15、冒険者登録
もう何度も歩いた道をたどって紫苑を目指した。持ち物は金と携帯端末だけだ。言われた通りほとんど手ぶらだった。白井本国に入るためには身分を証明できるものがないといけない。俺は道楽にいた頃の学生証を提示した。道楽は白井領だからそれだけで済むが、他国の領地から来た場合は入るのに許可証が必要になる。井黒なら井黒の役場で許可証を発行しなくては入国できない。冒険者だけはIDカードでどの国にも自由に入国できる。
白井の西門から紫苑市に入った。そのままギルドを目指す。
市街地は人で賑わっていた。道は以前の名残で舗装されている。そこに人々が自由に行き交っていた。人気の飲食店の前には人が並んでいた。花屋の娘が店先で花に水をやっていた。物々しい格好で歩いてくる数人の男たちも見える。冒険者だろうか。
大昔はここに車が走っていたそうだが、今はない。その頃はないと不便を感じたのだろうが、ない時代しか知らない俺たちは特に困らない。それどころかそんなものが通りを走り抜けていたなんて考えただけで恐ろしい。ぶつかったら死んでしまうわけだ。車が当然と走る町中の風景はきっと今より殺伐としていただろう。百年前に何があったか知らないが昔の人はしっかりと世の中を正してくれたわけだ。一番その恩恵を受けたのは動物たちだろう。人々に混じって通りで残飯を漁っている。
遠くに行くには自分の足で歩かなくてはならないが、その方が趣がある。達成感もある。俺はそんな時代に生まれたことに感謝した。
ギルドに着くと早速、受付で用件を伝えた。今すぐ冒険者登録をするようだ。五藤露九戊の推薦ということになっていて面倒な審査はパスになった。所有するスキルの登録だけを行うらしい。スキルを覚えておいてよかった。別の部屋で行うようだ。
「第一修練場」と札の掛かった部屋に通された。受付のお姉さんではなく、眼鏡をかけた男の事務員が立ち会った。
「所持スキル、殴殺ですね。ではこちらへお願いします」
そう言った男の前には天井からぶら下げられた砂袋があった。それを殴りつけるらしい。
俺は案山子に放ったときの感覚を思い出し、内功を湧かせると思い切り砂袋に殴打を叩き込んだ。
ドンッ
砂袋は大きく揺れ、ギシギシと音を立てた。
「殴殺、合格です。ではまた受付に戻って下さい」
そう言うと男は部屋を出ていった。俺も後に続く。
受付に行くとさっきのお姉さんが書類を作って待っていた。
「相葉冬介様、所持スキル殴殺。紫学冒険者として登録されました。こちらがスキルの報奨金になります」
そう言って拾壱万円が差し出された。これだけでこんなにもらえるのか。スキルだけでも暮らせるわけだ。
紙幣と一緒にIDカードも発行してくれた。これで今日から晴れて冒険者だ。




