88、グランベル戦記(6)
一行はセントラルフィアを越えてロイヤルベルに入っていた。目指すのは王城だ、そこに魔貴族がいる。
「王都へ入りました。ここからは二手に別れましょう」
クライスがこちらを振り向いて言う。
「あなた方は城を目指して下さい。私は一度ディラン様の元へ戻ります」
ディランにヨルコの帰還を伝えなくてはならない。それから合流する。そのつもりだった。
「わかった。途中で六番がいたら殺して構わないんだな?」
「そのようにして下さい」
ルインの言葉に頷く。一行はクライスと別れ、城を目指した。
王都ロイヤルベル。
グランベルの城下町だ。ここからは六番隊と遭遇する確率も高まる。辺りは先ほどまでとは違い、ひっそりとしていた。どうやら街の住人たちは近隣に避難したようだ。家はほとんどが空っぽのようだった。ロイヤルベルを北上していくと、今度は家の中に人がいるのが見えてきた。戦闘着を身につけた男だ。家の者には見えないし、六番隊にも見えない。同じような戦闘着の男が今度は道を歩いている。こちらに気付き、近寄ってくる。
「ヨルコ様!? ヨルコ様ですね!?」
話を聞くと二番隊の兵士だということだった。空になった民家や逃げそびれた住人の家に入り、六番隊から守っているとのことだった。二番隊は今、全員住民たちの守りについているという。ディランもどこかに潜伏しているらしい。
「ヨルコ様。どうかレオンにお気をつけ下さい」
男はそう言い残して一行を見送った。レオンは三番隊の隊長だ。クライスの話では同士討ちはないはずだったが。
そのとき、誰かが駆けてくる音が聞こえた。街の通りを向こうから人が二人、駆けてくる。一人は女の子のようだ。それをガラの悪い男が追いかけている。
「おっ、お、いい子だねえ。可愛がってあげるから、おいで」
男は戦闘着の前を開け、中に子ども向けの柄の入ったシャツを着ている。六番隊だ。小児性愛者だ。
「出たな」
うんざりした声でルインが言う。
「な、何だ君たちはそこをどけ!」
少女はアクセルたちの後ろに回り息を切らしている。
ルインがゆっくりと男に近づいていく。男が掴みかかろうとして手を伸ばした。その瞬間、ルインの肩越しに男が半回転し、地面に頭を激突させた。ルインは男の右腕を掴みながら気絶しているのを確認して言った。
「やっぱり殺すのはな。武器も持ってないし、気絶でいいだろう」
全員がそれを聞いて一安心した。少女の方を向き直る。
「た、たすけて」
少女はまだ怯えている。
「どうしたんだい」
アクセルが尋ねると少女はゆっくりと説明した。
どうやら少女の家を守っていた兵士が突然現れた男に襲われたと言う。少女は瀕死のその兵士にかばわれ、逃げ出したところをこの男に見つかったということだった。
正規兵が殺される。六番隊の仕業だろうか。一行は少女に案内され、その現場へ向かうことにした。
その頃、クライスは街の中を歩いていた。六番隊とはまだ遭遇していない。水場で水を含み、黒檀を握る柄に霧吹きをした。ディランを探す上で障害となるのは六番隊だけだろう。しかし、王城に入れば他の隊長が立ち塞がるかもしれない。辺りを見回した。
すると家の扉に寄りかかり、人が倒れているのが見えた。近づいて確認すると、同じ二番隊の兵士だった。
「アキ……」
隊の仲間だ。死んでいる。斬撃の痕がある。袈裟に切られたようだ。
剣を持つのは六番隊だけだ。しかしアキがゴロつき共に遅れを取るわけはない。一体どういうことだ。
二番隊は住民を守るようディランに命じられている。ルカーサの首を取る役目は四番隊が引き受けていた。アキはこの家を守っていたのだろう。中は空のようだ。六番隊の隊長が出張ってきたのだろうか。いや、あの男は来ない。では一体誰が。
そのとき、頭上でおぞましい殺気が湧き上がった。地面に映る影が諸手を振り上げているのが見えた。
「くっ」
ごろごろと転がって回避した。剣が振り下ろされていた。
クライスがそれを目で確認し、起き上がると人影はゆっくりと地を打ったロングソードを振り上げて肩に担いだ。
「レオン……」
突然襲ってきた人影。それは紛れもなく三番隊隊長「黒豹」レオンの姿だった。




