127、VSザビエル(3)
激しい乱戦の後の風塵が舞っている。
吹き抜ける風がそれを払っていった。
右拳に浸潤の気配がある。
薄暗くなった広場を取り囲むように野次馬たちの気絶した体が散乱している。かなりの数だ。彼らは皆、途絶えた意識の中で悪夢を見ていた。
暗い森の中を走っている。後ろから人が追いかけてくる。
不気味な笑みを浮かべて走る人間だ。白い畏まった服を着ている。奇妙な器具を手に持っている。首輪のような、動物を虐げる道具だ。走っているその頭上には人形が二体ぶら下がっていた。一つは女の人形。髪にリボンを結び麻の服を着ている。もう一つは男で顔の半分が赤く灼け、同じく麻のシャツを着ている。人形はどちらも幻影だ。捕まれば自分もあそこに並ぶ。その自分は逆立てた髪にあごひげを生やし、二人より少しくたびれた木綿の上下を着ていた。そして腰巻きをしている。これは今戦っているザビエルの姿だ。逃げているのは人であり、ザビエルのようだ。一体何の夢なのだろう。
辺りにはザビエルの源力による負の波動が広がっている。
由瑞が源力を静め、定型技能の準備を始める。
由瑞は定型技能の使い手だ。定型技能は源力のようにエネルギーの消耗はないが、使い過ぎると物理スキルは体力を、魔法スキルは精神が疲弊し眠気に襲われる。どちらも強いスキルを使い続けるのは難しくなる。万全のコンディションでスキルを放った方が効果は高いし、疲弊していては軌道や内功には集中できないからだ。
由瑞の十八番である体術奥義呪棍。
奥義というものには使用者がこの世に一人しか存在しない。各奥義の使い手は世界にたった一人だ。誰かが覚醒した時点でその奥義は欠番となる。
定型技能でありながら自由技能のような扱いだ。
呪棍は物理攻撃における最高峰だ。
低く呟く声が聞こえてくる。
由瑞が何やらぶつぶつと呟いている。
「……を……てる。何が早く行けだ。……たらおま……がいけ。俺は……」
誰かへの文句だ。これもお決まりのようだ。
「これで三度目だ。梅子。防衛線の保安はお前がやれ。雨漏りの部屋でバケツを抱いてな」
「≠∀N∩∀〇ю∀∈、∩∀∃∇∃〒∨〇∪♯∪∠∀(何だお前、大丈夫か?)」
「ゲルズオーラ」
どうやら内功到達点に達したようだ。
由瑞が腰の横に拳を構え、身を沈めた。
ブン
そのまま何もない場所で右フックを放つ。
何の真似だ――?
そのとき。
バリイン
波紋のようなものが一瞬広がり、そこにガラスが割れたようなひびが入った。
「ドオオラア!!」
さらにその場で左フック。
バリイン
ビシビシ
再び同じ現象が起き、ひびは空間を伝い、ザビエルの手前まで来た。広場の空間にガラスの割れた跡が残っている。
僅かにエネルギーが減衰するのを感じた。
何かが破壊されている証だ。
「ドラドラドラドラドラドラア!!」
空間に向かいラッシュを放つ。
凄まじい勢いでガラスが粉々になっていく。割れる寸前に波紋が波打つ。
ひびは四方に伸び、やがて広場全体を覆っていった。
これは――。
ザビエルの負の波動を破壊している。
ザビエルの源力の残量が少しずつ減っていく。
癌の浸潤はザビエルの体表面に触れると、そこから異質に活性化された微細な波動を受け、肌を汚染してゆく。肌が一番強い。そして空気感染がその次になる。
その微細な波動を破壊している。由瑞の右拳からは癌の跡が消えていた。癌細胞も破壊した。
一体何を壊し得ないというのだろう。
この世に壊せないものはないようだ。
「ドラララララァ!!」
空丸の攻撃と違い紫の閃光は帯びない。
その代わり激しい衝撃音と共にガラスの割れるエフェクト。
広場内はひびだらけになっていた。空間に夥しいガラスの割れた跡が浮かんでいる。
「くっ」
波動に要する源力は微々たるものだが空間全体のものが丸ごと消滅しようとしている。追って出される波動もそばから消えていく。波動を出す速度より破壊の方が速い。空丸だけでなく、野次馬たちからも陰気を払い尽くそうとしている。
「〇∝∀∀(オラア!!)」
ザビエルが殴りかかる。殴殺だ。
向き直り、正面から拳を合わせる。
ドゴオ
拳と拳が衝突する。互角だ。
このままでは根こそぎ持っていかれる――。
ザビエルは波動を止め、由瑞を先に葬る判断をした。
広場から浸潤の気配が一度消える。
ドドドドドド
殴りと殴りの応酬だ。
防御、攻撃、仰け反り、入り乱れている。
由瑞の防御は体気煥発のLキャストだ。源力は十分にある。体も空丸より由瑞の方が頑強だ。
どちらが早く殴り倒し切るかの勝負だ。
「ドラドラドラドラドラドラア!!」
「がああああああああッ!!」
ズズズズズズ
地鳴りが聞こえるようだ。
爆発にも近い殴りの応酬がしばらく続く。
ブン、ブン……ブン
激しい殴打を食らった後、由瑞の動きが少し緩慢になった。どうやら体力が限界を迎えたようだ。内功が追いつかなくなる。
「がああ!!」
そこにザビエルの拳の突き上げが由瑞の顎をヒットした。
回復手段を持たない由瑞はダメージも蓄積していた。
血を零し、膝をつき、前のめりに倒れる。
「があっ、はあっ」
ザビエルが肩で息を切らす。蘇生も発動している。
「⊥∃∠∀∝∀∂∀、⊥∀∝∃≠∈∈(力が、足りねえ!)」
ザビエルの源力の残量はあと僅かだ。削りきれなかった。
「⊥∃∠∪∫∃〒∨〇∪(ちくしょう! 何なんだこいつらは!)」
再び汚染をスタートさせた。
二人の体からシミが浮かぶ。
野次馬たちも再度、その領域内に入った。
「由瑞さん……」
残るは寿郎、ただ一人。
目の前で息を切らし、落ち着かないように歩き回るザビエル。
あと少しだ。倒し切るしかない。




