89、グランベル戦記(7)
少女の民家へ向かっていると、それがあろうかと思われる場所で異様な光景が現れた。突然カラスの群れが舞い上がったのである。無数の黒い影は空に溶けるように消えた。
「何だ? カラス?」
「いや、違うな」
bタキオンによる幻影だった。ここまではっきりとした幻影が映るほど濃度の濃いbタキオンだ。誰が出したのだろう。一行は急いで少女の家へ向かった。
家に着くと扉のところにその姿を見て少女は駆け出した。アキの死体だ。
「アキさん……」
涙を溢して泣き始めた。
「待て、もう一人いる」
ルインが少し離れたところでもう一つの死体を見つけた。
近寄ると、それはクライスだった。
「クライス……。一体誰が」
死体を確認すると物凄い力で腹を貫かれているのがわかった。地面が血だらけだ。失血死のようだ。体がまだ暖かい。殺されて間もない。
ヨルコがしばらく黙って見ていた後、そばにあったクライスの黒檀を拾った。そして強く握る。前の晩にクライスに丸腰ではいけません。私の黒檀をお使い下さいと言われ、そのときは断っていた。
「あのクライスが一撃だ。相当なやつがいるな」
そのとき、家の扉が開き、中から老父が現れた。
「おお、アイシャ。無事だったか。どこへ行っていた」
「おじいちゃん」
「アキさんには悪いことをした。私たちで弔いましょう」
アイシャの祖父も家に隠れており、詳しい事情は知らないという。クライスのことも二人に任せることにした。
一行はアイシャたちとそこで別れ、再び城を目指す。
街の中をカラカラと剣を引き摺りながら歩く人影があった。
「ユーリ……、リセイラ……、ゴールド……」
足も引き摺るように歩いている。傷はどこにもない。
「ゆるして……、くれ」
意識が混濁してきた。遠い過去の記憶だ。自分のものではない。血に濡れた手が見える。幻覚だ。また始まるようだ。
「ユー……リ……」
bタキオンが湧いてくる。
最後の、最後の……、最後の一人なんだ。
「みんな、どうか……、許してくれ」
水槽の中で、少女は涙を溢していた。




