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外伝2、二人の誓い

「アリシアは生きている……?」


 初対面の男に向かって飛鳥馬は言った。アリシアは生きている。


「その前に挨拶が先だ。俺は五藤飛鳥馬。白井の副市長だ。何故来たかはわかるだろう?」


 蓮真は黙って頷いた。


「色々と話したいことがある。お前もそうなんじゃないか?」


 黙って飛鳥馬を見ていた。肯定を表す沈黙だ。


 打ち明けたいことがある。屈託なく笑う飛鳥馬を見て不思議と信頼に足る人物だと感じた。しかし、ここではまずい。遺六が見ている。


「見張られている」


 蓮真はそう言った。


「見張られている? お前がか?」


 蓮真は黙って頷いた。ここではまずいと。


「では俺のところに来るといい」


 そう言って二人は飛鳥馬の借りている古民家へとやってきた。玄関の引き戸を開けて中に入る。


「まあ入れ。俺の家じゃないけど」


 蓮真は誰かの家にあがるというのは初めてのことだった。ほとんど外壁能力だけで生きてきた。学校も友達も知らない。たくさんの世界を見てきたが、体験するのは初めてだ。家の中はいい匂いがした。自分の家ではない、他所の家の匂いだ。

 二人は居間の奥の和室に座った。座布団を差し出された。奥に床の間がある。部屋は綺麗だった。よく見ると埃もない。


「ロックは忙しなく世界を転々とするが、実はその後をアリシアは追っている。エリーゼの村の宿屋に続けて三回泊まると、追いついてきたアリシアと再会することができる」


 座卓を囲んで上家(かみちゃ)の席に座る飛鳥馬が言う。裏技のようなものだった。ロックは蓮真も好きなキャラだ。今すぐにでも試したいと思った。


「まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。ゆっくり話そう」


 そう言って飛鳥馬はコーヒーをいれてクッキーを出した。腹が減ったら晩飯代わりに食べていたやつだ。


 蓮真はたどたどしい口調でゆっくりと知っていることを残らず話した。警戒心はもうどこにもなかった。


「悪魔か……」


「五体いる。恐ろしいオーラを持っている」


「国に戻ったらすぐに対策を講じよう」


 何とか伝えることができた。蓮真はほっとした。自分一人ではどうにもならなかった。国単位で動いてくれれば安心だろう。


「国の市長に伝えたかったのだが、網田に入ることができない」


 牙途の国土は網田市の周りを巨大都市口女がぐるっと取り囲むようなかたちになっている。中心に網田市があり、その外側に口女の中央街、そのさらに外には口女の各町村が広がっている。


「それは多分市長のせいだろう。市長の春馬は常に市内を独自の領域を展開してパトロールしている。怪しい気配を感じると場力で撃ち落とす。お前が外壁を伸ばそうとするとすぐに場力で相殺するのだろう」


 確かにそんな感じだと蓮真も思った。時々網田市内に進入できることがあってもすぐに真っ暗になる。春馬に見つかったためなのだろう。網田の奥までは行けたことがない。


「悪魔の動向を知る手段はお前の外壁しかないのだろう。できればお前にも来てほしいのだが」


 蓮真は頷いた。

 続いて話題はまたゲームになった。


「カイツ一人でクリアしたのか? 大したもんだな。第三世界になってから、普通は各地で仲間を集めてからクリアするんだぞ」


「一人が、好きなんだ」


 クッキーをかじりながら二人の話は続く。


「だが今日からは仲間だ。世界を守るためのな」


 仲間――。


 自分には縁のないものだと思っていた。

 主人公のカイツが盟友ラグナルと第三世界の象徴でもある二つの月が浮かぶその夜空の下で誓う。


 ――絶対に死ぬな。


 飛鳥馬はそのセリフを口にした。



 時を同じくして牙途のギルド本部。

 ブライトンが机の上で仕事をしている。

 時計を見る。

 針の進み方がおかしい。秒針が飛び跳ねて見える。

 寒気もする。

 頭の中に妙なイメージが湧き、仕事も進まない。

 地球がシャボン玉に包まれ、それを突き破ろうとしている。

 シャボン玉が破られると声が聞こえてきた。


 壊無(えむ)ヘヨウコソ。


 シャボン玉は地球の最後の防壁だった。

 この世界には真の悪がいる。


 集合思念壊無。

 そしてそれを抑える丼(ドン)。


 ワタシハダレ――?


 ブライトンが最後にこの世に残した自身の行動は、一枚の写真を取り出し握りしめることだった。


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