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85、グランベル戦記(3)

 一行は帝国領を北上し、真ん中ほどにあるセントラルフィアの街までやってきた。帝都ロイヤルベルまではあと二日ほどの距離だ。

 外も暗くなってきたので適当な酒場へ入った。


「魔貴族は城の中。つまり皇帝の元にいるってことでいいんだな?」


「はい」


 ヨルコの話では今、帝国は内乱の状態にあるという。前宰相の軍が反乱を起こし、帝国軍と戦っている。帝都の北半分は戦場になっているという。


「内乱の混乱に乗じて封印するしかないんだろうな」


「ねえ、封印ってどうやるの?」


 リュゼが尋ねる。


「まあ、殺すってことになるのかな。あるいは説得して力を手放してもらうか」


「……」


 ヨルコは黙っている。そのとき。


 カランカラン――。


 ドアが開いて客が入ってきた。

 物々しい格好をした二人組だ。帯刀している。


「帝国軍様が来たぞ。酒を出せ」


「お客様、申し訳ありません。ただいま満席でして」


「では空けてやろう」


 そういうと二人組の片方が剣を抜いてそばのテーブルへと歩いていった。そしてそこに座る客の前で剣を振り上げる。


「お客様!? おやめ下さい!」


「おいおい、何する気だ。まずいだろそりゃ」


 ルインが立ち上がり、止めに入ろうとした、そのとき。


 バァン!


「ち、やってやがる」


 一人の若い男が突然、店に入ってきた。手には黒い木刀を携えている。それをおもむろに振り上げると。


 ビュオ――。


 キンッ、と音を立て、帝国軍の男の振り上げられた剣を弾いた。男はその場で身を沈めたかと思うと、一瞬で間合いを詰め、テーブル席のそばまで踏み込んでいた。続けて黒檀を再度、振り上げる。


「粗相が過ぎたな」


 そう言って黒檀を振り下ろす。揺るぎない殺気が込められている。そこへ――。


 ギイン!


 両手で掲げたフォークが振り下ろされた黒檀を受け止めていた。

 ヨルコが割って入った。


「なっ、フォーク!? あなたは――、ヨルコ様!?」


「ヨルコだとっ!?」


「ひっ」


 帝国軍の男たちは慌てて店を出ていった。

 店内が静まり返る。客が皆こちらを見ている。

 男は静かに言った。


「ヨルコ様。戻ってきてくれたのですね」


 ヨルコはフォークを握ったまま何も言わずに黙っている。


「おいおい、何だ。状況がわからねえよ」


 ルインが周りを見ながら言う。


「あなた方は、お連れの方たちですか。このお方はヨルコ・リフォルウィッチ様。グランベル帝国の、前宰相です」


「何だって!?」


 一行が驚くと。


「サイショウってなに?」


「皇帝の次に偉い人だよ」


「ふうん」


 リュゼの問いにアクセルが答える。

 男は名をクライスといい、反乱軍の一員だという。帰還したヨルコを迎え入れ、反乱軍の士気を高めたい。クライスはそう言い残して外で待つと言った。


「あんた、宰相だったのか。言ってくれよ」


「すみません」


 帝国には五隊の軍隊がありディラン率いる二番隊とアイギナの四番隊が反乱を起こしているという。クライスはディラン隊のフェンサーだという。


 外に出るとクライスが待っていた。すっかり夜だ。一行は宿を取ることにした。クライスも仲間に加わった。

 空いている安い宿に部屋を二つ取った。男と女で別れる。

 その晩、アクセルたちはクライスから詳しい事情を聞くことになった。

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