支援物資防衛戦前夜 (2)
「断る?なんで?」
食料調達などの買い物のために、エイムたちは旧市街地まで来ていた。
エイムたちが引っ越してきた屋敷は、今も発展が続いている新市街地まで徒歩で行く、ましてや帰りに荷物を持って帰るには、骨が折れるほどの距離の場所にあるのだが、この旧市街地までは良い散歩になるくらいの距離で、確かに新市街地に比べれば、数や目新しさでは見劣るが、生活に必要な店舗は揃っているし、古くから営んでいる店も多いこともあって質が劣ることは決してなかったので、引っ越してきた次の日に初めてこの旧市街を訪れて以来、今日までこちらで用を済ませることにしていた。
ナディたちの身支度に時間が掛かって、昼食のピークが終わってしばらくした頃に、立ち寄った食堂のテラスに四人で陣取って始まった家族会議の冒頭、エイムの話を聞いて、即座にそう反発したのはレオンだった。
「断ると言ってない。ただ断ることも念頭に置いて、シィルの話は聞く。」
「だから何で?ただのゴブリン退治だよ?」
「旦那様はやはり、戦闘になる可能性を危惧しておられるのですか?それでしたら、いざとなればあれをお使いになれば、ゴブリン程度なら……」
エイムはリアの質問に、お茶を一口飲んでから答えた。
「あれはできることなら使いたくない。」
「ライフ・ブーストだっけ?だったら大丈夫だよ。我慢できなくなったら、私とお姉ちゃんたちと三人で朝までだって、全部受け止めてあげるから♡」
「ち・が・う!」
頬に手を添えて頬をほんの少し赤らめながら笑みを浮かべるナディの言葉を、それを聞いて同じように頬を赤らめたレオンとリアの前で、エイムは強く否定した。
「あれは最後の手段だ。まずあの力を自分たちの実力だと思って過信していると、いつか間違いを起こす。そんな気がする。だからあれは最後の手段と考えて、できれば使わずにこなせるならそうしたい。」
レビルオンの力を当てにするということは、すなわちエイムだけに戦闘を任せるということ。そう理解したレオンは、すぐに反論しなくなった。
「『まず』とおっしゃいましたが、それ他にも使いたくない理由が?」
「あの力を俺が使えるということを他人に知られない方がいいと思う。」
「奪われても心配する必要はありませんよ?あれはすでに旦那様以外、簡単には装着できないようになっておりますので……」
「他人が使える使えないは奪ってみるまではわからないだろう?盗賊くらいならまだいい。あの力が貴族とか国が知ることになったら、俺はまだしも、リアたちにどんな危険が及ぶのか想像もできない。それこそ軍隊を派遣できるような権力者相手に事を構えなければいけなくなるかもしれない。それくらいの力だあれは……」
ここまで聞いて、やっとリアも納得したようだった。
「だからシィルの話も、あの力を当てにしなくてもいいただのゴブリン退治か、慎重に見極めてから判断する。」
「でも、断ってどうするの?あの屋敷には、もう一ヶ月も居れないよ?」
「エイムが僕たちの心配をしてくれることはうれしいよ。でも、そんな安全最優先で稼げる仕事なんて、冒険者の依頼にはないんじゃない?」
レオンのいう事はもっともなのだ。安全に、しかも、レオンたちに不自由のないくらいの暮らしをさせてやれる稼ぎが欲しい。虫が良すぎる。それはエイムにも分かってはいた。それでも、もしそんな虫のいい話を、何より大事な三人の嫁のために、なんとしてでも見つけたいのだ。
そんなことを口にできるわけもなく、黙り込んだエイムが頭を抱えると、その様子を見てナディもレオンも、黙ってしまった。
「旦那様、そんなに考え込まなくても、リアはこうして旦那様たちと、苦労しながらでも見聞を広げていけるだけでも幸せです。この幸せを守るためなら、多少の困難も乗り越えられます。」
「そうだよ。僕もこうして毎日、エイムと一緒に居られるだけで十分。」
レオンたちにそう言ってもらえるのは、男として夫としてエイムにはこの上なく、ありがたいことではある。
「でも、先を考えるとね。気持ちの問題はさておき、お腹は減るしねぇ……」
身も蓋もないが、ナディの言うそれが現実なのだ。
「もっと先のことを考えると、私たちに赤ちゃんができたら、子供のためにもそんなことばかり言ってられないじゃない?」
あ、赤ちゃん……子供……ナディのふと口にしたした言葉が、想像を絶する重さでエイムの肩にのしかかってきた。




