第二話 冒険者講習と試験
第二話 冒険者講習と試験
両親の説得も無事に済み、1週間の冒険者講習を受ける事になった。
向かった先は、駅を3つほど跨いだ先にある山ばかりの町。自動車の運転免許試験場と、わりと近い所らしい。
駅からバスに乗り移動していると、後ろの席から声が聞こえてくる。
どうやら、後ろの2人組みも冒険者になるつもりらしい。
珍しいと、内心で驚く。覚醒者の数が少ない事もあって、ご近所さんや友人と一緒に覚醒し、一緒に冒険者になるという話はあまり聞かない。
中学時代の友人達も、自分が覚醒したと聞いて『我も我も』と覚醒しようと頑張っていたものだ。
と言っても、覚醒のプロセスは2年経った今も未だ不明のまま。一応、『覚醒の日』以降も少数ながら目覚める人は出ているらしいけど。
覚醒修行……というのが、ここ2年流行っている。
非日常への憧れか、魔物という脅威への対策か。何にせよ、覚醒者になりたい人は多い。
ただ、修行内容は眉唾なものばかりだ。ひたすら瞑想や滝行をするというものから、霊験あらたかな塩だの壺などを買ったり、覚醒者の血肉を食べるとか言い出したり、非合法なものも多い。というか詐欺の方が多い。
友人達も結局覚醒は出来なかった。今は、どうなのか知らないけど。
現在は、友人達と疎遠になっている。というのも、進学先が違ったので。
友人の1人は、都会の頭の良い学校へ。寮があるらしく、駅が7つも離れた場所へ行ってしまった。
もう1人の友人は、親の仕事の都合で北海道へ。仕方のない事と分かっていても、寂しいものである。
高校では、ボッチスタートになりそうだ。今から気が重い。
友達、出来るかなぁ……。
出そうになったため息を飲み込み、思考を切り替える。今は学校の事でネガティブになる時ではない。
友人達には、『取りあえず瞑想は効果あったよ』とメールしてある。2人も、覚醒するだろうか。
なぜ既に覚醒者の自分が、瞑想は効果があったと知っているか。それは、『LV』が上がった為である。
『LV』
人によっては、『霊格』とちょっと格好良く言う事もある。
本当にゲームみたいな話だが、覚醒者は筋トレや加齢以外でも成長するのだ。
世界中で覚醒者が現れた事もあり、各国がデータを出し合って基準となる『ステータス』を設定。それに基づき、西園寺先生が開発した測定器で覚醒者のステータスを把握する事が出来る様になった。
覚醒者は全員県庁の『ダンジョン対策課』で専用の道具によりステータスのチェック……『鑑定』を受ける義務がある。
数値の基準は『一般的な成人男性で10』『軍や自衛隊の精鋭で15』『オリンピックの金メダリスト級で20』らしい。ただし、あくまで目安だと西園寺先生が動画で語っていた。
自分の場合、最初鑑定してもらった結果はこんな感じ。
『大川涼』
LV:1 種族:人間
筋力:20
耐久:20
敏捷:25
魔力:35
【アクティブスキル】
・火炎魔法
・白魔法
・付与魔法
【パッシブスキル】
・魔力視
・魔力の泉
・存在証明
【ユニークスキル】
・火炎の申し子
……スキル、めっちゃ多い。と、当時は思ったものである。
ネットで聞いた話なので信憑性は微妙だが、覚醒者と言ってもスキルが1つだけという人の方が多数派らしい。2番目に多いのはスキルが2つだけって人。
自分の様に、『ユニーク』まで含めて計7つ持ちは珍しいと聞いた。西園寺先生も7つ持ちという噂である。まあ、ネットの情報なので信憑性は微妙かもだけど。
それでも、滅茶苦茶テンションが上がったものだ。特別優秀みたいな扱いを受けたのは、人生で初めてである。
スキルの内容は名前通りのものから、名前じゃ分からないものもあった。特に『存在証明』とか。
まあ、その内容を今思い出す必要はない。必要になった時に、意識すれば良いだけである。
閑話休題。それで、講習を受ける直前に『鑑定』してもらった結果がこれ。
『大川涼』
LV:3 種族:人間
筋力:23
耐久:23
敏捷:29
魔力:41
最初、ダンジョン対策課の人達に『違法にダンジョンの存在を隠し、そこでレベル上げしているのでは』と疑われたものである。
しかし、これは瞑想の結果だ。たぶん、仏教的に正しい瞑想ではないだろうけど。自分の体内の魔力と体外の魔力を意識しながら、こう……上手い事魔力を掻き混ぜまくったら、何か出来た。
何かとしか言いようがない。感覚でやっただけなので。
世界でも似た様な事例はあったらしく、事情聴取はされたけど疑いは晴れて解放された。
『プライベートダンジョン』的な物は違法なので、その辺厳しいのである。まあ、自分でも瞑想でレベルが上がるのには驚いたので、疑われるのも仕方がないだろう。
