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54、失われた大陸

 本棚には「失われた大陸」全七巻が収まっている。外伝も買った。振り返ってみよう。



 基地は迷宮のようになっていた。全てを把握しているのは長だけだ。ミカエルは記憶を辿りながら先頭を行く。


「俺はケチな盗賊だった。長には金で雇われていただけだ」


「盗賊が減ってお前は飢えずに済む。いいことだらけじゃないか」


「まあ、そうだけど。俺は殺しはやらなかった。後味悪いからな。だが長は平気で殺す」


「平気で殺すなんてものじゃないぞ。大陸の大半が死んだ」


「俺は長のそばにいたから免れたけど。真相は知らされていない」


 回廊を歩いていく。ミカエルのすぐ後にサカモトが続く。


 ドンッ


「ぐおああっ」


 ミカエルが突然後ろに吹っ飛びサカモトが受け止めた。


「何だ?」


 その後ろを歩くリュナも構える。

 ミカエルが鼻血を垂らす。


「今のは小手調べだな。みんな止まれ」


 セイラが前に出る。


「必要ない。ただのかすり傷だ」


「いでええ、必要ある」


 全員が腰を低くして構える。前方から何かが飛んでくる。


 ヒュン


 ゴンッ


 壁が抉れた。


「本番だな。みんな気をつけろ。当たったら大変だ」


 風切り音と共に前方から何かが飛んできてどこかに着弾する。落ち着いて目を凝らすと軌道が微かに見える。


「気をつけながら進もう。出所は長だ」


 ミカエルが先頭に立つ。続いてサカモト。

 一列になって歩く。避けると後ろに当たる。ミカエルはヨイチの金属バットを盾にして歩く。

 少しずつ、少しずつ進んでいく。


「何が飛んできてるんだ?」


「おそらくスキルだろう。遠距離打撃、というと【仁王殺】だが威力が違う。よくわからない」


 ヒュン――ドコオ


 僅かに逸れて壁が削れる。威力は相当だ。


 裏技(リプラクティス)は定型技能(プラクティス)の裏のスキルが使える。長が放つのは体術八番、仁王殺の裏スキル、【打空(アトム)】だ。


 ヒュン、ギイン


 ついに目の前に飛んできた。金属バットで受け止めたが、あまりの威力にへし曲がった。衝撃でミカエルが青ざめる。


「バ、バットの予備を」


「もうない」


「何だって、どうするんだ」


 ヒュン、ガァン


 窓ガラスが吹き飛んだ。

 身を隠す場所もない。


「黒語(ブラックウォッチ)があるだろう。タイミングを合わせれば相殺できる」


「本気か!? ちくしょう」


 ミカエルは先頭に戻り一歩、一歩構えながら進む。

 前方に目を凝らす。緊張で手が震える。あんなのを無防備で食らったら怪我では済まない。ここへきて初めて死がよぎる。


 ヒュン


 来た――。


「謀反じゃあああ!」


 ドゴオ


 正面から殴打を合わせた。打空が激突した。


 ブシュ


 拳が潰れた。

 黒語は身体強化ではない。打撃の威力を上げるだけだ。

 ミカエルがその場で俯せる。


「骨は大丈夫か」


「裂傷だけです」


 セイラが回復にまわる。

 そのとき。


 ヒュン――


 間髪入れずに次が飛んできた。

 ミカエルは丸腰だ。軌道はミカエルの顔面だった。眼前に空圧が迫ってくる。当たったら死ぬ――。


「この、カス野郎ー!」


 突如、ミカエルの目の前に立って両手を突き出した。

 全身で打空をもろに受けた護衛隊のアレクがその場で倒れる。


「お、おい、大丈夫か。お前は……」


「隊長……」


「アレク、アレクだろう! 大丈夫か、すぐに回復を」


「隊長。俺ずっと思ってたんです。自分に嘘つきたくない。生きてくために仕方なくコソ泥をやっていたけど、自分に正直に生きてみたかった。悪の手先より、義勇兵の方がいいですね……。最後に、かっこよく死ねて……」


