笑う康太。楽しく話す私。
心が離れていく。体が康太を求める。
それは私自身がよくわかっていた。
もはや、康太は私にとってはセックスの相手。快楽を与えてくれるおもちゃになりさがっていた。
自分でも思う。
私は冷たい女だなって。あれほど彼を必要としていたのに、いとも簡単に感情が彼から離れてしまった。
ゲーム。
人の心を弄ぶゲーム。
時折そのことを考えて非情な人だね。って心の中で苦笑する。
月に3回ほどしか、公平とは逢わなくなっていた。
『このままフェードアウト。』それを願っていた。
もともと、私は一点集中型の人間で、何か夢中になることがあれば、他はどうでもいいのだ。
今は仕事優先。あそこが今の私の居場所。
そう思っていた。
康太からのメールがうんざりするほど来る。
『今日は日勤?』
『愛美さん。逢いたいよ。』
『愛美さん。キスしたい。』
正直削除するだけでめんどくさかった。
その日は日勤で、夕方の煙草休憩のため1階に降りてたばこを吸っていた。華ちゃんと一緒に。
そこは非常階段の下で、急いでたばこを吸っていた、ふと、道路の反対側を見た。
康太が立っていた。
いつから?久しぶりに見た康太は痩せて見えた。もともと痩せてたのに。どちらかと言えば、やつれて見えたのかもしれない。
今は仕事中。ましてや、華ちゃんが傍にいる。平静を装い、康太に向かって背中を向けるように、座った。
仕事が終わったのは、9時半だった。職員通用口を抜け外にでる。
康太はどうしたかな?
そう思っていても、あの道路の方向へは行かなかった。
行かずとも、駅の改札に康太はいた。
スーツ姿の公平はホントにカッコイイ。そんなどうでもいいことを考えていた。あぁ。めんどくさいな。とも。
川崎の駅。たくさんの人が通る。彼は特にきょろきょろすることもなく、私を見つけ、手を振るでもなく、歩み寄るでもなく、ただ、見つめ瞳をそらさなかった。
内心冷や冷やした。病院の人がみんながこの駅を使う。そんな所に翔以外の男と立ち話するわけにいかない。
目くばせをして、駅の中に入って、川崎大師方面の階段を降りて、人ごみを避けるように歩いた。ホームの端っこに立ち、公平が後からついてくるのを見ていた。
「愛美さん。逢いたかった。」
「だからって、ここに来ちゃダメじゃん。」
「うん。でも・・・。」
公平が言葉に詰まる。
「ここみんな通るんだよ。見られるよ。困る。」
「うん。」
しおらしくうなずいてみせる康太。
「もう帰るよ?」
「愛美さん。俺との関係は?何?」
今度は私が言葉に詰まる番だった。
今更、もうあなたに心はないのよ?とは言えず、困った。マズいなぁ。
秋の夜風が急に冷たくなったような気がした。
とりあえず、言えた言葉が、
「康太は大事だよ?」
と、笑顔で、できるだけ優しい声で言った。
「うん。」
「今度いつ逢える?」
「わかんない。仕事忙しくて。」
わからないはずはない。看護師には勤務表があるのだから。休みは決まっている。前月の末に。
「休みの日でもたまに呼び出されるから、約束できないの。ごめんね。」
それも嘘だった。看護師は誰かが休んでも補充はリーダーと言うドクターの指示を受ける人が代りに、部屋持ちをする。
「そうなんだ。」
悲しそうに言う。今にも泣きそうだ。
タバコに火をつける。
思いっきり吸って、静かに吐いた。ため息と共に。
私がタバコを吸ってる間も、沈黙。
私は内心イライラしていた。
タバコが吸い終わると、
「公平。もう10時回ったよ?公平も明日仕事でしょ?愛美明日早出だから帰るよ?」
と、言った。
「・・・。うん。」
「じゃあね。またね。」
踵を返し、階段を駆け上って、上大岡に向かう列車に飛び乗った。
