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12、スキゾフレニア

 白井本国には昼過ぎぐらいに着くことができた。急いできたので大分早く着いた。早速紫苑ギルドの受付へ行く。


「昨日登録した砂川弥白に会いたい。どこにいる?」


「砂川様なら今朝から市内の病院にて入院治療中です」


「何だって!?」


 早すぎる。昨日の今日でもう病院送りにされているのか。一体何があったんだ。


「相葉様ですか? もし訪れるようなら支部長室へ通すようにと言われていますが、いかがいたしましょうか」


「病院に行く」


「かしこまりました。ではそのように伝えます」


 くそ、無事なんだろうな――。

 俺は急いで紫苑市街にある病院へ向かった。


 市立西山病院。

 三階建ての建物の三階の病室に砂川は入院中らしい。急いで階段を上がり三階へ向かう。ナースステーションで面会を申し出ると用紙を渡された。名前と続柄を書く。迷った末、友人と書いた。看護師に病室を案内された。個室だった。部屋に入り、カーテンを開けると砂川が眠っていた。


「砂川さん」


 声を掛けるが返事がない。

 今朝、意識を失ってずっと昏睡の状態だという。

 命に別状はないだろうと医者は言っているようだったが心配だ。


 砂川さん――。


 病院の寝間着をつけているようだった。ベッドの脇に靴が揃えて置いてある。


 ちくしょう、果歩になんて言えばいいんだ――。


 全て紫苑街区のギルドのせいだ。話をつけに行かなくてはならない。俺は再び紫苑のギルドへとんぼ返りをした。


 受付に行くと三階へ通された。

 ドアをノックすると返事も待たずに中へ入った。

 昨日と同じ場所に五藤露九戊が座っていた。


「来たな。心は決まったか」


 こちらを見据えながら椅子に座ったままの姿で言う。


「砂川さんに何をしたんだ」


 喧嘩腰でつっかかる。この男を見ていると腹が立ってくる。


「人形遊びだ」


「人形遊び?」


 吐き捨てるように言った。


「少し冷静になれ。あの男は死にはしない。感情も制御できないようなら猫の手の方がましだ」


「……」


 確かにその通りだ。怒りでは何もいいことはない。


「ついて来い」


 露九戊はそう言って俺の横を通り過ぎ、部屋を出た。

 そして隣の「四」の部屋へ入った。この前砂川が連れられた部屋だ。窓はなく真っ暗だった。

 シュッ、という音の後、マッチに火がついた。露九戊はそれを蝋燭に灯した。部屋が少し明るくなる。

 どうやら奥に何かあるようだ。

 それは人形のようだった。不気味な人形だ。衣服を付けている。そこに「4、hallucination」と書かれていた。


「【黒の箱庭(ブラックガーデン)】というのが俺の自由技能(ディスオーダー)だ」


「ディスオーダー?」


「源力持ちだけが習得する、定型技能(プラクティス)とは別のスキルだ」


 初めて聞く内容だった。露九戊はそのままスキルの説明を続けた。


「俺のスキルは場力をストックすることができるのだ。場力は知っているか?」


 知らないと答えた。


「何も知らんのか。まあいい少しずつ覚えていけ」


 その後、説明が続く。

 露九戊のスキルは他者の場力を人形を媒体としてストックできるらしい。人形一体につき、一人分の場力を溜められる。

 露九戊は長年の間、強い場力を持つ人種を考えていた。どういった人間が強い場力を持つか。源力持ちは間違いないが数が少ない。それに彼らは自身の自由技能を持つから使えない。その中で見つけたのが精神病患者だった。彼らはぎこちなく、その内的世界は混沌としているが、何故か場力だけは非常に澄んでいて強力だった。症状は様々だが場力だけはそのどれもが等しく素晴らしいものだった。まだ他に誰も気づいていない事実だろう。露九戊は精神科病棟へ足繁く通い、協力者を募っていった。

 四番は幻覚を持つ少女由来の場力だった。そこへ砂川が入り、人形と向き合った。場力の上書きだった。それを露九戊に要求された。冒険者が精神病患者に負けてはマズイだろう。そう言って一対一での場力のせめぎ合いが始まった。

 結果として砂川は負けた。四番の場力をもろに食らい続け気を失ったのだった。


「夜番があれでは察しがつくな。私が直に鍛え直した方がいい」


「それは困る。道楽は道楽なりにやっている。介入はしないで下さい」


「ではお前が来い。道楽で源力持ちは持ち腐れだ」


「わかりました」


「殊勝な心掛けだ。では一週間時間をやろう。その間に挨拶を済ませてこい」


 そうして、俺の進路が決まった。紫苑ギルドの紫学冒険者。俺一人で道楽が今まで通りでいられるなら――。

 家族がいない俺は単身、白井本国へ移ることになった。


 そのとき、携帯が鳴った。西山病院からだ。慌てて出ると、さっき対応してくれた看護師からだった。砂川は他に身寄りがないから俺の連絡先を伝えておいたのだ。

 どうやら砂川が目を覚ましたらしい。

 よかった――。


 その足でまた病院へ向かう。

 病室へ向かうと砂川がベッドで体を起こしていた。


「すまんな、冬介」


 少しやつれて見えるが元気なようだ。後遺症もないとのことだった。

 本当によかった。


「では帰るか」


「もう大丈夫なんですか?」


「ああ、十分寝たからな」


 そうしてそのまま道楽へ帰ることになった。

 寝ずに歩き通しだったがそんなことはどうでもいい。砂川が無事で何よりだった。

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