「アレク、おい。死ぬな、アレク!」


 ヒュン――


 そこへ容赦なく打空が飛んでくる。


「このボケナスがあ!」


 今度は回復をしていたセイラ目がけて飛んできた打空を真正面から受け止めた。

 打撃をもろに受けた。

 血を流して倒れた。


「セイラ……」


「大丈夫。二人とも気絶です」


 倒れた二人を介抱する。


「しかし困ったな、打つ手なしだ」


「私が行く」


 リュナが二人の前に出る。

 自由技能(ディスオーダー)を展開する。


 闇属性布陣型【回転(メビウス)】。


 ヒュン――ヒュン――ヒュン――


 ゴッ、ゴン、ガゴン


 リュナに狙いを定められた打空は見えない防壁に反射して周囲に突き刺さる。

 閉鎖陣形(ディフレクト)よりも強い。


「すごいな。どうせならもっと早くやってくれよ」


「護衛隊に散々やられたからな。これでチャラだ」


 足元に倒れる二人を見ながら言う。


「なかなかの男気だった。引き出せたことに感謝してほしいな」


「大陸の王子様は手厳しいな」


 リュナのスキルで打空を防ぎ続ける。そろそろ相手も勘ずくはずだ。埒が明かない。


「こいつをどうするかだな」


「私の源力は十分だが動けない」


 リュナのスキルは立ち止まっていないと発動できない。


「いや、このままでいい。多分向こうから仕掛けてくる」


 リュナが防壁を張り続ける。

 相手のスキルは定型技能だからいつまでも打ってくる。対してこちらは源力だ。しかしその心配はなかった。相手は待つことができない。

 やがて少しの間が開いた後にそれはやってきた。


 ギュン


 ガギイン


 回転が破壊された。


「くっ」


 リュナは腰を落として身構える。破壊されたことは今までに一度もない。ダメージはないようだが今ので源力が空になった。

 次のが来る前に何とかしなくてはならない。


 しかし、次は来なかった。

 いつまで経っても回廊は静まり返っていた。


「終わったな」


「何があったんだ?」


 サカモトが歩き出す。リュナが後に続く。

 暗闇を慎重に進んでいく。念の為、警戒は怠らない。しかし、攻撃は完全に止んだようだった。他のものは待機している。

 やがて二人は長の執務部屋の前に来た。ドアを開けて中に入る。


 すると部屋の奥の椅子に背を預け、座ったまま死んでいる長の姿があった。


 体術八番殴殺の裏スキル【鳳凰殺(ほうおうさつ)】。

 命を燃焼させて放つスキルだ。知らずに使ったのだろう。

 最後にそれを放って死んだようだ。


 髪は白く、瘦せ細っていた。写真の姿と大分違う。おそらくスキルのせいだ。裏技の反動だ。

 机の上に一冊の本が開かれて置いてあった。「太初の神」という名前の本だ。


 “我を信ずるものに恩寵を授けん”。


 “その対価は大災害とする”。


 本からは黒い煙が出ている。

 明かりで本を照らすと無数の頭がうねる黒い影が伸びた。


「魔物か」


 サカモトが言う。どうやらうねっているのは蛇のようだ。

 太初の神、ゴルゴンと本には書かれている。


「いや、これは、魔物じゃないな」


 サカモトが目を細める。心当たりがあるようだ。


「恩寵を授けたまえ」


 すると何が欲しいか、という声と共に本から女の姿が現れた。

 リュナが後ろに下がる。サカモトから異様な気配を感じた。構えると同時に源力が渦巻く。


「かーごめ、かごめ」


 歌が始まる。

 何が欲しい、望みを言え――。

 ゴルゴンが低い声を漏らす。


「かーごのなーかのとーりーは」


 貴様、それは何の真似だ――。


「いーついーつでーやーる」


 源力が膨れ上がる。部屋を満たし始めた。


「よーあーけーのーばんに」


 や、やめろ、われは――。


「つーるとかーめがすーべった」


 ゴゴゴゴゴゴ――


「うしろのしょうめん――」


 オオオオオオ!!


 ドゴオオ――ン


 ぎゃああああ――。


「――俺だ」


 世界八号(グローバルエイト)の人造人間(ロボット)によるメガトンパンチが炸裂した。

 後には小さな蛇の死骸が数体残った。


「まさか、この小さな蛇が今の?」


「いや、違うな。炭のような黒い残骸がたくさんある。おそらくこれが元凶だ。これは人間による悪意だ」


 とにかくこれで元凶は絶った。ヨイチが地下牢から救い出した長の娘を連れてきた。


「よかった、リュナ」


「レイリア、無事だったか」


 こうして闇の組織は解体され、その後、小さな慈善団体として生まれ変わった。

 長の娘をリーダーに、護衛隊が団員たちとして従った。

 後にレイリアはリュナの正室として迎えられる。


 リーダーにはミカエルが後を継ぐことになった。


「隊長ー、女っ気ないですね」


「アレク、お前たちがいればいい。団員は家族だ」


「野郎ばっかじゃ張り合いないなー」


 ミカエルは団員全員の名前を覚えた。団員たちも初めて何かのために体を張るということを学んだ。コソ泥たちに結束力が生まれた。彼らはレイリアが抜けた後、各地の治安を守るための小さな傭兵団になった。黒語は後に残った。暴言を吐きながら村々を守る彼らの姿は名物となり、次第に名を馳せていく。


「……ミカエル・ウォーカー」


「!? 何でおれの名を」


 セイラが唐突に呟いた。


「やっぱり、兄さん」


「何だって?」


 サカモトが驚いて声を上げた。

 セイラは大陸の出身だ。幼いときに母親とヒノクニに渡った。


「何でわからないの」


「知らん。仕事でしくじって頭を殴られた。それで昔の記憶が少し飛んだ」


「セイラは何でわかったんだ?」


「介抱してて何となく思い出しました」


 もういないと思っていた家族に巡り合えた。

 セイラは大陸に残りたいと言った。


「やった、女子が来たぞ」


「俺の妹だからな」


 小さな傭兵団に華が添えられたようだった。


「仕方ない。俺たち二人だけで帰るか」


 こうしてサカモトとヨイチはヨシノブ王の元へと帰った。



 というところで終わる。ハッピーエンドでほっとした。

 黒語というスキルは本当にあるのかどうか、それが気になるところだった。

 盆土外郎は古代人絡みのこともある程度は知っているようだ。ここに出てくるゴルゴンと裏技は古代人の末裔が残した力だという。古代の神仏が描かれた書物がどこかにあるという。

 俺は次に読むべき本を探すことにした。


 窓を開けると秋の風が入ってくる。どこか懐かしい匂いがする。

 あと、できることは何だろう。自分なりに大分強くなった気がするが、実戦経験だけが足りない。何とか補えないかとギルドへ任務を探しに行くことにした。

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