第一話 変化する日常
第一話 変化する日常
発見された死体は、どれも『大型の肉食獣に襲われた様な状態』だったらしい。
一晩の内に50人以上。しかも、山や森の近くだけではない。東京の中心でも、同様の死体が見つかっている。
その内の何件かは、被害者が『何か』に襲われている光景を監視カメラが捉えていた。
だというのに、その『何か』が当初分からなかった。
映像が不鮮明だから、ではなく。被害者を襲った『何か』だけが映っていないのだ。
ショッキングな映像らしく、監視カメラに映っていた物がテレビで流れる事はなかったので詳しくは知らない。
何でも、被害者が突然後ろから何者かに押し倒された様に倒れたと思ったら、首から大量の血が噴き出した……らしい。
そして、動かなくなった被害者の体が徐々に『消えていった』そうだ。残ったのは、ずたずたに引き裂かれ、獣の歯型が多数残った『食べ残し』のみ。
質の悪いフェイク動画にしか思えないが、事実である。
当然ながら、人々は恐怖した。そして、昨日の発生した別の異常……『覚醒者』との関連を考える者も、少なくなかった。
『覚醒者が犯人ではないか』『いいやこれは何かのトリックだ』『化け物が出現したのだ』等々。様々な噂がテレビやネットで飛び交ったのは言うまでもない。
しかも、正体不明の何かに襲われて人が亡くなった事件は、日本以外でも起きている事が判明。
ただし全員が同じ死に方をしていたわけではなく、全身から血を吸われていた人もいれば、唐突に全身の筋肉が石の様になった人もいたとか。
この謎の襲撃者の正体を見抜いたのは、とある覚醒者だった。
警察関係者だったその覚醒者が、事件発生の翌日にその映像を見たところ、
『映っているじゃないですか!人を襲っている化け物が!』
と、言ったらしい。
その人物以外の覚醒者にも同じ映像を見てもらった結果、同じ証言を得られた。口裏を合わせる時間を与えていなかったのに、『化け物』の特徴は一致していたとの事。
ここから、『本当に化け物が人を襲い、食い殺した』と政府が認めるまでに1カ月近くが経ち、その間にも世界中で似た様な被害が続出。
たったそれだけの間に、日本だけで450人以上。世界では万を超える死者が出た。
この事態に、各国政府は謎の化け物の存在を正式に認めた。後に『魔物』と呼ぶ様になり、軍や警察組織に属する覚醒者による解決に動き出す。
それにより、以下の事が判明した。
『魔物は覚醒者にしか目視・干渉が出来ない。ただし、魔力を帯びた物品ならば非覚醒者でも攻撃可能』
『魔物は人を積極的に襲う。牛や豚などの家畜への被害もあるが、優先して人を狙う』
『魔物は世界各地に残る伝説や神話に登場する怪物の姿や特徴を有している場合が多い』
『魔物は覚醒者にのみ目視出来る謎のゲートから出現し、稀にだが人をゲートの先へ連れ去る事もある』
『ゲートの先には、異様な広さの空間が広がっている。そこには大量の魔物が生息し、活動。侵入者に対し、積極的に攻撃をしかけてくる』
『魔物を倒す事で覚醒者の能力が向上する可能性がある』
『魔物は死ぬと消滅し死体が残らないが、魔物の一部が残る事がある』
……世界は本当に、ゲームの様になってしまったらしい。
誰が最初に言い出したのか、ゲートの先にある異空間の事を世間は『ダンジョン』と呼ぶ様になった。
各国が覚醒者の対策チームをそれぞれ組んで、どうにか沈静化したかに思われた。
しかし、一部の人々が突如覚醒した日……最近では『覚醒の日』と呼ばれる様になった日から丁度半年となった頃。
世界中で、地獄の門が開かれた。
各地でゲートから魔物が大量に溢れ出し、周辺の人々を襲い始めたのである。
幸運にも、自分がいた地域は被害にあわなかったが……大勢の人が亡くなった。