といっても、瞑想だけをしているわけにもいかない。やはり、魔物との戦闘以上に効率の良いレベル上げはないらしいので。瞑想も、1年でレベルが1つ上がる程度だった。しかもレベルが上がるごとに難易度が上がっている気がする。
何にせよ、友人達も瞑想で覚醒出来ると良いのだが。最近は引っ越しで忙しいらしく、あまり連絡を取り合っていない。
少しだけ寂しさを感じていると、バスが目的地に着いた様だ。料金を払って、バス停に降り立つ。
うちも近所に畑や田んぼがわりとある方だが、この辺は畑以外には山しかない。遠くに、民家がぽつぽつと見える程度。
バス停から徒歩で移動する事約3分。冒険者講習の会場が見えてきた。
意外と立派な建物で、何でも廃校になった小学校を改修した物らしい。
そこで、冒険者としての講習を受ける事になった。
その内容は────。
「……以上が、青色申告のやり方です」
夢とか冒険とか、そういうのとはわりと離れたものだった。
冒険者だって、職業である。ならば当然、税金を払う義務もあるわけで。
分類としてはフリーランス。企業や団体に所属する場合はまた変わるが、基本的には自分で税務署に書類を出したり、帳簿をつけないといけないらしい。
ぶっちゃけて言おう。脳みそが、疲れた。
瞼が重くなる話であったが、今日の講習の最後に簡単な筆記試験がある。これをクリアしないと、講習を受けたとは認めてもらえない。
講師の人曰く、きちんと話を聞いていたら誰でも解ける難易度だとか。余計に落ちるのが恐くなる。
ゴーレム嫁につられて冒険者になる決意をしたが、非日常への憧れも本物だった身としては、現実を右ストレートで叩き込まれてちょっと泣きそうだ。
そう思っているのは自分だけではない様で、他の講習参加者もどんよりとした空気を出している。
教室内をぐるりと見た後、講師の人は手を叩いた。
「では、30分の休憩を取ります。昼食やトイレを済ませておいてください」
そして、ニッコリと笑う。
「午後からの授業は、『魔物』に対するレクチャーです。先輩冒険者のインタビュー映像もありますので、楽しみにしていてください」
その言葉に、ちょっとだけ元気になる。
ファンタジーな話は大好きだ。夢があるので。
教室の空気がほんの少し柔らかくなったのを確認した後、講師の人も休憩に行った。
……そんな講習が5日続き、6日目。
税金以外にも今後予定されている冒険者向けの保険制度に関してや、覚醒者と非覚醒者との間に発生したトラブルの事例など、夢のない話が大半を占める中、6日目以降は戦闘訓練となった。
自衛隊の人が来て、棒術や盾術、ナイフなどの武器に関してレクチャーしてくれる。
一般的な護身術は、『危険に近づかない事。逃げる事』。
だが、冒険者は自ら危険な場所に行き、闘う必要がある。
前衛をゴーレムに任せる気満々の者でも、闘う術は必要だ。
……いや。自分魔法使いなので、魔法戦の方を教えてほしいんですけどね?え?危ないし、魔法使いでも接近戦の対処方法は知っておけ?ごもっとも。
そんなわけで、警棒や刃を潰したナイフなどを素振りしたり、それらを盾で受ける際にはどうするかを教えてもらったりした。
今の自分は、金メダリスト以上の身体能力を有している。それでも、技術の差というのは大きいらしい。
『じゃ、試しに攻撃してきてください。スキルなしで』と言われて、盾を持った自衛隊員さんに少し躊躇いながらも警棒で殴りかかったら、見事に転がされた。何をされたかもよく分からない。
そのよく分からない部分を、きちんと教えてもらう2日間となった。
付け焼刃でも刃は刃。為になる講習だったと思う。
……辛かったし恐かったけど。地面を転がるのはもう嫌である。
* * *
かくして、7日間の講習は終わり、8日目。つまり、冒険者試験の日。
座学は受かるまで講師の人が付き合ってくれるから、筆記テストでやらかしても即失格とはならない。
だが、今日の試験は違う。
なんせ────実際のダンジョンへ、潜るのだから。
この廃校になった小学校。なんと裏手にダンジョンがある。
新しく小さい神社が建てられており、その中にゲートがあるのだとか。講習の申し込みをした時に聞いたが、近くに行くと何となく迫力がある。
試験前にこれまで講習を受けていた教室に集められ、試験内容を聞かされる事になった。
「試験内容はシンプルです。ダンジョンに入ると、出口を見つけられるまで帰れません。地図は配布しますので、どうにか脱出してください」
講師の人が、淡々と告げる。
これからダンジョンに行くという事もあって、教室内の空気は硬い。
誰もが緊張で背筋を伸ばす中、奇妙な魔力の流れを捉える。
「え?」
思わず気の抜けた声を出したら、一斉に視線がこちらへ殺到した。それに、慌てて顔を伏せる。
魔力の違和感を覚えたのは、床。だが、変なものなんて何もない。無駄に注目を集めて、恥ずか……し……い?
