24、寂しいと夢
風呂から上がると俺は部屋で本を読み始めた。外はすっかり暗くなっていた。部屋の明かりをつけるがなかなか馴染まない。俺は自分で作ろうと思い、照明魔法を試してみた。
手のひらの真ん中に意識を集中させる。火気のときと同じだ。今度は熱ではなく明かりをイメージする。ぽっ、という音と共に小さな光が灯った。一度慣れてしまえばこの程度の集中軌道は簡単で体が覚えてしまった。体の中で光をつくるという修行は青学の三年間で十分蓄積されていたのだろう。何の苦労もなく習得することができた。
俺はできたばかりの明かりを障子の桟のところに置いた。それから部屋の明かりを消した。
少し薄暗いがこれぐらいが丁度いい。落ち着いて読書を続けた。
夜も遅くなった頃、俺は本館の物置部屋に向かった。ここには、寮生たちが不要になったものを集めて置いている。俺はそこから手頃な棚を見つけて部屋に持って帰った。本が増えていくような気がしたから棚が欲しかったのだ。俺はその代わりにほとんど着たことのない浴衣を畳んで物置部屋に置いていった。夜は寝間着を着ている。猿田もノエルも夜は浴衣ではなく寝間着だった。
照明魔法の持続時間はだいたい三十分だった。俺はその明かりを棚の上に置いて本を読んでいた。
源力を込めると白い明かりがオレンジ色になり、持続時間も二時間ほどになった。
物理スキルや魔法スキルに必要な内功や意気は残量という考え方はないみたいだったが、源力には残量があり、休息をとることでそれは回復するようだった。
本を読むのに飽きると薄明かりの中でぼーっとしていた。空箱の練習もしたかったが二階なのでできない。試しにやってみたけど、集中力が足元から逃げていくような感じでできなかった。
窓からは門灯に染まるブナの木が見下ろせた。
穏やかだ。
俺は猿田の言っていたよくないことについて考えた。それは人間だろうか、魔物だろうか、それとも自然災害なのだろうか。どちらにしろそんなことが起こる気配は微塵も感じられなかった。世界は退屈で平和に見えた。
腹は減っていないから夕食はとらなかった。猿田たちにも昼間会ったからいいだろう。
代わりにパンを一枚かじった。あとは何もない薄明かりの中で何も考えないでいた。
まだ果歩にメールを送っていないことを思い出して送った。
“思っていたより暇だよ”
返事はすぐにきた。
“私もだよ”
果歩は今、病院にいるはずだ。確かに暇だろう。何かできることはやってやりたい。せめて毎日のメールは忘れないようにした。
“おじさんは元気か”
“元気だよ”
“帰れるときに帰るよ”
“そうして”
メールを送れる相手がいる。昔の俺では考えられないことだ。ずっと一人ぼっちだと思っていた。それでいいと思っていた。寂しい俺を救ってくれたのが果歩ということになる。
俺は照明魔法がまだ残る部屋の中で布団に入った。
そして目を閉じる。
そのとき――。
はっ、と意識が覚醒した。
景色が暗転し、また明るくなった。
ここはどこだ?
見渡すと食堂だった。
目の前に猿田がいる。隣にはノエルがいる。
「なっ、何だ? ここは」
猿田が穏やかな顔で晩酌していた。
「お、おはようさん。長かったな」
猿田がいつもの感じで言う。
「俺の自由技能」
「まあ挨拶代わりだと思ってくれ」
自由技能? 何かされたのか?
「夢を見せる自由技能だ。食らった方が早く理解できるだろう」
「すまなかったな」
夢? 今のは夢だったのか?
俺は携帯を確認してみた。果歩とのやり取りは昨日の分までしかない。
どうやら風呂から上がって晩飯を食いに来て、ここでまた集まったときにスキルをかけられたようだ。
「相手の体を叩くことで発動できる。効果は今経験した通りだ」
二時間くらい眠っていたらしい。本の内容も覚えていない。おそらく照明魔法もまだ未覚醒なのだろう。
「説明が難しいからな、食らった方が早い。俺も食らったことある」
「もうやらない」
幻術タイプの自由技能らしい。不快感は特にない。物凄くリアルな夢だった。居心地の良さすら感じたかもしれない。
「気を取り直して飯食うか」
そう言いながら手を挙げた。




