最終話 これからも末永くよろしくお願いしますね!
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……俺が再び命を狙われてから、一カ月以上が経った。
あれから、俺の周りでは特に変わったことはない。また命を狙われるとか、そんな物騒な話がないのはなによりだ。
それでも、わずかながらも日常に変化はある。
「最近美愛さん、自分の話をよくしてくれるようになってさー」
これまでは、美愛さんはルアから俺の話を聞き出そうとしていた。でも、それはなくなったようだ。
これまで話すことのなかった、自分のことを話しているという。
それは、ルアと仲良くしてくれという俺の頼みを聞いてくれたということなのだろう。なにより、今でも以前より頻度が減ったとはいえ、一緒に下校しているようだ。
「へーへー、よーござんしたね」
「なんだよ紅葉、さっきから膨れて。風船みたいだぞ」
「! さ、触んな!」
そんでもって相変わらず火車さんは、ルアと美愛さんの話を聞くと不機嫌そうだ。どうしてだろうか。
ただ、「触んな」と言いつつ頬に触られても本気で嫌そうにしていないのは、俺の気のせいだろうか?
ルアのことを見る目が、なんか……少し、楽しそうな感じ。
「じゃ、二人とも仲良くねー」
「おう、またなー」
「な、仲良くしてねーし!」
俺は二人と別れて、道を歩く。帰宅する時間帯だと、周りに生徒も多い……それぞれ、友達と話したり電話をしながらだったり、歩いている。
ルアは部活の時は火車さんと二人で帰っているが、当然毎日ってわけでもない。用事が入ったりするし、女の子同士の付き合いもあるようだ。
さて、俺はいつも下校中にスーパーに寄るのが日課だ。以前襲われた道はもう通っていない。
それに、久野市さんの言いつけ通り人通りの多い場所を通るようにしている。
この時間帯であれば、周りに人もたくさんいる。この間のように襲われることもないだろう。
「あ、木葉くーん。今帰り?」
スーパーの近くで、声をかけられる。知った声で、とても安堵する。
それは、手を振りながらこちらに寄ってくる桃井さんのものだ。
最近は、スーパーの近くでもちょいちょい声をかけられる。以前は夜のコンビニバイトだけだったが……まるで狙ったかのように。
まさか本当に狙ったわけではないだろうが。偶然ってすごいな。
「こんにちは。ええと、桃井さんは……」
「わ、私はほら、買い物をね。ね」
言いながら、桃井さんは手に持ったエコバッグを見せてくる。
ただし今回は買い物はしておらず、どうやら今から、といった感じだ。
「せっかくだし、一緒に買い物して行こうよ」
「はい、そうですね」
こうして、平日学校帰りに桃井さんと買い物をする頻度が増えた。
大学生である桃井さんと高校生の俺とでは、授業終わりの時間も全然違う。本当にすごい偶然があるもんだ。
桃井さんとは、学校での話をしたり……当たり障りのない会話をしている。
ちなみに、俺が美愛さんに命を狙われたって話は、していない。もう終わったことだし、話したからって余計に心配させるだけだ。
特に、桃井さんと篠原さんは仲がいい……娘さんと接点はないが、知れば絶対気まずくなる。
「最近、忍ちゃんとは……うまく、やってるの?」
気になるのが、最近久野市さんの話題になることが多い。
同じアパートに住んでいる者として、気になるのだろうか。でもそれなら、本人に聞けばいいのに。
……ま、本人に聞いただけじゃわからないこともあるか。
「うまく……まあ、仲良くやれてるとは、思いますよ。いろいろ助けてもらってますし」
「ふぅん……?」
「な、なんです?」
「別にぃ?」
買い物中、そして帰宅中もそんな会話をしながら、いつの間にかアパートにたどり着く。こうして話していると、時間があっという間に過ぎていくのを感じる。
桃井さんと別れ、俺は自分の部屋へ。
鍵を開け、ドアノブを回して扉を開く……誰もいない室内を見ると、少しだけ寂しくなってしまう。
とはいえ、一人暮らしを始めて結構経つ。いい加減慣れないと……
「主様ー」
「うぉぅ!?」
背後からの声に、俺は短く悲鳴を上げてしまった。
同時に、反射的に振り返って後ずさり。
玄関……そこに、にこにことした表情で久野市さんが立っていた。
「ま、またこのパターン!? それ心臓に悪いからやめて!」
「えへへ、すみません。なんだか主様の驚いた表情見ていると、胸の奥がゾクゾクしちゃいまして」
謝ってはいるが、あまり悪びれた様子がない。
最初、出会った頃に比べると結構距離感が縮まったように思う。しかし、同時に変ないたずらもしてくるようになった。
今のように、いつの間にか部屋の中にいるパターンがそれだ。心臓に悪い。あと変な扉を開かないか心配だ。
「主様、今日もご無事に帰宅出来てなによりです!」
「あぁ、うん、そうね」
美愛さんの一件があってから、久野市さんの監視……じゃなくて警戒はより強くなった。
だが、四六時中一緒にいるわけではない。下校中だって、一緒にいたのではなく……離れたところから、俺を見守っていたのだという。
その方が、俺だけでなく俺を狙おうとしている奴の居場所もわかるのだとか。
「ご安心ください、主様のお命はこの私、久野市 忍が命に代えてもお守りしますから!」
えっへん、と胸を張る久野市さん。
正直、その気持ちは嬉しいけど……命に代えて、なんておおげさなことはやめてほしいなぁ。
久野市さんに助けられた俺が言えたことじゃないけど、もう少しでもいいから自分のために時間を使ってほしい。
「って言っても、聞かないんだろうなぁ」
「? なんです主様、そんなに私の顔を見つめて」
「なんでもないよ。これからもよろしくって、そう思っただけ」
「はぁ……変な主様ですねぇ」
ある日突然やって来た、久野市さん。最初は不審者扱いをしてしまったが、今となってはすっかり信用している。
彼女がいたから、今俺はここにいる……その感謝の気持ちを、忘れたことはない。
命を狙われるようになってしまったこの状況が良いとは、口が裂けても言えないけど……久野市さんと会えたことは、間違いなく俺にとっての幸福だ。
「私の方こそ、これからも末永くよろしくお願いしますね!」
にかっと笑う少女の顔に、俺は胸の奥がじんわりと熱くなっていくのを、感じていた。
―――完―――
あとがきへ続きます。




