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T  作者: 水面
11/22

夫婦の顔。

今日は会う約束していたのに、急にキャンセルされた。

どうしても抜けられない用事があると言っていたが、どうもおかしい。問い詰めれば、夫婦で出席するパーティーだと言う。

遠の昔に破綻している仮面夫婦なのに、仲良くパーティーに出席する?

本当は、ちゃんとした夫婦なんじゃないか?

もしかしたら俺は騙されているのか?

俺は、渦巻く嫉妬を持て余していた。


しつこくパーティー会場を聞き出して俺は、そのホテルに向かってみた。

そこに行ったからといって何をするわけじゃないけれど、あなたがどんな顔して、世間体を繕っているのか確かめたかった。


やがて、ロビーに華やかな集団が現れた。

その華やかな集団の中で、仲睦まじい気に腕を組んで現れたあなたと旦那は、ひときわ目立つ存在だった。

黒のシックなロングドレスにいかにも高そうな宝石をつけたあなたは、いつものあなたじゃない。

俺には見せないような華やかな笑顔を振りまいている。

あなたの世界と俺の世界は、なんと違うことか。

俺の前ではいつも頼りなげで、儚く微笑んでいるのに。

あれは、俺のあなたじやない。


俺は、あなたがトイレに立ったのを確認して、携帯をかけた。


ずいぶん旦那と仲良さそうやね。いつもの話と全然違う。俺のこと騙してたの。


あなたなの?どこにいるの?


Tの戸惑った声。それさえ俺は裏切りだと感じてしまう。


このホテルに部屋を取った。俺はあなたが来るまでいつまでも待ってる。来てくれなかったら何をするかわからない。


それだけ言って携帯を切った。もしこの部屋に来てくれたら、Tをさらって逃げる。俺にもそのぐらいの覚悟がある。


一晩待ったが、あなたは来なかった。

翌朝、俺は惨めな気持ちで、一人チェックアウトした。

夫婦の事情?大人の事情?

そんなこと俺には関係ない。俺のことを愛しているなら、なぜ来ない。

あなたにとって、俺の存在なんてそんなものか。

人妻の火遊び?

俺が弄ばれた?


次の日、約束はしていなかったが、Tがマンションにやってきた。

俺はレコーディング中だったが、乗り気もせず、飲みに行くこともなく、マンションに帰ってきた。

扉を開けて目に飛び込んできたのは、華奢なハイヒール。

そしてあなたのひそやかな足音。

長い睫毛を伏せ、目尻には涙を滲ませ、立ちすくんだあなた。

対して無言の俺。多分心の奥底の怒りが顔に出ていたのだろう。

俺の顔を見て、あなたは途端に泣き顔になった。

俺はそんなことに騙されない。

俺は硬い表情のまま、玄関にあなた置き去りにし、リビングへ向かった。

あなたの小さな足音がついてくる。


今日来るなら、なぜ昨日来なかった?

俺がどれだけ惨めな気持ちで待っていたか…。

俺との事遊びやったんやね?


違うわ。


違うと言いながら、あなたが頭を振るたび、その両眼から真珠のような涙がこぼれ落ちる。

俺はもうたまらなくなって、あなたを抱きしめる。





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