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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

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第50話 なんかいろいろと違うから!



「なるほど、あの女ってのは……あの大家のことか」


「!」


 俺を見てニタニタと笑う火車さんは、俺が手料理を振る舞いたい相手に予想をつけて、その名前を出す。出来れば、無反応で通したかったけど……

 ほとんど条件反射で、肩が跳ねてしまった。その仕草を、当然火車さんは見逃さない。


「大家……紅葉、知ってるのか?」


「あぁ、まあこないだちょぉっとな。なー、木葉っち」


「くっ……」


 本来であれば、高校生の火車さんと、大学生の桃井さんに接点はない。

 だけど、久野市さんを接点として、つながりができた。つながり、というほど、たいそうなものでもないかもしれないが。


 桃井さんは、火車さんが殺し屋だってことを知ってしまった。火車さんのほうも、桃井さんがどういう人物かくらいはわかったはずだ。


「大家……え、大家さんって確か、おじいさんだって話じゃなかったっけ。

 ……木葉……」


「え……あ、いや、ちが! なんかいろいろと違うから!」


 なにをどう誤解したのか、ルアの俺を見る目に変化があった。それは、なにかとてつもなく恐ろしいものを見るような目。

 そして、その理由は考えれば予想はつく。ルアには、俺の借りているアパートの大家さんがおじいさんであることは話したが……


 その孫娘が現在、大家代理をやっていることまでは話してはいない。

 つまり今ルアの中では、俺が大家のおじいさんに感謝の手料理を振る舞いたい、と思われている。それ自体は、全然変なことじゃないが……


 手料理を振る舞いたい相手を『女』だと言っていたせいで、なんかとてつもない誤解が生まれてしまっている。


「言ってなかったけど、今の大家さんは、前に話したのとは別の人なんだよ!」


「……別?」


「大家さんの孫娘さんが、今大家代理をやってくれてるんだ! だから、お礼ってのはその人にってことで……」


「……なぁんだ。オレはてっきり、木葉が男のご老人を女扱いして貢ぎ始めたのかと……」


「誤解が解けてなによりだよ……」


 あのまま誤解されたままでは、ルアの中で俺の扱いが決定的に変わってしまっていたことだろう。

 とにかく誤解を解けたことで、一安心だ。


 隣では、火車さんがケラケラと笑っていた。


「あははは、あっははははは!」


「そんなに面白いかね」


「人の感性はそれぞれだから」


 まあ、火車さんのことは放置しておくとしよう。

 さて、なんにせよ、料理には気持ちが重要だと教えてもらった。実際に気持ちを込めたところで桃井さんに喜んでもらえるかはわからないが……


 やらない理由は、ないよな。


「それで、なにを作ろうってのは決めてるの?」


「それが……どうしよう」


 結局のところは、それだ。いくら気持ちを込めようって決めても、そもそもなにを作るかって話だ。

 桃井さんの好物を、できれば作ってみたいが……


「なにも知らない……」


 好きなものも、嫌いなものも。桃井さんと過ごす時間は、おすそ分けをくれるために部屋に訪れたり、バイト帰りに一緒になったり……少なくはない。

 だが、お互いの好き嫌いの話になったことが、ない。


 はぁあ、こんなことなら、それとなく聞いてみるんだった。どうも、桃井さんを前にすると緊張してしまった、好みを聞くってことにはならなかったんだよな。


「作ってもらった方は、なんでも嬉しいと思うぞ? よほど嫌いなものでもなければ」


「その、よほど嫌いなものを作ってしまったらどうしよう」


「香織っちは、オムライスが好きだってよ」


 桃井さんなら、なにを作っても喜んではくれるだろう……だが、それではダメだ。本気で、本当に、喜んでもらいたい。

 そのため、作るものは好きなものでありたい……と、思っていたところで……


 今、聞き逃せないものが、聞こえた。


「……なん、だって?」


「へぇ?」


「へぇ、じゃなくて! 今、なんて言ったの!」


 とぼけたように笑う火車さんだが、今のは聞き逃してはいけない言葉で。もう一度確認しないといけない言葉だ。

 彼女に詰め寄ると、少し驚いた様子で……


「ま、マジになんなよ……オムライス。オムライスが好きだって言ったんだよ」


「オムライス……」


 卵料理が好き、などという曖昧なものではない。はっきりと、料理名を口にした。

 それが本当なら……これで、作るものが決まったってことか!


 しかも、オムライスならわりと簡単に作れそうだ!


「ん? ってかさっき、香織っちって言わなかった?」


「あぁ。連絡先交換したんでな」


 呼び方を不思議に思うと、火車さんはスマホを掲げ、ひらひらと見せつける。

 その、言葉の内容に……頭の理解が追い付かないのは、俺がバカだからだろうか?


 ……連絡先を、交換した? それも、俺やルアのようなあだ名で、呼んでいる?

 なにがどうしてそうなった。そして、桃井さんはどうしてそれを受け入れた!? 殺し屋と知った相手と連絡先交換したの!?


「ちょくちょく連絡取り合ってんだよ。で、好きな食べ物の話になったんでそれで知ったってわけ」


「なんつーか、すごいな桃井さん」


 桃井さんってば、結構大物なのかもしれない。俺も火車さんの連絡先は知っているけど、それはもちろん火車さんの正体を知る前の話だ。

 他にはルアや、篠原さん……桃井さんの連絡先も知っているけど、連絡はほとんどしたことがない。


 ……あ、そういえば、久野市さんの連絡先知らないなぁ俺。


「ま、なんにせよ、好きなものがわかったなら、それを作ることにするんだろ?」


「ん、そうだな」


 なにはともあれ、火車さんのおかげで、桃井さんの好きな食べ物がわかった。

 あとはこれを作って、彼女にごちそうするだけだ!

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

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