レオンの涙 (3)
「オフィーリア、あなたは私の言葉を信じてはくれませんか?」
アンナ司教がリアに手をそっと差し伸べた。
「神に仕える身として、あの災害で死んでしまった人を悼む優しい心を持つあなたが、罪の意識に苛まれて命をすり減らして、失われていこうとしていることが悲しいのです。それは、あの不幸の犠牲になった人を確実に一人、増やすことになるとしか私には思えないからです。嘘だと思うなら嘘をついた私のせいにしてかまいません。あなたのことを側で支えてくれる人のために、私のこの手を取って前を向いてはくれませんか?」
リアはそう言われて、初めてアンナ司教から視線を外した。そうして、一度下を向いて、それから、ずっと自分の横で手を握っていてくれているレオンの目を見た。
そのレオンの目からは、リアよりずっとたくさんの涙が溢れていた。レオンが自分の代わりに泣いてくれているのだと、リアには思えた。
「私……でも……」
「リアはね。本当に大事なものを僕に気付かせてくれるために、神様が巡り合わせてくれたんだって、僕は思ってるんだ。あの時、約束したじゃない。また一緒に帰ってこようって。リアはもう僕の家族なんだ。だから……だから……」
レオンの言葉を聞いて、自分の手を握りしめているレオンの手をそっと放して微笑んでから、リアはゆっくりと立ち上がって、ずっと引かずに手を差し伸べ続けていたアンナ司教の前でひざまずいて、その手を取った。
「アンナ様、ありがとうございます。行く当てもない私のために、涙を流してくださるこの人たちだけのために、私が拾った命を使うことを、どうぞお許しください。」
「リアぁ……」
いつの間にか嬉し泣きに代って、また涙が止まらなくなっているレオンを、ナディが側で抱きしめて支えた。
「この心優しき者たちにどうか祝福を……」
部屋に朝日が差し込んできた。まるでアンナ司教の祈りの言葉に応えるように。そして、何もない部屋は温かさで包まれていった。
「朝になってしまいました。あなた方も、一度、ゆっくりここでお休みなさい。それから、レオンさん、明日、あなたの父上様と母上様の話も、もう少しゆっくりお聞かせくださらない?」
「は、はい。ありがとうございました。本当に。ありがとうございました。」
そんなレオンに笑顔を見せたアンナ司教はもう一度、リアを抱擁してから部屋を出て行った。
「あ、あの私。」
「さ!寝よう!もう朝だけど、昼まで寝て、せっかくリオキリルまで来たんだし、お昼にはおいしいものでも探しに行こうよ!」
リアが何か言おうとしたが、聞いているだけで身も心も疲れ果てたと言う感じだったナディが、雰囲気を一新するために最後の元気を振り絞ってそれを遮った。
ただ寝るにしても、部屋は広くはあったがベッドは二つしかなかった。
「あの、エイム様、レオン様。今日はその……私がレオン様のお側で寝かせていただいてよろしいですか?」
そう聞いたリアは顔を赤くしていた。
「うん、いいよ!それでリアが眠れるなら。僕がずっと抱きしめていてあげる。」
エイムが答える前にそう言って、一方のベッドに横になって、さっきまで泣きじゃくって目がまだ赤いままで、それでも精一杯の笑顔を作ってレオンは両手腕を広げた。
「おいで!リア!」
「あ、ありがとうございます。」
リアは耳まで真っ赤にしながら、まるで母親に抱かれる子供のように同じベッドに横になった。
その様子を見ていたナディは、渡りに船と当然のようにエイムの腕をつかんだ。
「じゃあ、お兄ちゃんは私と一緒。なに、寝袋なんか用意してるのよ!お兄ちゃんも、私が眠るまで抱っこしててね♡」
ベッドに横になると、ナディはまた当然のように身体を密着させて……ナディも気が張っていたのだろう。そのまま張りつめていたものが切れたように何のおねだりもせず、あっという間に寝てしまった。ナディの甘い香りに、エイムはしばし悶々としながらも、ナディの体温に癒されるように、結局、そのまま、眠りに落ちてしまった。




