21、Lキャスト
翌日、朝起きると俺はギルドの訓練場に向かった。歩いてすぐだ。昨晩、猿田にもう一つ教えたいことがあると言われたからだ。
訓練場には猿田とノエルが先について待っていた。
「今日はLキャストの勉強だ」
猿田が言う。
「空箱で教えるか。空箱をやってみろ」
言われるまま空箱を発動させた。
心が無になり、自分の内側にある普段の状態では拭いきれない雑念などが一切払われ、意識の全てを外側に振り向けられるようになる。それが俺の空箱だ。景色は澄み渡り、細部に至るまでよく見えるようになる。
「お手本のような空箱だな」
「そうですかね」
「ああ深く力強い。でもまだSキャストだ。そこに源力を混ぜるんだ。源力を感じろ」
源力の感じ。
猿田から感じられたあの懐かしい深淵の暗闇だ。自分の中にそれを探る。
すると自分の中にもそれがあるのがわかった。次々と暗闇から湧いてくる。不思議な高揚感。この暗闇が何なのかはわからない。恐怖さえ感じるほどの深淵だが、そこからくるのはネガティブなものではない。
「そうだ、それでいい」
どうやら俺が感じているものと同じものを周囲も感じるようだ。心地よい高揚感に煽られている。これが空箱のLキャストだ。
これを大抵のスキルに同じように混ぜることができるそうだ。空箱は高揚感だが、他のスキルではそれぞれに効果を高める意気らしい。Lキャストも問題ないと言われた。
「源力の使い手は欲がない。どんな境遇にあっても十分だ、といってその場所に合わせようとする。例え明日死ぬと言われてもそれまでの一日を穏やかに過ごそうとする。感情的にも出来事的にも振れ幅が少ない。ただ穏やかな凪を堪能するのがあいつらの生き方だ」
「何となくわかります」
「篤志家ってわけじゃない。ただ金が邪魔なんだ。身に付いた汚れのように大金を嫌う。金があると空箱一つとっても淀むからだ。あともう一つ自由技能について言わなければならないことがある。定型技能には身体強化系のスキルが一つしかない。布陣スキルの六番にそれがある。重いものも持てるようになるし、高いところから落ちても死なない。建築現場で重宝されるスキルだ。だが一日のうち短時間しか使うことができない。だから身体強化系の自由技能はレアなんだ」
「身体強化系は当たり」
「さらにレアなのは回復スキルだ。回復スキルは定型スキルでもまだ見つかっていない。あるとは言われているが」
「回復スキル」
「お前がこれからどういった自由技能を手に入れるかわからないが、覚えておいて損はない」
「わかりました」
「スキルについての指導は以上だ。あとは好きなように覚えたらいい。スキルに関する本はギルドの書庫にもある」
三人はしばらく草むらの上に座っていた。心地よい春の風が当たる。
「来月には対抗戦がある。それまでは暇かもしれない」
「対抗戦?」
「中央街の一軍との交流試合だ。勝てば一軍になる」
「……」
「勝てたことは一度もないけどな」
「そうなのですか」
空には細長い雲が並んで見えた。杉の木立も見える。のどかな春の風景が広がっていた。訓練場には他に誰もいない。
「昼めし食いにいくか」
そう言って三人は食堂へ向かった。一般にも開放している食堂だから昼時は混んでいる。