待ち伏せされた日からしばらくして、康太の行動が変わってきた。
メールは相変わらず頻繁にあったけれど、彼がたぶん仕事が終わってからだろう、毎日のように駅に立つようになった。
たぶん、私が休みや、夜勤の時も立っているのだろう。
日勤の日には毎日彼は、同じ場所に立った。
まるで忠賢ハチ公だな。苦笑交じりに思う。
私は最初は彼をたしなめていたけれど、そのうちめんどくさくなり、そのまま見ないフリをした。
康太は私がそんな態度を取ることは予想してましたと言わんばかりに、すれ違った時には追いかけることもせず、痛いぐらいの視線を投げかけてきた。私は背中でその視線を受け止める。
これってストーカー?って思いながら、康太の処理に迷っていた。
マズいなぁ。
そんな時、病院内で噂が広がった。
『毎日8時ごろに駅に立ってる人って何者?ってか、かっこよくない??』と。
ヤバッ。康太だ。
康太は外見が本当にモデル並みにかっこいい。長身の彼が毎日同じ時刻、同じ場所に立ってたらやはり、女はほっとかない。
なにせ目立つ。
これは窮地に立たされてるぞ?と考え込む。
なんとかしなきゃ。。。
康太からのメールの内容が変わってきた。
『話がしたい。』
毎回それだけ。毎日何回も。
このままじゃいけない。そう思った。
ある日、私は日勤で、仕事を早く終わらそうと頑張って、康太と話をしようと考えていた。
思いのほかその日は6時に仕事を終えることができた。多少手を抜いたからである。
私の本来の姿ではないが、まぁ仕方がない。
このままでは康太のことが誰かにバレてしまう。
真っ直ぐ康太の元に歩いて行った。
「久しぶり。」
「愛美さん。・・・。」
康太は泣き出しそうな勢いだ。なんて切りだす??
「どっか行く?」
「ここでいい。」
「よくないよ。人に見られる。」
「それは愛美さんにとって都合が悪いだけでしょ?」
自動販売機の横の隅で2人は向かい合った。
「もう終わりにしたいんでしょ?」
私は心の中でそうだ!そうなんだよ。やっと気がついてくれたのかい?ありがとう!
と思ったいた。
別れを切り出すなら今だ!
「ごめん」
「なんで謝るの?え?ほんとに別れたいの?冗談だよね?あんなに愛し合ったのに?」
いきなり腕を掴まれた。自動販売機に押し付けるように。
鞄が落ちる音がして両腕を押し付けられた。
「痛っ。康太痛いよ。離して。」
「離さないよ。愛美さんが撤回するまで。」
怖かった。男性の力とはこんなに強いものかと思うほどビクリとも動かない腕。自分が思ってたより私は非力だった。
もがいても、平然としている表情。
動きを封じられるとはこんなに恐ろしいものなのかとびっくりした。
「やめてよ。康太痛い。康太!!」
懇願しても辞めないあたりに強い意志が感じられた。
無言で何も言わない彼と、対面して騒いでも仕方ないなと諦めた。
腕を押し付けられたまま話をしようと思った。
「もう別れたいの。仕事が忙しすぎて会う時間も取れないし、連絡する余裕もないの。何より疲れてるの。結婚してるし、隠れてコソコソ会う余裕がないの。わかって??」
それでも手を離そうとしない。びくりとも動かない。
無言で見つめる目は怖かった。
何か話しておかないとヘナヘナと座り込んでしまいそうだった。
かろうじて立ててる。そんな感じ。
でも思ってることは伝えた。それでも解けない拘束。
怖くてパニックになってもがく以外できなくなってしまった。
そのうち涙流れて怖い怖いと繰り返すばかりだった。
そしたら、パッて力が抜けて康太が離してくてた。
私はカバンを拾って一目散に逃げた。
丁度きた電車に飛び乗った。
怖くて康太のことを見ることができなかったけれど、どんな顔をしていたのかしら?
