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128、VSザビエル(4)

 小雨はしぶくような雨に変わっていた。

 暗闇の中で背を向けていた黒い影がこちらを向き、白眼で睨みつけた。


「⊥∪∂∃⊃∀〇ю∀∈∠∀(次はお前か?)」


 ザビエルの一言だ。殺気を帯びている。焦燥と怒りのようなものが混じっている。


 寿郎は思わずその姿に呑まれそうになるが肚に力を入れた。


 やるしかない――。


 しかし、できるのか、俺の殴殺で。


 空丸の元を離れて立ち上がる。

 それを見て悪魔がこちらを向く。

 ここでやらなければ全員死ぬんだ。

 目を閉じて倒れている空丸を見た。向こうには由瑞がうつ伏せで気絶している。間違いなく病魔が再度浸潤しているはずだ。

 悪魔を倒して二人に急いで治癒を施す。周りで倒れている町の住人たちにも被害がこれ以上及ぶ前に終わらせる。寿郎にとっては途方もないオペレーションだ。目の前に絶望感が漂う。

 俺がやるしかない――。

 しかし、意思とは逆に手が震え出す。寿郎なら敵の殴殺一発で即死だろう。抑えつけようとするが止められない。悪魔がゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。

 そのとき。


「下がってろ」


 寿郎の肩に手が置かれた。


 後ろから一人の男が現れた。激しい源力を纏っている。


「兄さん」


 行郎だ。

 そのまま悪魔の方に歩いていく。


「∀⊥∀∝∀∫∃∃≠〇∠∀(新しいのか)」


 悪魔の声が聞こえる。

 それを無視して行郎は右手を軽く上げた。

 手のひらから黒いオーラが湧き出す。


 スキルの詠唱だ。


「【棺桶(レクイエム)】」


 カーン


 空中に黒い箱が現れてそれが閉まる甲高い音が鳴った。

 ザビエルの頭上と足元から開いた箱の幻影が閉まり、何かを封じた。


 闇属性魔法三番棺桶。

 病抄を持ったものだけが集中軌道を長く彷徨った末に覚醒可能な異質なスキルだ。Sキャストが存在せず、Lキャストのみの使い勝手となる。つまり、源力を有し、精神病の既往があるものだけが獲得しているスキルとなる。ユグドラシル全土でその使い手は現在、行郎を含め三人しかいない。

 棺桶の効果は魔物の源力を封じ込めるというものだ。自由技能(ディスオーダー)を含めた源力を使用不能にさせる。しかしそれには条件があり、自身の源力の総量の半分以下の源力を持つ魔物にターゲットは限られる。魔物は源力の消費が止まり。巡行スキルである棺桶は効果が持続している間、源力を消耗する。消耗した源力がその倍以上を割ると効果は消える。つまり結果的に相手にもよるが短時間しか使えない。

 問題はゼットコングにもそれが有効かどうかだが、スキルの発動を示す黒い箱が先ほど現れた。ザビエルの源力を封じ込めたようだ。


「……≠∀N∩∀(何だ?)」


「〇ю∀∈≠〇⊥∃∠∀∝∀э〇ю∪∠〇∪≠∃∫∃⊥∀(お前の力を無効にした)」


 波動も消えて浸潤の勢いも衰えたようだ。


「……」


 悪魔が不快感を露わにするように右手を握り、ゆっくりと歩いてくる。

 源力はなくとも殴殺と紫電がある。それだけでも十分脅威だ。

 緩慢な動きから急に激しい力を漲らせ、右腕を振り上げた。

 殴殺の度合いは源力だけではない。使用者の内功だ。長く生きた力の化身は全く動じることなく破壊衝動をそのまま降り下ろした。


 トン――


 それは静かに突き刺さっていた。空丸の短剣だ。いつの間にか拾っていたようだ。

 左手で殴殺を払い、右手がザビエルの左胸に当てられていた。短剣が深く突き刺さっている。


「あっ?」


 そのまま膝をついて下を向いた。


「ごぼっ」


 心臓を貫いた。

 今度こそ終局だ。


 打ちつける雨が青ざめたザビエルの顔から水を滴らせていた。

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