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歪んだ恋  作者: ラビット
3/5

看護師っていう仕事に休日やら、祝日やらはない。当然代休はあるけれど。お正月は正月手当がつくため、ほとんど仕事をしていた。その代休が1月の中頃に取れた。夜勤明けの、5連休の遅出。なので、東京にはほぼ1週間いることができる。でも、翔も康太もサラリーマンのため、日中はすることがなかった。まぁ、それでも、私には本があったし、退屈することもなかった。


夜になると、翔も康太も集まって飲みに行ったり、いろいろと遊んでいた。翔と康太は同期だが、康太が入社1年後に、転勤になり、移動した。なので、同じビルで一緒に仕事をしているというわけではなかった。それでも2人はとても仲が良かった。


集まってくるのは康太だけではなかった。翔の人柄ゆえ、たくさんの同期の友達が翔の家に集まり、鍋やら、飲み会やらが開かれていた。


たくさん集まって飲み、酔っぱらい宴みたいな中、私は、酔っぱらったわけでもなく、なにせお酒には強かったし、雌豹となっていた私は、酔っぱらったフリをし、康太に抱きついたりしていた。

当然翔もみていたが、特に何も言わなかった。翔はそういう公の場で嫉妬をちらつかせる人ではなかった。それも計算の内。


1月は本当に楽しかった。元旦の電話以来、毎日のように康太と電話をしていた。話の話題が尽きることなく、私の仕事の話や、本の話などをしていた。康太もまんざら迷惑そうでもなく、いつも翔と電話が終わると、康太に電話をしていた。いつの間にかそれが2人のルールになっていたし、2人とも夜行性なため、長電話も、深夜過ぎても、お構いなしだった。


東京での楽しみはまだあった。

康太より、翔の方が帰ってくるのが遅いのだ。


康太は、家に帰る前にいつも翔の部屋にいる私の所にきた。たわいもない話をするときもあれば、親密な秘密のムードを醸し出すときもあった。康太はこの時はもう、冷たいキスをすることはなかった。優しいキスばっかりだった。小鳥がさえずるような。暖かいキスを時々していた。そんなに濃厚なキスはしていなかった。それが何を意味するのかは私にはわからなかったけど・・・。


翔へが帰ってくるときには必ず帰るよコールの電話があった。だから安心して、そんな時間を持つことができた。


もう一つ。


康太は決してまじめなサラリーマンではなかった。遅刻もするし、早退もする。翔はまじめで、朝、人より1時間早く会社に行く人だった。当然出社の時間がずれる。


朝翔が出社すると、私は窓からその様子を見て、手を振った。そして、見えなくなった頃、康太に電話をかけるのだ。


康太は、翔の部屋に来て、私と、親密な関係になった。

初めて肉体関係になった時彼は、私の中で果て、一瞬意識が飛んだ。

私は、満ち足りた気持ちでそれを見ていた。

果てた後、ふわふわの康太の髪を抱きしめるのが好きだった。

罪悪感や後悔などは無かった。

欲しいものを手に入れた所有欲が満たされた感じ。

後、隠れていちゃいちゃする物珍しさとドキドキが楽しかった。

でも、どうなのだろう?彼は私に『恋をした』と言えるのだろうか?

それが理解できず、私はまだまだだと考えていた。

そもそも彼と恋をしたかったのか?