それからは安泰だった。康太は待ち伏せすることもなくなっていたし、メールも来なくなっていた。
秋が終わり冬になった。
夜勤明けで寝ていた私は、チャイムの音で起きた。おもむろに、ケータイを見る。
ケータイには『今から帰る。』と翔からのメール。着信もあった。気がつかなかったな。
あぁ 翔が帰ってきたんだ。
もうそんな時間?カーデガンを羽織り、玄関に向かう。6時17分
玄関でガチャガチャ鍵を回す音。
「でさ~課長が・・・。」
え?誰かと話してる?廊下の途中で止まる。
嫌な感じがした。
玄関が開いた。
そこには、翔と、康太が楽しげに話をしながら、家に入ってきている映像。
その映像を私は何かの間違いじゃないかと思う遠くの自分を感じていた。
長身の男性が2人。同じようなスーツに、同じようなコート。同じような鞄。同じような靴。
一人の男性が私に言った。
「愛美、明日休みだよね?金曜だしさ、外にご飯食べに行こうよ。康太も来てるし。」
笑顔で言う男性。あぁ。翔だ。
ぼんやりした頭で考える。康太だ。。。
久しぶりに見た、康太はさらに、痩せて見える。
康太の瞳は私を捉え、その瞳は私を憎んでいるように思えた。
「・・・。うん。いいけど・・。どこいくの?」
「いつものトリゲでいいんじゃない?」
「うん。じゃあ、用意するね。」
ぎこちなく翔と会話する間、康太は笑顔もなく、言葉もなかった。
ただ、久しぶりに見る私を凝視し、混濁した瞳を私に向けていた。
『怖い。なんか起こる。』
そんな風に感じた。
何しに来たの?あの子。誰に逢いに来たの?私だよね?
もそもそと、Gパンと、セータを着て、ジャケットを羽織った。
その間も、2人はいろいろ仕事の話をしている。
2人の笑い声が聞こえる。
居酒屋では、康太はまるで1年前に戻ったように、翔に、私に話しかけた。
「子供作らないの?」
「愛美がいらないっていうんだよ~」
「そうなんだ。2人の子供見てみたいのに。」
笑顔の中で何かが違う。言葉は普通なのに、この子おかしいよ。
康太は、康太にしてはたくさんお酒を飲んでいた。翔もそれを楽しむかのようにお酒を飲む。私一人、食べることもできすに、少しずつお酒を飲み干す。喉をう潤すはずのお酒。どんどん。喉が渇く。翔と康太の会話をうすら笑いを浮かべ、聞きながら、必要以上の会話をしなかった。
できるだけ距離を。
翔がトイレに立ったとき。
重い沈黙が流れた。
尋ねることはしなかった。
聞くことが怖い。なぜ、今日、2人は一緒だったの?なぜ、3人で飲んでるの?なぜ、あなたはここにいるの?なぜ、笑ってるの?
少し暗いその焼鳥屋さんで、私は震え出しそうだった。
寒いのではなく、恐怖で。
不意に、
「愛美さん。元気だった?」
そう聞かれて、質問なんて聞いてなかったのに、
「うん」
と、生返事をする。
「そっか、幸せ?」
「うん」
「そんなに、警戒しないでよ。あはは。」
「愛美さんには、人を愛する心を学んだんだよ。愛する人を失う痛さとかね。」
今にもウィンクしそうな軽さで康太は言った。
いたずらっぽく、かわいらしく。まるで、青年の笑顔。私の知らない笑顔。私の忘れてしまった笑顔で。
「・・・。」
瞳が笑ってない。なのに、この子笑ってる。混濁した瞳。康太が私を見つめる。その視線が痛い。
サッっと目をそらす。
翔が帰ってきた。ほっとした。
大丈夫。翔がいるから。大丈夫。
「ね~翔さん。久しぶりに今日泊っていい?」
え?嫌だよ。
「いいよ。土曜日は3人でドライブ行く?」
「あぁいいね。でも、ちょっと寒いよね」
「大丈夫だよ。車なんだし。愛美ともよく行ってるよ」
「へぇ~そうなんだ・・・。仲良いよね2人って」
結局、康太はうちに泊まることになった。
眠れない。
寝るのが怖い。
康太がリビングにいる。
壁1枚隔てた、家の中にいる。
暗闇の中、なかなか寝付けない。
それでも、早く朝を迎えて、逃げ出したくって、無理矢理、眠りに就いた。
深夜、あれは明け方だったのか?息が苦しくて目を開けた。外が少し明るい。
眼が憎しみに満ちている康太が私に馬乗りになって、首を絞めていた。
その姿を冷静に見つめる私。
あぁ、やっぱり、私殺されるんだ。仕方ないなんて、悠長なことを考えていた。
一筋の涙が頬を流れた。何に対する涙?
