106、キラーポジション
日も上り明るくなってから俺たちは起きて、一階の食堂で朝飯を食べた。鮎の塩焼きと豆腐と海苔、雑煮が出てきた。そして宿を出るときには女将が直接、弁当を渡してくれた。握り飯だ。気が利いている。
外は少し雪が積もっていた。俺たちはまたひたすら歩き始めた。
途中で本街道と合流した。道楽は随分前に通り過ぎたようだ。昼過ぎになった頃、どうやら目的地に到着したみたいだ。そこは小さな祠だった。道の脇の林の中にそれがあった。
「祠ですか?」
俺が尋ねると、猿田は無言で周りの雑草を取った。ほとんど枯れ葉だ。林の木々も枯れ木で寂しい感じがする。祠には札が貼ってあった。
怨敵退散。
そして真ん中に大きな文字で。
丼。
俺はそれを見て気づいたことを言った。
「ここってもしかして世界の真ん中ですか?」
それを聞いて猿田が答える。
「そうだ。ユグドラシルのちょうど真ん中だ」
世界の真ん中。白井と井黒の間だから丼か。
怨敵とは何のことだろう。それは猿田も知らないようだった。
「ここから一番近いのが月乃という小さな村だ」
そう言うと祠に向かって手を合わせた。俺たちも真似をした。そのとき。
スキルが発動した。
辺りが突然暗闇に覆われた。そして炎が浮かび上がった。かがり火のような炎だ。ゆらゆらと揺れている。よく見るとそれがいくつも浮かび上がっている。風景の中に点々と見える。そしてその炎は生き物のようにゆっくりと左右に動いていた。遠くでコンコンコンコンという木を打つような音も聞こえてくる。驚いたことにそのコンコンという擬音は白い文字になって暗い空へと上っていた。空中に文字が見えるのだ。これは何だろう。久々に見る、俺の自由技能だ。周りにいるノエルと芽留は気づいていないようだ。俺だけが見える。酷く寂しくて陰鬱な風景だ。空には月はなく真っ暗で白い文字が遥か遠くの方でも上がっているのが見えた。そこに人がいることがわかる。白い尾を引いた線がいくつも空へ上っている。そのとき、ふと気がついた。猿田がいない。猿田だけがいない。どこへいったのだろう。いつの間にか炎が一つだけすぐそばで揺れていた。
「……い。おい、相葉」
猿田の声に呼ばれて正気に戻った。
「どうした。ぼーっとして」
「いや、スキルが、見えました。久しぶりに」
我に帰ると猿田がいた。
「スキル? お前の自由技能か?」
「そうです」
俺は正直に見た内容を話した。しかし、そこに猿田だけいなかったことは伏せた。風景に関しては誰も心当たりはないようだった。あの景色は一体何だったのだろうか。
「まあいい。初詣は終わりだ。帰ろう」
そう言って俺たちは来た道を引き返し始めた。
帰り道の間中、俺はスキルの内容が気になっていたが、どんなに考えても答えは出ない。おそらくもうすぐ起きることなのだろう。そのときにわかるはずだ。
日が暮れ始めた頃、昔はバス乗り場であっただろう休憩場所で俺たちは握り飯を食べた。
その後も夜通し歩き続け、翌朝ぐらいになって白井本国に到着した。長旅だった。それぞれ分かれて部屋に戻るとそのまま眠ってしまった。




