103、終戦
国境を突破されたことが本部にも伝えられた。部隊にはもう一度、敵の前線を退けるよう命令が下された。話し合った末、空丸が丙を数人連れて出陣することになった。
陣を後にして歩いていく。全員が通常とは違うカーキ色の制服を着ている。廃ビルが見えてきたところで上階から突然【浅射】が降ってきた。闇属性の高等魔法だ。場力で負かした相手の体を拘束する浅射は術者も体を拘束される。【土塁土】と違うところは一人で大勢を拘束できることだ。敵の隊長ではなく隊員の誰かによるものだろう。こちらの人員を空丸以外の全てを戦力で上回るものがいる。空丸だけが拘束を弾いた。
どうやらまた一対一での戦いになるようだ。空丸が一人、ビルの入り口に消えていく。
結局、空丸は敵のトリッキーな作戦に嵌り、上階に上がる前に足止めされた。浅射は敵の隊長によるものだった。こちらの戦力が圧倒的に高く、部下を失うと判断した隊長自らが下したようだ。空丸には敵の兵たちの手でとどめを刺される前に由瑞が助けに入った。由瑞の手によりビルは崩壊し、空丸はその中から助け出された。ビルの崩壊により、敵は大ダメージを被った。こちらは空丸だけが負傷し、寿郎の手で治されている。敵は再び国境の向こうへ退かざるを得なくなった。
空丸たちは浅射が敵の隊長によるものだと知らない。部下の手によるものだと思っている。敵の兵力は想像以上に高いようだと思い知らされた。長期戦になるかもしれない。
そんな矢先で急な知らせが本部より入る。
森羅の軍部のトップであるエリオス王が急死したという内容だった。権限は嫡男のアーレスに引き継がれた。これはほぼ戦争の終わりを意味するものだった。アーレスはエリオスに輪をかけて温厚で知られる。
「休戦の通達が届いた」
陣の中でそれを聞いた。戦は終わりだ。そう言って全員が一時前線から引き上げた。
街は穏やかさを取り戻していた。
ギルドへ一度帰還した後、しばらく待機だと言われて四人は宿舎に戻った。
数日後。今日は街降祭の日だ。まだ夕飯前なので街に出てみた。商店街の真ん中の広場に大きなツリーが飾られていた。ライトアップされている。空からは雪がちらついてきた。家族連れがたくさん買い物に来ている。肉屋ではチキンがたくさん並んでいた。いくつかの店でも店先で飾り付けがされている。道楽でも色んなところで電飾の飾りがされていたが、都会はやっぱり賑やかだ。俺は商店街の通り脇にある植え込みの縁に腰かけてしばらく通りを眺めていた。
戦争は間もなく終わるだろう。悪魔の正体は戦争だったのだろうか。そうだといいのだが。上を見上げると暗くなった空から雪が舞ってくる。いつもの薄着の上に今日は濃緑色のジャケットを着ている。さすがにシャツ一枚では目立ちすぎる。遠くを見ると商店街の明かりに降ってくる雪が滲んでみえた。俺は宿舎に戻って食堂に行くことにした。
食堂に着いていつもの場所に行くと、猿田とノエルと、珍しく芽留が席に着いていた。三人の前には皿に乗ったケーキが置いてあった。
「どうしたんですか、それ」
「お前が来るのを待っていたんだよ」
「生誕祭、特別メニューだ。今日はケーキがタダでつく」
芽留が答えた。
ケーキをあとお一つですね、と言って娘が注文を取りにきた。俺たちはせっかくなので唐揚げ定食を頼んだ。
外では音もなく雪が降り続いている。明日になるころにはかなり積もりそうだ。
ストーブが焚いてあって、寮生がそこで燗をつけていた。
「猿田さん。悪夢はこれで去ったのかもしれませんよ」
酒を止めている猿田に言ってやった。
「まだわからないだろ」
「わからないからって、春が過ぎるまで禁酒するんですか?」
「それもそうだな」
「祝杯といくか」
芽留がメニューに目を通す。
「しなのほまれでいいか?」
「悪いな、お前たち」
普段世話になっている猿田に少しだけ恩を返せた気がした。
ノエルもこれで甘い物が解禁になった。
その日は久しぶりに夜遅くまで四人で飲んでいた。
それから数日後、二国間の合意の元で終戦が告げられた。




