本当の気持ち (1)
エイムたちが目を覚ましたのはちょうど昼時だった。
教会と、衛兵の詰め所と共用になっているギルドの食堂は大混雑のまっただ中だったので、昼ご飯を少し我慢して、まずはマルタのギルドから預かってきた書類をナディとリアに届けてもらって、エイムとレオンは、川辺にほったらかしにしてきたレムルとナムルを迎えに行った。
「帰ったら君たちにもいっぱいご飯食べさせてあげるからね。もう少し我慢してね。」
もうすっかり懐いていたレムルとナムルは、レオンの言ったことがわかったのか、二頭とも争うようにレオンに頬ずりをした。
そんな二頭を引いてエイムと二人、ギルドまで戻るまでレオンは上機嫌であった。それはもちろん、リアとこれまで通り仲間として一緒に居てくれると思っているからなのだが、そのレオンの表情の晴れやかさと、今朝、見たリアの表情の差に、エイムは違和感を感じずにはいられなかった。
「なあ、レオン。」
「リアのことなら僕も気付いたよ、エイム。ちゃんと僕が聞くから。もう絶対、僕はリアを放したりしないから。決めたから。」
レオンが決めたならそれでいい。これまでの経験上、皆まで言うなというときにレオンが考えていることは、十中八九、エイムと一致している。なら安心だとエイムは思っていた。
「そうですか。マイアさんも、ゼスさんも息災で、この隣り町の近くにある村で教会を取り仕切っていらっしゃると。」
エイムとレオンがギルドに戻って四人で食堂で向かう途中で、午前中の慰問を終えて教会に戻ってきたアンナ司教と偶然、顔を合わせ、五人で昼食を取りながらレオンの両親の話をすることになった。
「はい。この仮設の教会にも及ばない小さな教会ですが。」
「残念ですわ。お顔を拝見してご挨拶も、何よりマイアさんの料理もできれば、久しぶりに味わってみたかったのですが、明後日にはここを立って、ピレスノアに帰らなければなりません。本当に残念です。」
アンナ司教は世辞を言っている風でもなく、心底、残念がっているようだった。
「アンナ様、うちの村までお連れすることはできませんが、お母さんの料理なら食べられますよ。ここにお母さんの一番弟子がいますから。」
「ナディーン・アービンと申します。ナディとお呼びください、アンナ司教様。よろしければ、今日の夕食でも、明日の朝食でも、私がご用意させていただきます。」
どう見ても一番しっかりした対応で、一番年下のナディがアンナ司教に自己紹介して礼をした。
「ふふ、娘のレオンさんが、一番弟子ではないのね。かわいいお嬢さん、あなたはエイムさんの妹さん?」
「いえ、私もお兄ちゃんの妻です♡」
「??」
満面の笑顔で答えるナディに対して、明らかにアンナ司教の笑顔が一瞬、固まったのをエイムは見逃さなかった。
「なにか、あなたたちと話せば話すほど聞きたいことがたくさん出てきますわ。それでは、こちらのかわいい若奥様のお手並み、今日の夕食で拝見させていただいてよろしいかしら?」
「おまかせください!」
そう一等先に答えたのはレオンだった。
「なんでお前が言うんだよ。そりゃナディのセリフだろ。」
「いいじゃん。僕も手伝うんだから……」
そんなやりとりでも微笑ましく見守っていてくれたアンナ司教に夕食を振る舞うために、そこからナディとレオン、リアで食材の買い足しから始まって夕食の準備に付きっきりになった。
当然、手伝えることもなく、時間を持て余したエイムは、ひとまずまたギルドに赴いて、依頼の掲示板を眺めてみた。何とかギルドも仮設されたばかりとは言っても、首都 リオキリルのギルドと期待していたのだが、「草刈り」と「お使い」ばかり、さもなくば自警団員の募集など、リオキリルに腰を据えなければならない依頼であった。
支援が集まらない、物が集まらない、金も集まらなければ人も集まってこない今のリオキリルの惨状の縮図を、さながらギルドの掲示板で見ているようであった。
ギルドの目の前の通りに出てみても、その通り沿いに建物は並び始めてはいるが、街が平面的な広がりをみせるところまでにはまだ至っていない。
マルタも選り好みができるほど依頼が集まる大きい街ではない。リオキリルですら未だこの調子では、今後のことを考えるとエイムは頭が痛くなるばかりだった。
それからエイムは一人、魔法学院の様子も見に行った。
崩れかけた建物はそのまんまで、人の気配はもちろんない。建物の中身は避難の時に持ち出したのか、被災した後に何者かによって持ち出されたのか、荒れたままで復旧する気配すらなく放置されていた。
もし、自分が通っているときあの惨事に出くわしたらと思うとぞっとするが、かといって、何もなければここで研鑽に勤しんでいたかと思うと、そのことを残念に思う気持ちも少なからず湧いて出てきた。
魔法学院は魔法先進国 キリルの栄華の余力の一つであって、その力が尽きてしまえば、ここの復旧など二の次、三の次。ともすれば、リオキリルの街ですらこの様子では、このまま忘れ去られるかもしれない夢の跡。
そこまで考えが行き着いたエイムは、急に他人事のように俯瞰できるようになって、ただの哀れみだけの感情で、その残骸を日が暮れるまで眺めていることができた。




