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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!
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第81話 本当に、ごめんなさい



 まさか自分が、いくつもの殺し屋組織に狙われているなんて思わなかった。

 しかもそのうちの一つが、なんの関係もない一般人、美愛(みあ)さんを巻き込んだということが……信じられなかった。


 これは、相当……困ったことに、なったのではないだろうか。


「主様、これからはより用心してくださいね。近寄ってくる人間みな敵だと思うくらいでないと」


「マジですか……」


 久野市さんは、優しく声をかけてくれるけど……


 俺のこれから、どうなるんだろう。

 確かに、ここに洗脳された人間がいる以上……敵は、次は誰を洗脳して仕掛けてくるか、わからない。


 わからないからこそ、近づいてくる人間みんなに気を張らないといけないというのか。


「ご安心ください。私もこれまで以上に、主様のお側にいますから」


「あはは……」


 頼もしいが、果たしていくつもの殺し屋組織相手に久野市さんだけで立ち回れるのか……さすがに心配になってくる。


 心配になってくるが、久野市さんに頼るしか道はないのだ……なんか、情けない。


「えっと……」


 そこへ、少し気まずそうな声が届いた。


「悪かった。洗脳だかなんだか知らないけど、あんたの命を狙って……殺そうとした」


 視線を移すと、そこには地面に額をつけるくらいに深く土下座している美愛さんの姿があった。

 その姿に、俺は慌てた。


「か、顔を上げてください! 洗脳されてたんじゃ、美愛さんは悪くないじゃないですか!」


 これが、美愛さんの意思でやったことだというならともかく……彼女はただ、洗脳されていただけだ。


「主様、洗脳とは言っても先ほど言ったように、少し思考を誘導する程度の技術です。強い意思さえあれば跳ね除けられますよ?」


「今そういう事言わなくていいんだよ!」


 俺は洗脳にかけられたことはないけど、多分普通の人が抗おうと思っても難しいものなんだろう。

 それに、普通の洗脳より高等なものだと久野市さんは言っていたし……仕方ない部分は、あるだろう。


 それでも、美愛さんは頭を下げたままだ。


「気にしてない……とは言い切れませんけど。あれが洗脳で、俺はよかったと思ってます。せっかくルアと仲良くなってくれた先輩が、自分の意思で俺を殺そうとしたわけじゃなくて」


「……っ、けど、私は……」


「気にしてるって言うなら……ルアと変わらず、仲良くしてやってください。あいつ、美愛さんと話すようになって、毎日嬉しそうなんですよ」


 殺されそうになったことに変わりはないけど。火車さんと違って、美愛さんは利用されただけだ。

 というか、殺しの家に生まれて自分の意思で俺を殺しに来た火車さんとさえ、今は同じ教室で過ごせているんだ。


 美愛さんを許さないなんて理由は、どこにもない。


「……本当に、ごめんなさい」


 それから、美愛さんは再び謝り……一人、この場をあとにした。

 詳しい話は、後日聞きに行くと久野市さんは言った。今聞き出すよりは、少し時間を置いたほうがなにか思い出すかもしれないからと。


「けど、美愛さんを一人にして大丈夫かな」


 殺し屋組織に絡まれ、洗脳された美愛さん。そんな彼女が、俺を殺し損ねたことでなにかしら危害を加えられるのではないか。

 そんな不安がよぎった。


 けれど、久野市さんは大丈夫だと首を振った。


「ああいった、思考誘導の洗脳をする組織は、何人もの人間に同様の洗脳をかけている可能性が高いです。なので、一人失敗したところでそれを始末するようなリスクのあることはしないでしょう」


「そ、そっか……それなら、安心、なのかな?

 でも、情報漏れを警戒して始末しに、とかならない?」


「あんな高等洗脳を使う人物が、自分の足跡(そくせき)を残すとは思えません。話を聞いても、その人物への手がかりが出ることはないでしょう」


 話を聞いても、手がかりは出ない可能性のほうが高い、か。

 それでも後日美愛さんに話を聞きに行くのは、とにかくなんでもいいから情報がほしいからだ。


 これからも、命を狙われることになる、俺のために……


「久野市さん……ありがとうね」


「へっ……な、なんですか急に」


 気づけば俺は、久野市さんにお礼を告げていた。

 今回のことだけじゃない……火車さんのこともそうだ。俺が危ないときは、いつも助けてくれた。


 それがありがたくて。ちょっとやそっとのことでは返しきれない恩だ。以前、お世話になった礼に香水をプレゼントしたけど、とてもじゃないけどあんなものじゃ足りない。

 今は、こんな口だけのお礼しか言えないけれど……


「改めて、ありがとうって言いたくなってさ」


「や、やですよぉ。照れちゃいます」


 くノ一の、久野市さん。忍びだなんて、最初はなんの冗談かと思ったけど……

 俺を守るために、これまで修行して今ここにいる。そんな健気な女の子に、俺はいつしか全幅の信頼を置くようになっていた。


 ちょっと抜けているところもあるけれど、それもかわいらしい一面ってことで、今は受け入れている。


「……帰ろっか、久野市さん」


「はい、主様。

 あ、もうこんな人通りのない場所を通ってはだめですよ? 極力、人の多い道を通ってください。相手が殺し屋でも暗殺者でも、普通人前での殺生は避けますから。それに、人の中に隠れれば主様の姿を見つけることも簡単ではありません。人を隠すなら人の中、です」


「は、はい……」


 それから、帰り道……久野市さんから、注意のようなお説教のような、ありがたいお言葉を受けながら足を進めた。

 ちなみに、寄る予定だったスーパーには寄らなかった。あんなことがあって、のんきに買い物なんてできそうになかったからだ。


 今日は、もう適当に済ませてしまおう。

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