91、グランベル戦記(9)
王城のバルコニー。
誰も立ち入りができないようになっている。
隅の方に大きな水槽がある。中には人が入っていて、首から下を液体が浸してある。ワンピースの寝間着姿の少女が中に入っていた。水槽から一部が繋がれた大きな植木鉢がある。そこに木が一本育っていた。赤い実をつけている。水槽からは城下が一望できる。
宰相の部屋でベッドに寝ている一人の男がいた。宰相のルカーサだ。痩せ細っている。顔色も悪い、瀕死の状態だ。グランベル皇帝もヨルコが国外追放となり、体を壊し寝たきりになっていた。皇帝には子がいない。王政も崩壊寸前だった。
現在、軍を仕切っているのは六番隊長のオウロラだ。一番、三番、五番の隊員たちは多くが自由軍となり二番隊に加わったり、民のため街の守りに入ったり、各自の判断で行動している。反乱軍である正規兵を一人でも殺せば賞金がルカーサからもらえた。ほとんどの六番隊はそれを目当てに街に略奪に出ていた。オウロラは自分の命に従う僅かな六番隊たちと城の守りについていた。
よくわからない男だ。
オウロラを知るものは誰もがそう言う。身なりの悪い男たちの中で精悍な見た目だったためにルカーサに認められた。元はただのコソ泥だった。
臣下に魔貴族がいることを突き止め、宰相であったヨルコは国外追放、魔貴族は死罪となった。ルカーサは古い文献から魔族の血を証明した。特殊な液体から魔力を吸い取ることにも成功した。その液体で育つ果凛は特別な力を持っていた。どこまでも魔力を集めれば不老不死の力を得るだろうと信じた。最初に毒味をさせたのがオウロラだった。オウロラは力が溢れてくると言った。もっと濃いものを食べれば不老不死も叶うだろうと言った。ルカーサは念のため、もう一人毒見役を立てた。お前が拒めば部下に食べさせると言ってレオンに食べさせた。レオンはその後、しばらく昏睡となった。溢れる力に体が追いついていない。やがて目覚める、とオウロラは言った。ルカーサはそれを信じ、果凛を口にした。その途端、目の前が真っ暗になり、叫び声を上げ、その場で悶絶した。元々高齢だったため、魔族の力を宿した威果凛に耐えられなかった。
ルカーサは間もなく死ぬだろう。オウロラは一人、バルコニーへとやってくると残っている威果凛を回収した。そしてそれを水槽に投げ入れた。繋がれていた植木鉢も離した。そして水槽の中の少女を見た。血色を失い死にかけているようだった。ここももう間もなく終わる。王城の庭園には戦闘の跡があった。四番隊数名と「戦乙女」イリーナの亡骸がそこにあった。オウロラは武器庫から今度はロングソードではなく一振りの黒檀を取り出すと王の間へやってきて玉座に腰掛けた。
片肘をついて目を閉じる。
悪夢がやってくる。
山の階段を登っている。頂に老婆が住んでいた。老婆はよく来たねえというと、大したもてなしもせずに部屋に篭った。老婆の部屋には見たこともないような機械があった。壁にはモニターという画面があり、コンピュータと呼ばれる機械を操っていた。モニターは下界の風景を映し出しており、下界で湧くbタキオンをコンピュータでシューティングゲームさながらに狙い撃ちしていた。老婆は霊能力者だった。コンピュータからはテクノポップな音楽が鳴っていた。外は真っ暗だ。山の上は朝が来ない常闇だった。異界のような暗い世界にテクノポップな音楽が鳴る。何とも言えないもの寂しさがあった。葬送曲のようだった。ここは死の世界か。尋ねると下界はbタキオンで溢れた。もう助からないという。そのとき、巨大なbタキオンが湧き上がった。隕石が落ちたと言う。ボスだね、と言い狙いを定めると、老婆はとうとう返り討ちにあい、bタキオンの黒い靄に咥えられた。コンピュータを動かしてみる。画面が動いた。ボスに狙いを合わせると老婆は骨になっていた。世界で最後の一人になったようだ。
というところで目が覚めた。
「……委細ない」
狂気はねじ伏せた。
悪夢を伴いながらぼんやりとかがり火の灯る部屋の中を見ていた。
王の間がこれまでにないほどの精彩を放っていた。真の主を迎えたようだ。新しい王は静かにドアの向こうへ意識を向けた。