床の上を、狐耳が通り過ぎた気がした。
……はい?
『の~じゃ……』
突然、室内に子供が頑張って低音を出したみたいな声が聞こえてくる。
狐耳に、この声……まさか!
『の~じゃ……の~じゃ……のじゃのじゃのじゃのじゃ……』
床の上を移動していた狐耳が、教壇の前で止まる。
「のぉぉじゃぁあああああ!」
まるで、水の中から飛び出したとでも言う様に、狐耳ロリ美少女が現れる。
「よくぞ来た!皆の衆ぅぅうううう!」
巫女服の袖を翻して、彼女は両手で狐さんを作り、自身のケモ耳の横へ添える。
「超絶ウルトラスーパーハイパー美少女名工!すぅぁぁあいおんずぃぃ……陽子ちゃんじゃぞぉぉおおおおい!!」
ババーン!と。いつの間に取り出したのか、講師の人がスマホで効果音を鳴らす。
そして、西園寺先生がバチコーン☆とウインクをした。
「んま!分身じゃがな!」
本来は金髪に金色の狐耳と尻尾のはずが、今目の前にいる彼女は白髪に白い狐耳と尻尾である。
「まだ冒険者になっておらんお主らに、ゴーレムは与えられん!しかし万が一試験中何かあっては困る!よって、妾がダンジョン探索についていってやろう!光栄に思うが良い!」
「あくまでついて行くだけであり、西園寺さんは皆さんの命が危険と判断しなければ、何もしません。緊張感をもって、ダンジョンに挑んでください。彼女は救助スタッフであると同時に、試験官でもあります」
スマホをしまいながら、講師の人がそう言った。
なるほど。当てにし過ぎてはいけないと。
だが、西園寺先生が分身とは言えついて来てくれるのは安心だ。彼女は『世界最強の覚醒者かも』と、まことしやかに囁かれている。
命綱があるかないかでは全然違うと、胸を撫で下ろした。その瞬間だった。
死神の鎌が、振るわれたのは。
「では、2人組を作ってください」
待って何それ日本語ですか?
え、いや、え。マジで?今から?今からなの?聞いてないよ?
慌てて、隣の参加者に視線を向ける。既に、自分から見て又隣の相手とペアを組んでいる所だった。
自分が座っているのは、窓側。隣は彼のみ。席は自由で参加者は7人しかいなかったので、折角だからとここにしたのが運の尽き。この出遅れは高くつく。
いや、というかさ。
「うむ!皆2人組みを作れ……あっ」
奇数なので、絶対1人は余るやつでは?
助けを求める瞳で、講師の人と西園寺先生を見る。2人揃って目を逸らしやがった。
「……まあ、なんじゃ。事前準備や横の繋がりを作っておくのも、冒険者には必要な技能じゃから。妾?妾はほら、分身もゴーレムもおるし」
「今回の試験は、ペアであっても個人個人の技能をきちんと見させて頂きます。ソロであっても試験内容に変更はありません。……ソロゆえに途中で体力切れになっても、今回の場合減点はされませんが」
ちくせう。
まるで誰もペアを組んでくれないから、先生と組んだみたいな空気と共に。
自分の初めてのダンジョン探索は、始まった。
読んで頂きありがとうございます。
感想、評価、ブックマークなど、創作の原動力となりますのでどうかよろしくお願いします。
Q.
なんで『白魔法』だけ色なの?
A.
『光』とか『聖』とか呼んだら、作中世界で面倒ごとが起きた様です。
Q.
今作は過去作のパラレルですか?
A.
いいえ、まったくの無関係です。過去作を知らなくても楽しめます。




