二つのギルド (2)
「街の中を馬車移動なんて……」
シィルの後を追うと、さほど距離を歩かずに止まっていた馬車に声をかけてから、それに乗り込むように促したので、エイムたちはみなでそれに乗り込んだ。
「このあたりは新市街地の東側だからね。中心部を跨いで西側にある旧市街地まで、歩いて行けない距離じゃないんだけど、こんなかわいいお嬢さん三人も連れてちゃあねぇ。」
シルビアの言うように、目的地に向かって馬車が進むにつれ、次第に街並みはその年季を増していった。
「かわいいお嬢さんだなんて……人の妻なのに……」
その言葉でさっきまで堅かったナディの表情は多少、柔らいだ。
「なんだい、あんたたち夫婦なのかい?」
『はい』
三人に同時に返事をされて、シィルはさすがに面食らって、すぐには何も言えなかった。
「あんた、何者だい?どこぞの貴族のお坊ちゃんかい?」
説明する義理もないので、エイムは黙って馬車の外を眺めていると、徐々に建物の高さは低く、街並みも古めかしくなり木造の建築が目立ち始めて、いよいよあたりは下町の様相を呈してきた。
しかし、下町と言えば聞こえはいいが、ここは……
「何?あの建物、とってもきれい。『春姫の園』『貴淑女の館』?何のお店だろ?」
いくつか、周囲とは明らかに雰囲気を異にする、レオンが注目したいくつかの建物には全て過度に煌びやかな看板が掲げられていた。
「お姉ちゃん、あれって……」
ナディに耳打ちされたレオンの顔があっという間に真っ赤になった。
「しょ、娼か……?!」
それが、すぐになんであるかわかった一番年下のナディの方が問題か、ナディより年上なのにわからなかったレオンの方が問題か……エイムにはわからなかった。そこでリアに目を合わすと、明らかに愛想笑いとわかる笑みを、エイムに向けていた。
「着いたよ。降りとくれ。」
またシィルに促されて一番最初にエイムが馬車から降り、続いて降りてきたレオンが、目の前にあった建物の看板を読み上げた。
「観光案内所?」
いくつか張り紙のしてあるその小さいフロアには、中には見るからに暇を持て余している男が一人、カウンタに座ってあくびをしていた。
それを見ていたエイムの横で、ここが何の案内をしているかをリアに聞いたレオンがまた顔を赤くしていた。
「こっちだよ。」
色町の大通りの一方の入り口にある観光案内所のある建物の横の少し狭い道を抜けると、そこは庭と言うには少し狭い袋小路のようになっていて、その奥に、他の建物と古さは代わり映えしないが、少し大きめで小ぎれいにしてある二階立ての建物が建っていた。
「ここだよ。ここが西のギルド。区別するためにあっちを中央ギルドと呼んで、こっちをそう呼ぶ連中が多いねぇ。」
なんというか、エイムにとってはそのサイズ感からして、この西ギルドはギルドらしいギルドだった。
「ボロくてびっくりしたかい?」
「いや、あっちの豪華なギルドよりこっちの方が、俺にとっちゃあギルドらしいよ。」
「嬉しいこと言ってくれるね。」
このシィルという女は、ただ話しているだけでも表情の豊かさが感じられ、話せば話すほど、出会ったときの怪しげな印象をみるみる払拭され、だんだん疑うことが馬鹿らしくなってくる、なんとも不思議な魅力を持っていた。
それはエイムに限ったことではなく、ナディやリア、警戒心をありありと出していたレオンすら、ここに着くまでにはそれを引っ込めてしまっていた。こういうのもカリスマというのかとエイムは思いつつ、会話をしながら、足も止めずに、そのままにしギルドの建物の中に五人は入っていった。
そして、入ってからすぐ、中央ギルドのようにテーブルや椅子はないが、だだっ広くロビーのようになっている広間まで歩を進めたところで、シィルが一度足を止めたので、エイムたちもそれにならった。
「話を通してくるから、ちょっとここで待っててくれるかい?」
その間にエイムは、混み合うほど他の冒険者もいなかったので、この西ギルドの掲示板の依頼をチェックすることにした。
「こちらはリオキリルへの支援物資輸送の依頼は少ないですね。その分、ゴブリン退治に、盗賊討伐ですか……」
ナディとレオンは物珍しさに負けてまだキョロキョロしている間に、リアはエイムより先にユダとともに掲示板のチェックを終えていたようだった。
「数は先ほどの中央ギルドより少ないですが、こちらはなんというか、依頼を見ても、マルタのギルドの規模をそのまま大きくしたような……旦那様がおっしゃるように『ギルドらしいギルド』ですね。」
そんな会話をリアと交しているエイムに、このギルドの職員が声をかけてきた。
「応接室にご案内します。こちらへどうぞ。」
そう言われて、受付横の廊下を進んだ奥にある応接室に入ると、そこで一人の女性が一人がけのソファに座って待っていた。
「ようこそ、ハーゲンのギルドへ。私がハーゲンの冒険者ギルド長のシルビア・ローゼンハイトだ。よろしく頼む。」
そう言って自己紹介し、エイムにウインクを放ったギルド長は、見紛うはずはないシィル、その人だった。




