100、メイクザワールド
白井国には税金がほとんどない。冒険者の収入が主な財源となっているグリードカンパニーが国庫の代わりになっている。国民は僅かな保険料くらいしか払うことがなく、国が主体となるインフラや公共事業費などはグリードカンパニーが大部分を賄っている。病院や学校、ギルドなどの施設を建てるのもその維持費を出すのも全てグリードカンパニーだ。冒険者の活躍で国民の暮らしは豊かで楽になる。子どもたちの憧れの職業だ。冒険者は能力が高いほど、稼ぎがいいほど貧しい暮らしを好む傾向にある。ユグドラシルの各国はこのような絶妙なバランスの上で成り立っている。
「猿田さん、約束の大地読みましたか?」
安い茶をすすりながら尋ねた。言われてみると安いものに味わいを見つけるというのは意外と楽しい。穏やかな気分になる。
「読んでるよ。作風が少し変わったな。挿し絵付きは初めてのことだ。国民のためにもどんどん売れてほしいものだな」
「完全なライトノベルですね」
「映像化もするらしいな。あとトロールソフトウェアのプロデューサーが約束の大地から影響を受けたといって制作中のネットワークゲーム『蒼穹のユグドラシル』が今、巷を賑わせているぞ」
「パソコン通信ですね」
「来年の春に解禁だそうだ。その頃には戦いも終わっているといいな」
プレイヤーが冒険者となり、内地と外地のオープンワールドを駆け巡るというネットワーク型のゲームだ。公になっている実在のスキルが全て登場する。スキル獲得のための過程である修行も忠実に再現しているという。あとは冒険者の細かい技は一般には知られていないものが多いから、どこまで登場するかが見ものだ。紫電などは多分出ないだろう。
「ゲームや小説というものは悪くないな。世界に浸れるからな」
「架空の世界。創作者の腕次第ですね」
ゆっくりしていると、食堂の閉店の時間が近くなってきた。おばちゃんたちが後片付けをしている。明かりは半分暗い。猿田は安い茶でも満足しているようだ。
俺たちも引き上げて風呂に入って寝よう。
そう言って湯呑みを片付けて食堂を後にした。




