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124、襲来

 三月のある日、それはやってきた。


 白井国、白亜。街の中を歩いている。

 買い物の途中だった。


 昼過ぎの南の空に浮かぶ太陽。

 春の風が吹く。

 通りは家族連れの買い物客などで賑わっている。

 片手に買い物袋をぶら下げながら空を見上げた。


「……」


 空は快晴だ。

 しかし西の方の空が淀んでいる。雲が流れてくる。雨か曇りになりそうだ。

 感覚を研ぎ澄まして目を閉じると空間にリスクを感じる。


 今日は仏滅だ――。


 そう思った。

 何かがやってくる気配だ。

 買い物をあきらめて静かにその気配の先を見据えた。


 念のために源力の残量を確認する。

 問題ない。余剰エネルギーさえ感じる。

 この様子ならあの力が使えそうだ。

 おそらく使うことを余儀なくされるだろう。


 しばらくしてそれは空から突然やってきた。

 ぽつ、ぽつと、雨が降り始めたときだった。


 ゴウンゴウンゴウンゴウン


 雲に隠れた太陽を背負い、回転しながら降ってくる。

 気づいている者は他に誰もいない。

 それを視界に収めたまま咄嗟に場力を張った。


 ドゴオオ


 大通りの真ん中に落ちた。


「な、何だ!?」


「何!?」


 衝撃と爆風が巻き起こり、辺りは騒然となった。

 しかし場力のおかげで現象は安全圏に寄ったようだ。人的な被害はない。


 できたばかりのクレーターの真ん中でゆっくりと人影が起き上がる。

 暗い。

 それが最初に受けた印象だ。

 体つきは大きくもなく、華奢でもない。

 見た目も人間と変わらない。簡単な衣服を着ている。

 しかし、陰鬱とした波動を感じる。暗黒そのものだ。

 この波動にはどういう意味があるのか、このときにはまだわからなかった。

 所作には消極的な動きは一切ない。嫌な立ち姿だ。勝ちが上手く見えない。殺戮に走れば甚大な効果を生むだろう。少しでも気を抜くと殺しの権限を与えてしまう。そんな立ち姿だ。

 人影は前述のそれを不服とするような声を漏らした。


「ℕ∀N∩∀、∩∀∝∈Ⅲ〇∨∀〒⊥∪⊥∈ℕ∀Ⅰℕ∀(何だ、誰もやってないな)」


 そう言って、少し離れた場所にいた親子の元へ近寄る。

 買い物客たちは突然のことに理解が追い付いていない。見たこともない異形の人影を呆然と眺めている。


「Ⅲ∀∀ⅠⅠ、∠〇∪∫∪∝∈♯∀〇ℕ∀∇Ⅰ∠〇⊥〇∩∀(まあいい、こうすれば同じことだ)」


 子どもの頭へ手を伸ばす。

 その腕を掴んだ。


「そいつはノーだ」


 そのまま力を込め、体を持ち上げ怒号と共に放り投げた。


「オラアア!!」


 弩投石(グリーズロー)。


 ゴオウ


 ドゴオ


 遥か北側にそびえる中央広場の時計塔の壁に激突させた。

 ゆっくりとその現場へ向かって歩いていく。人影は時計塔にめり込んだままだ。


「みんなで守ろう健やかな町」


 広場の門を潜る。標語が書かれていた。


「だとよ」


 悪魔は壁にめり込んでいる。

 場所は都市広場、中央公園。


 腕を掴んだとき、微かに死臭がした。

 相手のものではない。自分からだ。


 昼なのに空が暗く感じる。

 負ければ終わりだ。世界が闇に閉ざされる。

 悪魔はその場から動かない。


 時は聖暦一九九六年、三月二十一日。

 町は新しい生活に向けて期待と希望を抱いていた。そんな中でこの日を迎える。後の人は言う。この季節になるとあの出来事を思い出す。

 それは目にしただけで発病する病だった。


 空丸 VS ザビエル。


 運命の一戦が始まる。

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