大都会ハーゲン (2)
そこからは順調に、予定していた翌日に昼過ぎには、パフス領都 ハーゲンに到着した。
「すごーい!建物があんなに高いよ!しかも、あんなにいっぱい!」
馬車の中から顔を出してハーゲンの街の様子に興奮するナディの歓声に煽られて、目の前に広がる生まれて初めて見る大都市 ハーゲンにエイムも心躍らずにはいられなかった。
もともとここハーゲンは戦乱が終わり、新首都となったリオキリルの開発が一段落してから発展した、平和の余力の象徴のような街で、リオキリルから西に延び、エレーニア王国との国境まで続く大街道のちょうど中間地点で、キリルの領土でもほぼ中央に位置するという要所ということもあって、リオキリルが壊滅した今、キリル第一の都市に名乗りを上げるにふさわしい街の一つになっていた。
そんな街の成り立ちもあって、ハーゲンには街を取り囲む城壁のようなものはない。街の真ん中を、エイムたちが辿ってきた街道が貫き、これと、北の港町 ニースゲンと、聖王国時代は北の大公として名高かったストーリアの領都「杜の都」ゼンゲンを結ぶ街道が交差するしているところを中心にして、ハーゲンはその繁栄とともに拡大を続けている。
その街の中心部を避け、東西の街道から南北の街道に迂回して、少し北に行ったところに、ハーゲンの教会はあった。そこはエイムたち四人が生まれて初めて見るサイズの大教会だった。
「エイムさん、そして、奥方様たち、たいへんお疲れ様でした。道中は楽しく心を満たされ、美味しくお腹も満たされ、思い出深い十日間になりました。ありがとうございました。」
「そんな……無理矢理依頼してもらったようなものですから。それに十分以上の報酬ももらいましたし。」
「それとこれとは話が別です。」
そう言ったアンナ司教は笑顔だった。
「ナディさん、ピレスノアにいらっしゃることがあったら、その時はまた腕を上げているだろうその手料理、絶対、食べさせてくださいね。」
そう言って、アンナ司教はナディと握手した。
「レオンさん、同じ神に祈る者として、また成長したあなたと会えることを信じて、楽しみにしています。」
そう言って、レオンと握手した。
「リアさん、心優しいあなたに、婚姻の祝福を授けた者として、今以上の幸福が訪れますように、祈っていますよ。」
そう言って、リアとも握手をした。
三人とも目には涙を浮かべていた。リオキリルで偶然出会って、半月も一緒に居たわけではないのに、きっと三人とも、ときにやさしく、そして、ときに厳しく、母のように姉のように接してくれたアンナ司教のことは一生忘れないだろう。このカリスマ性が、きっとアンナ司教が「ピレスノアの聖女」と呼ばれるゆえんなのだろうと、エイムは感じていた。
「エイムさん、またきっとどこかでお会いしましょう。」
『また会おう』
死者にも捧げることもある「さよなら」と言う言葉は、別れの挨拶に冒険者は使わない。そうエイムも聞いたことがある。
きっと生きてまた会おう。そう言って冒険者は別れて、それぞれの道を進んでいくのだと。
アンナ司教ほどの女性に、一人の冒険者と認識してもらえているように思えて、エイムは今回の依頼を完遂したことに、この上ない満足感を覚えた。
「もちろん、また会いましょう。今度はきっとピレスノアで。」
そうして、エイムともアンナ司教は固く握手を交した。