康太と、目が合って、何秒だろう?
康太の目が、うるみだす。
康太は泣きながらも私の首を絞める。
目がチカチカする。
息が苦しくて、私は康太の手を掴んだ。
康太がハッとしたように手を緩めた。
私の足元に泣き崩れ、
「ごめんなさい。」
何度も、何度も、繰り返されるその言葉。
いきなり息が肺に入って咳き込む。
康太の苦悩が伝わるようで、私も一緒に泣いた。静かに涙を流す。誰のために?
20分間ぐらい、康太の声が家の中をこだました。
私は何も言えず、座って、
康太の手を握った。
康太は驚いたようにサッっと手を引っ込め、少し見つめ合った。
それから、康太は静かに立ち上がり、この家を後にした。
扉が閉まる前、
「さようなら」
と呟く康太の声が小さく聞こえた。
翔は、すやすやと寝息をたてる。
寒々とした部屋で、私は一人、薄明かりの中に呆然と座っていることしかできなかった。
握った康太の手はとても氷のように冷たかった。
康太はあの日以来一度もうちに顔を出すことはなくなっていたし、翔は突然いなくなった康太に対し、「どこいったの?」とは言っていたけれど、そんなに追及することもなかった。
ただ、私の首にはクッキリと康太の手の跡が残されていた。
私は、タートルネックでそれを隠した。冬でよかった。
それからぱったりと康太からの連絡は途切れた。
翔ともあまり連絡をとってなかったみたいだった。
久しぶりに同期のみんなで会おうと言うことになった。
私は家でお留守番をすることにした。
「ただいま。ねね。重大発表があったよ!なんと康太が結婚するんだって!奥さん今妊娠中なんだって!」
は?結婚?妊娠?聞いてねえぞ?なんだそれは。
「結婚?同期で一番だね。いつ結婚するの?妊娠何ヶ月?」
「結婚は知らない。適当に時期が来たらするんじゃないかな?妊娠はまだ初期みたいだよ?2.3ヶ月じゃない?」
あっけに取られた。私と同時進行で女がいたのか!!
子供堕ろす時産んで欲しいとか言ってたのに、他の女のも妊娠してるじゃなか!!なんだそれは!!沸々と怒りが込み上げてだけど、それに怒る資格もない気がした。腹立たしいけどあれだけ悩まされて恐怖で怯えてたのに。
結構頑張って我慢したよね?ストーカーみたいになったり、首絞められたり。酷いこといっぱいされたのに結婚。うん。うん。めでたい。が一言なんか連絡があってもよかったんじゃないか?
「そうなんだ。パパになるんだね。すごいね。」
同時進行してたから言い出せなかったのかな?にしてもあの愛してるも嘘?嘘だとしたらすごいペテン師になれる。何この終わり方。最悪じゃないか。二股野郎。まじか。確認したいけど、もう関わりたくない気もする。あーモヤモヤする!!けどまぁこれで終わったんだ。
熱にうなされた恋が一つ終わったんだ。
納得いかないおわりかただけど、まぁ終わったんならよかったっとしよう。
何よりも殺されてないし。殺される勢いだったからな。
よかった。よかったことにしよう。
誤字脱字ご容赦ください。感想いただければ喜びます。次書く糧になります。ありがとうございました。




