115、ラグナロク(1)
ギルドから宿舎に帰ってくると俺たちは食堂に向かった。晩飯だ。
「よいしょ」
腰を下ろすと前髪がそれに合わせて揺れる。俺とノエルも席についた。
「h-1グランプリ、一位になったな」
猿田が本を座卓に置いて言った。約束の大地の五巻だ。最新刊であり最終巻だ。h-1グランプリとはあらゆるジャンルの本の中から一位を決める本の祭典だ。売り上げではなくアンケートを取って一位を決める。「約束の大地」が今年の一位に選ばれた。
振り返ってみようか。俺は座卓の上の本を手に取らせてもらった。
グランベルを出た後、アクセルたちの旅はあてもなく続いた。しかし魔貴族の情報はどこにも見つけられなかった。途方に暮れたままある海岸沿いの町に辿り着いた。そこで一人の老人に声をかけられた。
「アクセル様でいらっしゃいますか」
アクセルがそうだと答えると、老人は神界からの使いだと名乗った。この海の向こうに神界があるという。
アクセルは神界から西へ飛び、それから西へ西へと旅を続け世界を一周してしまったことになる。魔貴族のことを尋ねると老人は答えた。
「暗下百十八は第九番目。つまりあなた方が看取ったあの少女が最後の一人です。もうこの世に魔貴族は残っておりません」
神界で皆がお待ちしております。すぐにお戻り下さい、と老人は言った。老人は天使だった。
アクセルたち一行は老人の術で海を越えることになった。
「私は時の神の天使です。星は自転と公転を行っておりますが、私の術で自転のエネルギーだけを抑えます」
「ゼロにするわけじゃないんだな」
「生身でゼロにすると速度に耐えられませんので」
五人は高台から飛び降りたところを転移させられた。
* * *
神界バルビュリア大陸。
正式名、神庭五界。
その端っこの東部ミレーネの海岸に五人は降り立った。
「ここが神界……」
コノハが辺りを見回す。
辺りは暗い。夜だった。
砂浜の向こうに街の明かりが見える。
「私も、来ても大丈夫だったの?」
コノハが心配そうに尋ねる。
「大丈夫だよ。精霊はウルスラ神の所縁のものだから」
「ウルスラ。三柱神の一人だな。光の大天神エレンディア。慈愛のウルスラ。黙示の神ロキ」
「魔族の私でさえいいんだから、いいんだよ」
「リュゼは僕の使い魔だからね」
ドクン――。
言った後で鼓動が乱れた。
神界に入ってから少し様子がおかしい。
しかし、このときは気にせずやり過ごした。
「中央ソフィアに向かえばいいのか?」
「そうだね」
五人は砂浜を抜けて街の中を歩き始めた。
木造の建物の中にときどき煉瓦造りの建物が見える。空の月が道を照らし、五人の歩く先に影を伸ばしていた。神界といっても人間界と何も違うところはない。
アクセルたちは七賢者に会うため、夜の街を歩き続けた。




