36、対抗戦(1)
「ではこれより対抗戦を始める」
露九戊の声が響き渡る。
時は五月の中旬だ。
「各人前へ、礼」
全員が一歩前へ出て頭を下げる。
初めて目にする一軍の面々だ。四人ともがそれぞれに風格を纏って見える。立ち姿や動きにも源力が垣間見える。初めて見る彼らは壮観だ。一般の人間とは明らかに違う。両方がそれぞれのギルドの制服を軽く着こなしている。
場所は白亜のギルド本部より少し外れにある山林地帯だ。その少し開けたところにいる。
「第一回戦。重量挙げ」
飾梅子の本を読むような声が響く。
白井本部のギルド長だ。女だとは思わなかった。
「よし、俺の出番だな」
猿田が前に出た。
対する一軍からは由瑞晃が無言で前に出る。
――あのときの男だ。
俺が青葉の河原で夢を見たとき、こちら側から出てきた男だ。眼鏡をかけた獣のスキルを使う男。一軍の者だったのか。
やはりあれは現実に起こる光景なのだろう。会ったことのない男が実際に出てくるのだから。
「この樽を投げ、崖上の藪へ上げる。去年と同じだな」
また抑揚のない声で飾梅子が言う。
重そうな木の樽が二つ、並んでいる。五十キロあるらしい。その後ろに高い崖がある。この上に投げ上げるようだ。
猿田は重量挙げの選手ではない。スキルなしでは持ち上げるのがやっとのようだ。
俺が気合で上げた果歩のカートよりも少し軽いくらいだな。
「先攻、猿田。では、始め」
「よし」
気合を入れ、目を閉じる。
スキルを纏った。布陣六番の体気煥発だ。白い煙が立ち上がっている。トライオーラだ。おそらく源力を使ったLキャストなのだろう。天候は晴れで夕方だから自由技能は使えない。スキルの使用に関しては何でもありになっている。相手はどんな自由技能を持つのだろうか。
「いくぞ」
猿田が樽を掴み、持ち上げる。
「そおら!」
ブン
ゴッ
樽は勢いよく投げ上げられ、崖の八分目までいって壁にぶつかった。
ガシャン
そのまま地面に落ちて弾けた。壊れた樽の中には砂が詰まっていた。
「ちッ、惜しいな」
「猿田、失敗。次、由瑞」
由瑞晃が前に出る。
体気煥発を纏ったようだ。こちらもオーラが湧いている。自由技能ではない。
樽を持って歩き始めた。投擲地点が大分前になった。崖から十メートルほど離れた。こんな場所から投げるのか?
樽を持ち上げると呼吸を整え、投げるタイミングを計った。
やがて力が込められ大振りなフォームで樽が投げ上げられた。
ブン
ザッ
綺麗な放物線を描いて樽が崖の上に届いた。成功のようだ。
「勝者、由瑞」
あんな場所から届かせたのか。さすが一軍だ。
第二回戦に移ろうとしている。
これだけの源力持ちが集まるとあの懐かしい感じが一際感じられる。今日は暗闇ではない。夕暮れだ。石畳の床がどこまでも広がっている。その途中で石の柱が等間隔で立ち並んでいる。それが夕日に照らされて影を作っている。石柱の手前に扉がある。上は吹き抜けで左右にも何もない不安定な扉だ。そこを潜り抜けると夜の森に変わる。辺りは暗くなり、遠くに月がぼんやりと見える。手前にある石柱には苔が生えており、そのどれかからふくろうの鳴き声が聞こえ始めた。霧がかかっている。水の音も聞こえる。どこかに泉があるようだ。思いがけない夜だ。この前は宇宙だった。法則性がわからない。
源力はそれぞれの佇まいを見ても感じるが目を閉じても同じ感覚なので源力使いの波動であることがわかる。
「第二回戦、跳躍」
ぼーっと雰囲気に浸っていると、次の立ち合いに移った。
この源力の風景は、源力持ちが他の源力持ちと接触すると見えるようだ。源力を発揮すると風景が生まれる。自分一人でも感じるが、ここまではっきりした風景は見えない。
梅子が読み上げる。
ジャンプ力を競うようだ。
「ここは俺だな」
巫空丸が前に出た。こちらからはノエルが行くようだ。
「こいつを先にキャッチした方が勝ちだ。頂点に到達してからキャッチすること」
そういいながら梅子は野球ボールを握りしめた。
「いくぞ」
下から空に向かって放り投げる。頂点に達し、ボールが小さくなった。結構な高さだ。
ギュオオオオオ
空丸がスタンディングスタートの体勢から勢いをつけ、回転しながら跳躍した。跳躍というより発射に近い。まるで弾丸みたいだ。
ボールを掴むと回転を解き、地面に降り立った。
「……」
ノエルは何もできなかった。
「悪いな」
そう言ってボールを梅子に渡し、後ろに下がった。
「勝者、空丸」
あっという間に二敗だ。身体能力が化け物だ。
しかし、味方なわけだから心強い。
「第三回戦、瞬発力」
今度は片腕の男が前に出た。こちらからは波止場芽留だ。
「これをたくさん取った方が勝ち。地面に落ちたのは無効。つまり砂のついたボールは無効だ」
そう言って水に濡らした野球ボールを抱えた。今度は露九戊も半分持つ。梅子と合わせて五球ずつ。十球を空に投げ、それをより多く取った方の勝ちだ。砂地に場所を変えた。芽留と片腕の男、深山が靴を脱いで裸足になる。
二人は構えた。
「では、いくぞ」
いっせいにボールを投げ上げる。
ビュオ
深山が片腕の先から黒い影を伸ばし、鞭のようにしならせて上空のボールを次々に捕まえていった。結局、全てのボールを左手で抱え、深山が勝利した。
「深山の勝ち」
「やれやれ、こりゃまた去年と同じだな」
猿田がこぼした。
次は俺の番だ。果たして勝てるだろうか。
「次、大将戦」
「大将!?」
まさか、俺が大将なのか?
「そういうことだ。胸を借りるつもりで行ってこい」
猿田に促されて前に出る。
とんでもない役回りを任されてしまった。
勝てるのだろうか。
空は日が暮れかけていた。