恋を知らない私が?ありえない。ちょっと揶揄っただけ。

私の中ではそういう認識だった。




「もういいよ!!」


些細なわがままだったと思う。いつもの気分屋な私のわがまま。それに付き合わされる方はかわいそうだと思うけど、私は感情の起伏が激しい女だった。

何かのわがままを言い、翔の部屋を飛び出した。


一人、荒川に早足で歩きだす。


荒川の高架の下。座り込んだ。涙が頬を濡らす。少し呆れた顔の翔の顔。思い出す。彼にしてみれば、『またか・・・』という感じだろう。

私は翔にマリッジブルーの私の気持ちを理解してもらいたかった。所詮無理な話だが。


ふと、思い、康太に電話をかけた。

翔と喧嘩をし、部屋を飛び出したこと。荒川にいること。を話した。

すると、彼は、15分で私のところに来た。


ほんのり香るシャンプーの香り。


強く香る、ブルガリブラックの香水。


康太の髪の襟足が少し濡れていた。


「はい。」


差し出された缶コーヒー。ものすごく熱かった。


その時、あぁ私の手はこんなに冷たかったんだと思った。

当たり前である。1月の中旬で、風が髪を揺らしていた。そこまで、私の感覚は鈍麻になっていた。

不思議と寒いと感じたのは、その後からだった。


康太は何も言わず、私の隣に座った。そのまま30分は何も言わず、2人で荒川の河川敷を眺めていた。


落ち着いてきた私は、


「寒いね。」


と話だした。


「そうだね。少し歩く?」


そう言って2人で歩き出した。手をつないで。


荒川の河川敷ではキラキラ水面が輝き、野球をやっている少年達、ゴルフのスイングをしているおじさん。子供を遊ばせているお母さん達。


見る者すべてのものが幸せそうに見えた。


傍から見れば、私たちカップルも幸せそうに見えただろう。でも、その実、私の心は揺らぎ、不安だった。


不意に、康太が手をギュって握った。


なぜか、絞められた手が暖かくなって、笑顔がこぼれた。康太を見つめ


「ありがとう」


と、言った。


それからは、普通にいつものようにくだらない話や、看護師としての自分の思いなどを語りあった。


彼は私の看護師としての姿勢にいたく感銘を受けていた。


私は、看護師のプロとして、誰かが亡くなっても泣かない主義だった。それでも、悲しい『死』は訪れ、時に泣いてしまうこともあった。それはプロとしていかがなものかな?と自分で思っていたし、神社やお寺には行かないし、行ったとしても、鳥居をくぐることはなかった。

それは、亡くなった方達に対しての私の礼儀だった。

仕事柄、たくさんの人が亡くなっていく。いちいち覚えていられない。そんな私を、戒めていた。そんな姿勢だった。


そんな深い会話から、読書の話などをしていた。


時々立ち止まり、キスしたり、抱き合ったりしていた。


ある公園で、座って話をしていたとき。


暖かい感情が湧いてきた。これは何?自問する。

栗色の髪の毛がふわふわと揺れて、長い足を窮屈そうに折り曲げて、甘く囁き優しい笑顔を私に向ける。

抱き合いたい。キスしてたい。触れ合いたい。


落とすどころか、彼に恋をしている自分に気がついた。


心から彼の心を求めるのならそれは恋だ。

身体を重ねてたい。深く求めてる。そんなことは初めてで今まではセックスに対して割と淡白であまり求めないし、求められれば応じるそんな感じだった。


康太は、長い足を無理やり折りたたんで、ブランコを漕いでいた。



その間、翔から何度か電話がかかってきていた。


そんなものお構いなしに電話も出ず、あの光に包まれて幸せだった。


太陽の光がこんなに優しいものだとは久しぶりに感じたように思う。


迷いが生じたのもこの時からだと思う。


マリッジブルーから、婚約破棄をしたいと・・・。



でも、1月の末には大阪で、結婚披露パーティーが私の友人主催で開かれる。


結納もしている。


結婚祝いもいただいている。


私が迷った所で、何が変わっただろう?


やっぱりやめた!って投げ出してしまうことなど、できなかった。


良識ある私としては。私は、基本的には真面目で周囲の目を気にする。康太にしても、恋人とは言えない存在。


確かな安心。安定感。将来への道しるべ。そういったものが私には欲しかった。


「愛美さん。翔さんがいるから大丈夫だよ。」


そう言っては、康太は笑った。


私にキスしながら。


康太の意図することが私にはわからなかった。


あんなに優しい瞳で私を見るのに。


あんなに、強く私を抱きしめるのに。


あんなに何度もキスをしたのに。






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