65、暗闇
食堂は混雑する時間を過ぎると照明が半分落ちるようになった。端にある俺たちの席は薄暗い。座卓の上は片付けられ、俺たちはそのまましばらく残っていた。最近は閉店間際までここにいて、人が誰もいなくなった風呂に入り部屋に戻る。そういう流れになっていた。
「スキル表を見て思ったのですが、剣技って意外と少ないですね」
俺は気になったことをまた尋ねてみた。
「剣を使う冒険者は少ないからだ。剣なんぞ使わなくても殴殺一本で冒険者は人を殺せてしまう。あんなかさばるものを持ち歩く意味はない」
「対人でスキルの使用は絶対に禁止ですものね」
「攻撃スキルは打点が自分の体であるのがほとんどだ。金属のような異物にイメージを這わすのは難しい。剣技は斬撃を打撃に変える【木立】と衝撃を飛ばす【剣圧】しかない」
確かにスキル表にもその二つだけだった。
「殴殺が発見された時点で殺傷能力は素手が剣を超えた。おまけに防御面では閉鎖陣形の存在が大きい。閉鎖陣形は剣や銃弾などの異物のみ防ぐ。この二つの発見で剣は廃れた。戦場における一番の高みは至近距離での冒険者同士による殴り合いだ。それにこれはやった者にしかわからないことだが、剣での仕事は後味がすこぶる悪い。辺りは血だらけだし、斬撃で終わらせるっていうのはとても気分が悪い」
「なるほど。俺は実戦経験があまりないのでわかりませんが」
「いや、今言ったことは感覚でわかるだろう。お前は経験はないがセンスはある」
「そうなのでしょうか」
「冒険者にとって剣は何もいいことがない。剣は死にスキルだな」
「剣は死にスキル……」
俺は言われたことを反復した。確かに剣は差している者も売っているところも見たことがない。
「型が美しいから伝統的な武道として剣は受け継がれているよ。殺し合いの道具ではなくなった」
そう言って一息ついた。
猿田は色んな戦場を経験しているようだ。以前は犯番と呼ばれる仕事もこなしたという。犯番は主に罪人に当たらせる危険な仕事だ。たまたま生き残ってるよ、と笑いながら言う。
猿田とノエルはときどき談話室で将棋を指している。
自分の番の間、呼吸を止めるという、文字通り息の詰まりそうな将棋をやっている。
他にも俺の気付かないところで何かやっているかもしれない。
悪魔が来るかもしれないから仕方ない。気を緩めるわけにはいかない。悪魔の件が片付いたらもっと肩の力を抜いて彼らと生きていきたいという思いにまた行き着く。
食事が済んでお開きになるとみんなそれぞれの部屋に戻った。遅い風呂に入って自分の部屋に戻ると俺は照明魔法を座卓の上に置き、日記を書き始めた。この部屋に来て程なくして俺は本屋でノートとボールペンを買って日記をつけている。
フクメンが壁に寄りかかっている。果歩からもらった多幸のお守りをフクメンの首にかけていた。フクメンの滑稽さが増してしまった。部屋から出すわけでもないからいいだろう。
――あふれる思い。あのときの君を思い出してる、苦しいほどに。
――音がない未来、何もかも置いてきたよ。君が振り返る。今はまだそっちには行けないと微笑う。
――運命だって。変えてみせる。僕の手でいつかきっと。悲しませて。ごめんという。君の目に涙伝う。
携帯に入っている歌を鳴らせた。「光へ」という名前の歌だ。この曲を聴くと果歩を思い出すようになった。日記を閉じて目を閉じる。悲しい歌だ。悲しさと切なさが込み上げてくる。果歩は助からないかもしれない。俺は音を鳴らしながら泣いていた。




