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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

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第52話 主様とお買い物〜♪



 さて、時間は過ぎて放課後に……

 桃井さんへ感謝のオムライスを作ることに決めた俺は、学校帰りに近くのスーパーに寄っていた。そして、ここにいるのは俺だけではない。


 きれいな黒髪を揺らし、隣で鼻唄を歌っている女の子……


「ふんふんふ〜ん、主様とお買い物〜♪」


「……前見て歩かないと転ぶよ」


 かごを持ち、売り場を歩く俺の隣で、今にもスキップしそうなくらいの勢いで足を進めているのは、久野市さんだ。

 今口に出したように、俺との買い物がとても嬉しいらしい。


 それ自体は、俺としても気恥ずかしくも嬉しい。ただ、あまり騒がないでほしいのが現状だ。

 なんせ、こんなところをクラスメイトにでも見られたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。


 だが……



『え、主様お買い物に行くんですか!? 私も行きます! 学校では全然話せませんでした! 主様との時間を取り戻したいです! 連れて行ってくれないなら、主様は私の主様だってクラスのみんなに暴露します!』



 ……なんて言われてしまったら、連れて行かないわけにはいかない。

 こっそりと買い物に出かけようと思っていた俺に、久野市さんがこれまたこっそり話しかけてきて……買い物に行くと正直に話したら、とんでもない脅しを貰った。


 転校してきたばかりの女の子と二人で買い物をしている……というのは、見られたら説明が非常に面倒になる。

 さすがに高校生で、放課後にやることと言えば部活か帰宅だろうから買い物姿を見られることはない……と思いたい。


「大丈夫ですよー、忍たるもの不用意に転んだりなんかしません」


「あんまそういうこと外で言わないほうがいいんじゃないかな?」


 久野市さんは、自分が忍者だって隠していると言っていたが、本当にそのつもりがあるのか疑問に思うことがある。

 名前だって、久野市 忍なんてもろだしな名前だし……いや、かといって偽名使えってわけじゃないけどさ。


 当の本人は、いったいなにを考えているのか。まあ、実際に私忍者ですって言ったところで、頭のおかしい子だと思われるだけか。


「えぇと、卵卵……」


 まあ、久野市さんのことは置いておいて。買い物に来た理由を完遂しなければ。

 オムライスを作るには、ざっと卵、ケチャップ、ご飯が必要だ。もちろん、他にもお肉やパセリなどとアレンジを加えたりもする。


 だがまずは、卵を入手しないとな。最近は卵も高くなってきたし、一人暮らしの身ではそうほいほい買えるものでもない。

 卵は万能食べ物だから、買わざるをえないときもあるんだけどな。


「主様主様、卵をお求めになるんですね、珍しい」


「……あんまり外で主様言わないでほしいかな」


 卵を買い物かごに入れたのを覗き込み、久野市さんが言う。少しドキッとしてしまう自分がいる。

 いやいや、ただ卵を買っただけだ。別に、これだけで誰かに料理を作る、なんてバレるはずもない。


 それよりも、だ。外での主様呼びはやめてというのに……


「大丈夫ですよー、これだけ人が周りにいて小声なら誰も気にしません」


「それはそうかもしれないけど……」


 久野市さん的にいろいろ考えているのか、声のボリュームは抑えているようだけど。それでも、ハラハラしてしまう。

 同じ学校の制服を着た異性に、主様呼びさせているなんて……とんでもない変態じゃないか。


 それに……と、久野市さんは続ける。


「こ、木葉さんって、名前呼ぶの……ち、ちょっと、恥ずかしいです」


「お、おう……」


 なんていじらしいことを言うものだから、これ以上はなにも言えなくなってしまう。

 この子、恥ずかしさの境界がどこにあるのか、いまいち掴めないんだよな……


 とはいえ、学校や私生活でも、周囲に人がいる間は名前呼びをしてくれるとのことなので、助かっている。

 学校ではなかなか構ってやれないので、少しくらいはこの子の言うことも聞いてあげようとは思う。


「そういえば、クラスの女子たちと結構話していたけど、仲良くなったの?」


 材料をかごに入れつつ、久野市さんに聞く。彼女は転入生ということもあって、あっという間にクラスの人気者だ。

 そして、クラスの女子たちがちょくちょく話しかけて、校内の案内なんかもしていた。


 無理やりされている……ということなら問題だが、久野市さんの様子を見るに……


「うーん……仲良く、かはわかりませんが……悪い人たちではないって、思います。

 私、これまで村で、忍びとしての訓練ばかりしてきましたから……同年代の子たちと遊んだことも、なくて」


 久野市さんは俺と同じ村に住んでいたようだが、彼女の姿を見たことがない。

 今更久野市さんが嘘をついているとは思わない……彼女の言うことが正しければ、その忍びの訓練とやらで、同じ年の子と遊べなかった。


 だからだろうか。ああも大勢のクラスメイトから話しかけられて、戸惑っているように見えたのは。


「でも、イヤじゃなかったんでしょ?」


「それは……はい」


 戸惑っても、イヤじゃなかった。今はそれで充分だろう。

 俺だって、上京してきた頃は不安でいっぱいだったが……一人だった俺にルアが、そして火車さんが話しかけてくれたんだもんな。


 久野市さんにも、そんな仲のいい相手ができるだろう。


「! 主様主様、これはなんですか!?」


 なんかいい話をしていた気がするが、ふと立ち止まった久野市さん。なにかを見つけたのか、棚の一部に釘付けになっている。

 なにか気になるものを見つけたというのか。ここは……お菓子売り場か。


 はは、お菓子が気になるなんて、子供っぽいところもあるんだなぁ。めっちゃ目を輝かせている。


「せっかくだし買ってあげるよ」


「いいんですか!」


 普段ならば、恐れ多いからと断りそうなものだが……よほど気になったのだろう。

 久野市さんは、それを手に取り、かごに入れた。


 ポ◯キーだった。おいしいのは当たり前だが、なにがそこまで彼女の琴線に触れたのだろう。

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