119、ラグナロク(5)
奥の方から二人の天使が姿を現わした。
カミーユとガウェインだ。
「御ルジアまで起動するとは思わなかったわ、許してちょうだい」
カミーユが言う。
本庭の中は庭園のようだ。静かになると噴水の水音が聞こえる。
ガウェインが黄色い木の実を二つミコトに手渡した。
果凛だ。そのうちの一つをカナに渡す。失った霊素をこれで回復できる。
カナは池に入って濡れた靴を脱いで素足になっていた。
「私なんかに、貴重な果凛を」
「気にするな」
果凛をかじりながらミコトが言う。
「あなたやり過ぎよ、椅子を壊すだけにしてちょうだい」
ミコトは人が変わり御ルジアまで起動してしまったようだ。
最初にミコトが豹変したとき、本庭に入ってきて椅子を蹴り飛ばした。准鈴たちは驚愕した。
普段穏やかだったミコトの変わりように准鈴たちは何もできなかった。それから、恐る恐るミコトに接するようになった。ミコトはミコトで内的世界で自分と戦っていたのだ。彼らの中で一番ミコトを慕っていたカナの捨て身の行動が正気を取り戻すきっかけとなったようだ。
いつも通りのミコトの姿に全員が和んだ。水の柱の黒い炎をみんなが見上げる。
「神格が降臨した以上、仕方ないわ。全員で止めるしかない。ガウェイン、行ってちょうだい」
無言のままうなずくとガウェインは瑞森を後にした。
総力戦だ。アクセルを止めるための。
暗闇の中をユシフルとアクセルが対峙する。それを五人が無言で見守っている。ハルカのそばにコノハとリュゼ。少し離れたところにルインとルティンがいる。二つの槍からは白い靄が湧き始めた。
「さあ、行くぞ、シルヴィア。お前の名の由来を今、証明して見せよう」
槍の力が解放される。
気がつくと遥か上空に飛んでいた。宇宙空間だ。二つの槍が揃ったときに発動される力だ。宇宙空間で神を迎え撃つ。神を相手に共闘するときの力だ。二つの槍が相対することは想定されていない。
ユシフルとアクセルが向かい合う。他の五人は地上に残されている。二つの槍から白い靄が出る。大気だ。それが二人を取り囲む。
真っ暗な視界の下の方に地球が見える。遠くにはいくつかの星。大きくなった月も見える。宇宙空間に二人が漂っている。槍が大気を放ち、体勢を補助する。推進と制動も槍が担う。二つの槍の重量は相当だ。重力がないから重さは感じないが振り回すには力がいる。
大振りで槍を振り下ろす。それをアクセルがロンギヌスで弾く。反動で体が持っていかれる。少し距離を置き、アクセルが槍を構えた。ブラックレーザーだ。
ドヒュン
ガオン
放たれた黒い光をシルヴィアが弾いた。ブラックレーザーは遠くに消えていった。
「馬鹿の一つ覚えか」
「……」
アクセルは無言で再び槍を向ける。
ドヒュン、ドヒュン、ドヒュン
ガオン、ガオン、ガオン
ブラックレーザーは全て逸れて遠くに消えていった。
――何故、同じ攻撃を繰り返す?
何度やっても同じことだ。
何も考えずに行っているとは思えない。そのときふと気づいた。
「シルヴィア、大丈夫か」
シルヴィアを見るとひびが入っていた。攻撃を受けすぎた。このまま破壊する気だ。
「くっ」
ここでシルヴィアを失えば宇宙空間に放り出されることになる。
アクセルは表情のないまま最後の攻撃の準備を始めた。
ロンギヌスに力が集まる。
ズズズズズズ
大出力のブラックレーザーだ。ユシフルの真上に移動して槍を構えた。
避ければ地球に当たる。
「くそっ」
避けられない、受け止めるしかない。
「だから俺は嫌だったんだよ!!」
黙示の一族から予言を聞かされていた。まだ天使のうちに消すべきだったんだ。
暗黒神の誕生。
光ではなく闇だ。アクセルは闇を選んだ。
アクセルの心は淀んでいる。
何故自分はこんなに弱いのか。
何故自分はこんなに苦しむのか。
世界に対する怒りだろう。
誰よりも人間臭い心を持っていたようだ。
世の中などというものはそのようなものだ。
ブルーノはそう答えた。
このまま世界を消す気だ。
真っ黒いエネルギー球がロンギヌスの切っ先に作られた。真下に向けている。
放たれたら終わりだ。
そのとき、シルヴィアが動き、ユシフルの前に浮かんだ。
「シルヴィア!!」
泣いている。
お別れだ。
「ア……」
シルヴィアが声を漏らした。
「くっ、シルヴィア……」
次の瞬間、力が解けた。
気がつくとユシフルは地上にいた。
シルヴィアが力を解いてユシフルを地上に戻したようだ。
上を見上げる。
オオオオオ―――――……ン
遠くの空でシルヴィアが哭く声が聞こえた。
ブラックレーザーが放たれたようだ。シルヴィアが受け止めた。
「シルヴィア――!!」
最後に心が宿ったのか。これではどちらが失敗でどちらが成功かわからない。
槍が片方になり、力が解除された。
アクセルが地上に降り立つ。
「うう、おおおおお!!」
ドゴン、ゴオン
アクセルに殴りかかる。
「くそおおお! 悪魔め!!」
アクセルは冷たい目で見下ろし、受け止めている。
悪魔じゃない――。
そのとき人影が二人の元に飛び出した。




