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37、対抗戦(2)

 もうすぐ日が暮れる。西の空が赤い。

 小さな赤い実をつけたヤマザクラの葉が風に揺れている。


「次、第四回戦。相撲」


「姉上。回戦じゃない、試合だ。第四試合」


 堪えきれないというような顔で露九戊が割り込んだ。


「それだと野球みたいじゃないか。これでいい」


 相変わらず、アクセントの欠けた声で言う。

 露九戊はため息をついた。


「相葉、出番だ。前に出ろ」


 露九戊に促されて前に出る。対する相手は筧という男だ。

 上背のある、静かな雰囲気の男だ。相撲を取るのか。あまり自信がない。


「では、用意」


 先程の砂地の上だ。土俵はない。相手に土をつければ勝ちのようだ。

 二人は向かい合って、腰を落として構える。


「どん」


 掛け声と同時にぶつかり合った。

 相手の制服を掴む。下手を取った。

 投げようと思って重心を動かした途端、足を払われた。大きくバランスを崩した。危ない。

 膠着状態が続く。少しでも動いたら技で払われる。そんな予感しかしない。

 相手も様子を伺っている。俺も動けない。

 こうなったらあれしかない。


 制服を強く掴み直し、足を踏ん張って力を入れた。


 ――うおおおおお!


 あのときの感覚が蘇る。

 道楽の病棟で魔物退治よりも大変な目に遭わされた。後に引くに引けなかった。砂川がいれば止めてくれたのだろうが、果歩と二人きりではやり切るしかなかった。あの大仕事の感覚が再び頭を過ぎる。こうなったらやるしかない。


 ――果歩のカートを持ち上げたときを思い出せえええ!


 源力自体にも身体強化が少しあるようだ。俺は全身全霊で持ち上げた。どの辺に源力が入ったかはわからない。必死だった。

 相手も予想外のことに体気煥発(ダブルフォーム)を纏おうとしたのだろう。一瞬組み合う手の力が抜けた。

 その瞬間を俺は見逃さなかった。


「今だ! うおおおおおー!」


 少し間の抜けた掛け声が響き渡り、俺はついに相手の体を持ち上げた。


「やったぞ」


 猿田が身を乗り出した。周囲も思わず力が入っている。


「どらああ!」


 ザンッ


 持ち上げたまま傾けて相手を投げ飛ばした。

 筧が砂地に倒れ込む。俺も勢い余って尻餅をついた。


「やったな、一矢報いたぞ」


「はあはあ、どうだ二度目の事故」


 筧が起き上がりこちらを見下ろす。俺は疲れ果てて立てない。腕が麻痺している。


「なかなかやる」


 それだけを言うと、後に下がった。


「面白い男が入ったな」


「期待の新人だな」


 空丸と深山が呟く。


「勝者、相葉」


 大将戦は二ポイントだ。


「三対二で本部の勝ち」


「以上をもって対抗戦を終了とする。これからも怠ることなく精進すること」


 露九戊の挨拶の後、解散となった。


「一軍はお預けだな。当面は任務に勤しむ日々だ」


「帰ろう」


 猿田とノエルがそう言って歩き出す。俺も後に続いた。

 これで当分は大きな仕事はない。また穏やかな日が続くのだろう。

 空はすでに薄暗くなっていた。

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