第64話 わりとお似合いなんじゃねえか?
買い物を終え、帰宅途中の道。
先に前を歩く久野市さんと桃井さんは、楽しそうに話をしている。
それで、俺の隣を歩く火車さんはというと……
「で、どうだったんだよ」
と、聞いてきた。ニヤニヤしながら。
それがなにを指しているのか……わざわざ説明されるまでもない。
今日は元々、桃井さんへの日ごろのお礼のために手料理を振る舞った。
その際……言い方は悪いが邪魔が入らないように、火車さんには久野市さんを連れ出してもらっていたわけだ。
つまり、今日の桃井さんへのお礼は火車さんの協力あってこそということだ。
なので、火車さんが桃井さんへのお礼の結果を気にするのは、当然とも言える。
「うん、うまくいった。火車さんのおかげだよ、ありがとう」
「おおう……素直に感謝されると、なんかむず痒いな」
……素直に感謝、か。
火車さんは一度、俺の命を奪おうとした。そんな相手に感謝するなんて、おかしな話だ。
素直なお礼に若干恥ずかしそうにしているのが、なんだかかわいらしい。
「それで、今度は……」
ふと、前を歩く久野市さんが気になった。彼女の聴覚は、恐ろしく良いのだ。
今は桃井さんと楽しく話しているが……もしかしたら聞き耳を立てているとも、限らない。
なので、万全を期して俺は、携帯にメッセージを打ち込む。
『久野市さんに感謝のお礼をしようと思って、お礼の品を買いに来た』
これを、火車さんに見せる。
久野市さんは目も良いが、いくらなんでも自分の後ろの、携帯の中の文章まで見ることはできない。
文章を見て、火車さんは納得したようにうなずいた。
「なるほど。だから、香織っちと一緒におデートしてたわけだ?」
「で、デートじゃないっ」
この子は、すぐにからかってくるんだから。
殺し屋だと判明した後もする前も、こういった面はたいして変わらない。
それが少し、安心するところでもあるんだけど。
「で、目当てのもんは買えたのか?」
「うん。頃合いを見て、渡すつもり」
買ったのは、香水。これも、ほとんど桃井さんに選んでもらったようなものだ。
正直、自信はない。いや、誰かにお礼をすることに関して、誰も自信というものはないのかもしれない。
それでも、これなら喜んでもらえるかな……と考えながら選ぶ過程は、大切にしたいと思う。
「木葉っちって、結構女たらしだったんだなぁ」
「なんの話」
「いやぁ。香織っちに、あの女だろ。なかなかやるねぇ」
「いや、ただのお礼だってば」
「へいへい」
わかっているのかいないのか、火車さんは笑っていた。ケラケラと。
なんだか、とんでもない誤解をされているような気がするなぁ。
それから他愛もない話を続け、俺たちはアパートへとたどり着く。
「さて……ところで火車さんは、なんで家まで着いてきたの?」
「あぁん? 茶くらい出せねえのかよ。協力してやったろ」
「さっきお菓子買ってあげたじゃん」
「さー、なんのことだかな」
「……」
家にまで着いてきた火車さんだが、協力したと言われれば無下にすることもできない。
なので、火車さんにはお茶でも出して、帰ってもらうことにしよう。
「ありがとうね、木葉くん」
買い物をした分の、桃井さんの分を彼女に渡す。
その際、桃井さんは財布を取り出し、その中からお金を取り出していた。
「はい、さっき出してもらった分ね」
「ありがとうございます。おつりを……」
「いいってそれくらい取っといてよ」
「いや、でも……」
先ほど払ったものより多い分を貰い、俺はおつりを返そうとしていたのだけど……
おつりは取っておいて、という桃井さんはそそくさと、荷物を持って自分の部屋に戻っていく。
「よかったじゃねえか、木葉っち」
「でもなぁ……」
「貰えるもんは貰っとけっての。本人がああ言ってんのに返すのは、逆に失礼だぞ」
火車さんの言葉に乗せられて……というわけでもないけど、その通りかもしれないと思い、貰った分のお金を財布にしまった。
もしかして、桃井さんは最初からこのつもりで俺に払わせたのかもしれない。
逆の立場だったら、俺も多めのお金を渡していただろうし。
「あ、そうだ」
「?」
部屋の前まで戻り、扉を開ける……その直前、なにかを思い出したかのように、桃井さんは振り向いた。
「今日はありがとうね、嬉しかった」
にこっと笑って、俺に対しての感謝を、告げたのだ。
「あ、は、はい」
その笑顔に、つい見惚れてしまった。
桃井さんが部屋に入っていった後も、しばらくぼーっとしてしまうくらいに。
「主様?」
「! な、なんでもない! 戻ろうか」
「? はい」
久野市さんに話しかけられ、俺は正気に戻った。
不思議そうな久野市さんに対して、ニヤニヤ笑っている火車さんの顔が気になる。
「へー、ふーん、そういうこと」
「……なにさ」
「べっつにー? 香織っちになら、そうなっても仕方ないなって思っただけだよ」
……火車さんめ、完全にからかっているな。
「まあ、わりとお似合いなんじゃねえか?」
「……そんなこと、ないよ。それに桃井さんには、彼氏がいるみたいだし」
「香織っちに? ふぅん」
火車さんはなぜか、意味深に唸っていた。




