表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/83

第53話 つんでれってやつですね!?



「さて、と。材料も買ったし、早速作業に取り掛かるか」


「とりかかりましょー!」


「あぁ。

 ……ところで、なぜここにいる?」


 オムライスの材料、あとついでに日用品なんかを買って、帰宅した。

 お世話になっている桃井さんへの感謝を込めて、手料理を振る舞う。それが、今回のミッションだ。


 とりあえず、作るからにはうまいものを振る舞いたい。

 ぶっつけ本番というわけにもいかないので、まずはうまいものを作れるように練習しないといけない。

 なので、今日の晩飯も兼ねてオムライスを作るつもりだったが……


「キミの部屋は隣だろう?」


 キッチンに立つ俺の隣には、なぜか久野市さんがいる。一人暮らしの部屋のキッチンだ、二人で並ぶには狭い。

 なので、女の子特有のいい匂いがするし彼女の肩がちょっと触れたりしてドキドキしたりとか……そ、そんなこと思ってないんだからな!


 久野市さんは以前まで俺の部屋に住んでいたが、それではダメだろうということで一時的に桃井さんの部屋へ。

 一時的というのは、俺の隣の部屋の後藤さんの引越し作業が終わるまで……そして、それは完了し、久野市さんは隣の部屋に住み始めたはずだ。


「俺はやることがあるから。自分の部屋に帰りなさい」


 結局買い物に付き合わせてしまっ……いや、勝手に着いてきたのだから、付き合わせたもなにもないのだが。

 そんな彼女には、買い物の理由を話してはいない。


 その理由が、桃井さんへのお礼だと知ったら……なんというか、ちょっとめんどくさそうなことになりそうなのだ。

 なので、一人でじっくりとやりたいのだが……


「……私、迷惑、ですか?」


「……!」


 沈んだ顔で、若干の上目遣いでそんなことを言われては……はいそうですなんて、言えない。


「迷惑じゃ、ないけど……っ、はぁ。

 ただオムライス作るだけだから、あんまりおもしろくないぞ」


「はい、私は隣で見ています。それに……ふふ」


 料理しているのをただ見ているだけで、楽しいものなのだろうか。

 そんな疑問は、突然笑みを深めた久野市さんの表情によりさらに大きくなった。


「どうした?」


「いえ……ちょっと思い出しちゃって。

 私がここで初めて作った料理も、オムライスだったなと」


「……そうだっけか」


 言われて、思い出す。久野市さんが押しかけてきた日のことを。

 突然主様なんて言って押しかけてきて、忍者だなんて意味のわからないことを言い始めて。なんだかんだあって、メシを作り始めて。


 彼女が作ってくれたオムライス……自分以外の人がキッチンで料理を作ってくれて、それを食べる。

 それがとてもおいしくて、あたたかくて、嬉しかったことを覚えている。


「あ、もしかしてあのときのお返しですか!? なんちゃって!」


「違うっての。

 ……ま、作りすぎたなら、分けてやらんこともないけど」


「主様……」


 ……考えてみれば、俺は久野市さんになにかお返しをしただろうか。

 世話になったから桃井さんにお礼を、という意味があるなら、命を助けてくれた久野市さんにも同様にお礼をする義理がある。


 まあ、素直にお礼をしたいと言ったところで、久野市さんは遠慮して断りそうなものだが……


「今の、つんでれってやつですね!?」


「……どこで覚えたのそんな言葉」


「クラスの女子に教えてもらいました!」


 ……仲のいい子ができるのは結構なことだが、なにをどうしたらツンデレがどうのという話になるのか。

 俺は、卵を割りそれを溶きつつ、軽くため息を漏らした。


 隣では、俺の手元……いや顔……とにかく俺のいろんなところを見てくる久野市さん。

 なんていうか、誰かにじっと見られながら料理をするというのは、落ち着かない。


「わぁ、いいにおいです」


「まあ、においはな……」


 いかんいかん、集中しなければ。今の俺は、桃井さんへのお礼のその練習中なのだから。

 練習とはいえ、本番のつもりでやらなければ……


 ……あ、そういえば、本番のときはどうやって渡そう。

 いや、無難に考えるなら、家で作ったものをタッパーかなんかに入れて、おすそ分けだと持っていくのがいいのだろうが……それだと、なんか味気なくない?


 それに、できることなら出来立てを食べてもらいたい。いくら同じアパート内とはいえ、移動中に少しばかりでも冷めてしまう。

 でも、出来立てをとなると……方法は限られてくる。


 そう、出来立てを振る舞うということは、彼女の目の前で料理を作るということ。

 つまり、この部屋に桃井さんを呼ぶか、もしくは桃井さんの部屋に行って料理をするということになる……桃井さんの、目の前で。

 もちろん、今の久野市さんのように隣で見学するわけではないだろうが、桃井さんの前で、料理……桃井さんの前で……


「主様、主様。これ以上炒めたら焦げちゃいますよ?」


「! あっ」


 隣から聞こえた声に、意識を取り戻す。

 フライパンの上では、ご飯、ケチャップ、お肉やニンジン、玉ねぎと少々の具材をかき混ぜていたが、長く火に当てすぎてしまったのか少し焦げ臭いにおいがしていた。


 急いで火を止める。見た目には、大きな失敗には見えない。

 さらにフライパンで卵を焼き、盛り付けていく。


 見た目は、悪くない出来だ。ちょっと焦げ臭いにおいがすることに目をつぶれば、いい出来だと言えなくもない、が……


「集中しないと、って思った矢先にこれかよ……」


 これなら、普段作っていたもののほうが何倍もマシだ。俺は額に手を当てて、深いため息を漏らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