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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

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第65話 おめえさんには聞かせられない、男女の大切な話さ



「おじゃましまー」


「お邪魔します」


「どうぞ……って、なんで久野市さんまで!?」


 桃井さんと別れ、俺と火車さんは俺の部屋へ……

 のはずだったが、なぜか久野市さんも着いてきてしまった。


 久野市さんは、きょとんとした表情を浮かべている。


「いえ、その女と主様を二人にするのは、危険だと思いまして」


「おいおい、まだ私が木葉っちの命を狙ってると思ってんのかよ?」


 久野市さんは火車さんを指して、その女……と称した。

 俺の命を狙った前科のある火車さんだ、そういう反応になってしまうのもおかしくはないのかもしれないけど……


 火車さんも久野市さんのこと名前で呼ばないし、一緒に出掛けたのに全然仲が深まってない!


「言ったろ、んなことしねえっての」


「それは、口ではなんとも言えるでしょう」


「はっ、信用無いねえ」


「あるとでも?」


 あの日から、火車さんが俺の命を狙う気配はない。

 まあ、元々あの日までそんな気配はなかったんだけど。殺し屋だなんて、正体を明かされるまで気付かなかった。


 そういう経緯から、久野市さんは火車さんを心から信用してはいない。

 俺も……正直、心からって言われるとなぁ。

 でも、クラスメイトとして仲良くやって来たんだから、あんまり険悪なのも悲しいな、とも思うのだ。


「ま、別にいいけどな。木葉っち、茶ぁ」


「はいはい」


「あ、私がやります!」


 勝手知ったる様子で適当に腰を下ろした火車さんは、図々しくもお茶を要求してくる。

 とはいえ、火車さんの協力のおかげで今日は助かったんだ。多少のわがままは見逃そう。


 冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出していると、横から久野市さんが手を差し出してくる。

 自分がやる、ってことなんだろう。それでも俺からひったくらないあたり、無理やりはしたくないのだろう。


「じゃあ、お願いするよ」


「はいっ」


 お茶を受け取り、てきぱきとコップを取り出す久野市さん。

 何度かやっているからだろう。もう、慣れた様子だ。最初の頃は、右へ左へとそりゃおかしかったもんだ。


 三つのコップがテーブルに置かれ、俺、久野市さん、火車さんの順にお茶が注がれる。


「おいおい、こういうのは私か木葉っちが先で、自分は一番最後にやるもんじゃねえの?」


「そんなものは知りません」


 ……取り付く島もないな。こりゃ火車さん、久野市さんとのお出掛け中かなり気まずかったんじゃないだろうか。

 いやほんと、いっそう感謝するべきかもしれない。


 冷えたお茶を、一気に喉に流し込む。

 うぅん、やっぱり冷えたお茶は最高だな!


「それで……二人でこそこそと、なにをやっていたんです!?」


「!?」


 いきなりの久野市さんの言及に、俺は口の中に残っていたお茶を吹き出しそうになった。

 なんとか耐えるが、気管に入り込み思い切り咳き込んでしまった。


「げっほ、げほ!」


「わぁあ、主様! 大変!」


 俺が咳き込んだのを見て、慌てたように久野市さんはおろおろする。

 それから部屋を移動すると、タオルを引っ張り出してきて俺に差し出す。


「どうぞ、主様!」


「あ、ありが……ぅえっほ!」


「喋らなくていいですから!」


 俺は受け取ったタオルを口元に当て、落ち着くまで咳き込んだ。

 終始心配そうな表情を浮かべる久野市さんと、終始無表情で見つめてくる火車さんの対極した表情が、印象的だった。


 しばらくして、ようやく落ち着く。


「ふぅ……」


「申し訳ありません、私がいきなり話しかけたから」


「いや、久野市さんのせいじゃないよ」


 しゅんとしてしまう久野市さんだが、久野市さんに非はない。

 俺が咳き込んでしまった理由は、やましいことがあるからなのだから。


 やましいと言っても、それは人に言えないようなことではない。

 日々の感謝を桃井さんに伝えるため、火車さんに久野市さんを連れ出してもらった。そこまでならまあ、今更隠すことでもない。


 問題はその後だ。


(久野市さんへのプレゼントを買った、ってのは……本人に言いにくい)


 桃井さんへの食事をプレゼントした後、久野市さんへのプレゼントを買いに桃井さんと外出した。

 プレゼントを買いに行っていたのだと、本人に話すのは……なんと、言いにくいものだろうか。


 もちろん、買った以上プレゼントは渡す。その際に話そうとは思っている。

 でも、そのタイミングをどうするか……

 この流れで、っていうのも違う気がするし。


「木葉っちと香織っちは、だーいじな話をしてたんだよ。な、木葉っち」


「え? あ、まあ」


 ここで、黙ったままだった火車さんが口を挟む。

 俺への助け舟のつもりだろうか……正直助かるけど、なんか含みのある言い方だな。


「だ、大事な話!?」


「おう。おめえさんには聞かせられない、男女の大切な話さ。なあ?」


「え? そうと言われれば、そうだけど……」


 久野市さんに聞かせられない話……少なくとも今は、それに間違いはないし、男女間の話でもある。俺と久野市さんの話だし。

 だけど、それを聞いた久野市さんはショックを受けたような表情を浮かべている。

 そして、キッと火車さんをにらんだ。


 火車さんは火車さんで、意味深に笑みを浮かべている。

 それから、俺に流し目を向けて……俺は、今のやり取りの意味を改めて考える。


 ……あ!


「ち、違っ! なに誤解させるようなこと言ってんの!?」


「えー、なにがあ?」


 火車さんめ、完全に楽しんでいる……!?

 久野市さんも、ちょっと涙ぐんじゃってるし!?

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

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