109、手紙
この間の場力騒ぎでは、各国で痛い爪痕が残っていた。死者が多く出たらしい。年寄りや入院中の体の弱いものがほとんどだが、病院関係者は大変だったようだ。砂川と果歩にもあの後、連絡して状況を聞いた。特に問題はなかったようだが、果歩も治っていなかったら危なかったかもしれない。
長く浴びると生命力が一気に枯渇するような場力だった。全身に悪寒が走り死にたくなってくる。目に見えない場力だから逃げようもない。やがてbタキオンが湧いてくる。
部屋で火桶の前で暖をとっていると、戸がノックされた。事務員が俺宛てに手紙が来たことを伝えてくれた。手紙を受け取ると封筒を開けて中身を確認した。室井義範からの手紙だった。
拝啓
相葉くん、この手紙が届くということは露九さんのところにまだいるということでしょうね。元気でやっていますか。俺はあれから色々考えて近所の食料品店の魚屋でアルバイトすることになりました。経験値も少しあるので何とか勤まっています。さて、手紙を出した理由は相葉くんの長屋についてですが、ご存知の通り相葉くんの部屋は大家の人が時々風通しをよくしたり掃除をしてくれたりしています。俺との仲も知っているようで、あんたから相葉くんに伝えてくれと言われ言伝を預かりました。ギルドでは稼ぎもあるだろうし、馬小屋のようなあの部屋は引き払ってもっといい部屋を見つけるといいとのことです。あの部屋は空にして新しい人を入れたいそうです。相葉くんにも思うところはあるでしょうし、一度大家さんと話してみてはどうでしょうか。俺としても旧知の相葉くんがあの部屋にいてくれた方が嬉しいです。そういうわけなので手紙を書きました。風邪に気をつけてお過ごし下さい。
敬具
丁寧に長屋のことを伝えてくれた。確かに大家のおばちゃんのいう通りだ。このままいつまでここで冒険者をやるかわからない。俺としてもあの部屋は気に入っているので、田舎の古巣としていつまでも借りていたい。一度帰って話し合った方がよさそうだ。
火桶にかけたやかんで湯を沸かし、パックの牛乳を入れた。食堂で日替わりランチというメニューができ、最近は昼はそれを頼んでいる。学校給食のような内容だった。パックの牛乳が付いてくる。懐かしいといって結構人気があるみたいだ。栄養のバランスも考えられており、蕎麦や茶漬けばかりの猿田にもちょうどよさそうなので勧めている。
温かくなった牛乳を一口ずつ飲む。まろやかで自然な甘みがある。牛乳の香りがする。
冒険者は冒険していないときは何をするのでしょう、と猿田に聞いたことがある。それは自分で考えることだ、と言われた。ちなみに猿田は見る読書というのをやっているらしい。文章を心の中で読まずに字面を見て理解するのだそうだ。猿田の話では人間は心の中で喋ると精神レベルが下がるのだという。確かに場力も内功も空箱も行うときに共通することは考えないことだ。心で喋るやつは二流だ。というのが猿田の言い分だ。
俺もそれは理解できる。部屋の中で窓際に寄りかかって外を見下ろす。牛乳をちびちびと飲む。何もしていないのに、不思議と充足感がある。
窓の外を見ると曇り空だった。どんよりとした空気が立ち込めている。俺は暗くなるまでラジオをつけた。