警察や自衛隊の覚醒者、あるいは現地の覚醒者が応戦。ある程度は倒すも、圧倒的物量差でむしろ戦死者も出たと聞く。
大半の魔物は食事を終え満足したのか、ゲートの内側……『ダンジョン』へと帰還。
この数日後に『霊的氾濫』と呼ばれる様になった災害は、一旦終わりを迎えた。
しかし、解決など当然していない。
ダンジョン内の魔物を間引く必要があると判明。だが、それをするには警察も自衛隊も、どこの国の政府機関も『覚醒者の数が足りない』となった。
何なら、ただでさえ少なかったのが先の戦いで負った肉体的、あるいは精神的な傷により離脱する人は少なくなかったという。
これに対し、真っ先に対抗策を発表したのは米国だった。
『ゴーストハンター制度』
内容は、民間の覚醒者に報酬を払って魔物を間引きしよう。というもの。
似た様な制度を他の国々も次々出していき、日本でも国会で承認された。
『冒険者制度』
ゲートの内側にある異界をダンジョンと呼ぶのだから、と。こういう名前になった。
ネットの噂だが、『少しでも若者の覚醒者の目を惹く為にこの名前となった』と言われている。
当然ながら、国内外からこの制度に対し批判の声があがった。
しかし、仕方のない事だと自分は思っている。
『1万人に1人』。それが、覚醒者の割合とされている。
国や地域によって異なりはするが、概ねこれぐらい。日本では約12,000人。しかも、質のピンキリが激しいと聞いた。
それに対し、現在発見されているダンジョンは国内に500以上。未発見のものを含めたら、もっとだろう。
これでは、とても政府機関だけの覚醒者では対処しきれない。全員が『戦える覚醒者』というわけではないのだ。
そうして始まった冒険者制度は、『とある覚醒者』の登場により賛否両論ままだが冒険者の数を増やしていく事になる。
『覚醒の日』からもうすぐ2年。自分も15歳となり、4月からは高校生になる。
自室にて、スマホのカレンダーを眺めながら、1人頷いた。
入学前の春休みに、冒険者免許を取得する。
そう決意した理由は様々だが、主に『非日常への憧れ』と『社会貢献』の為だ。
化け物を魔法で倒し、富と名声を得るなんて日々に、憧れた事がない男はそういない。
恐怖はある。だが、やはりこの欲求に抗う事は出来なかった。
そして、これは社会の為でもある。
冒険者という職業は、非常に危険だ。それでいて、あくまで民間の存在。手厚い保障があるとは言えない。
だが、誰かがやらねばならないのだ。そうでなくては、魔物の被害を抑える事は出来ない。
固い決意と共に、スマホで冒険者に関する情報を改めて確認する。
とある動画をタップし、再生。
『のっじゃ!のっじゃ!のっじゃっじゃぁ!』
奇妙な挨拶と共に現れた金髪狐耳巫女服美少女。というかロリ。
実年齢的に合法ロリと呼べるその人物が、ビシリと画面のこちら側を指差す。
『この動画を見ているそこの君ぃ!今冒険者になれば、妾が作り出したゴーレムを無料で1体プレゼント!最初はマネキンみたいな見た目じゃが、魔物を倒して成長していけばこれこの通り!』
彼女の隣に、巫女服の美女が立った。
大和撫子然とした長い黒髪をローポニーテールにして肩に流し、はんなりと笑っている。
その胸部は────特大であった。
『初めまして。この方の妻で、澪と申します』
『人間そっくりに成長するのじゃぁ!疑似人格は最初から搭載しておるから、会話も可能!好み次第では、獣型や無機物型にする事も出来るぞい!』
両手の指を狐さんにしながら、巫女服の狐耳合法ロリが可愛らしい笑顔と共にウインクする。
『さあ!君も冒険者になって、妾特製のゴーレムをゲッチュ!理想の嫁と未来へGOするのじゃぞー!』
彼女の名は、『西園寺陽子』。冒険者がより安全にダンジョンで戦えるよう、非常に高性能なゴーレムを作り出した現代の英雄。
その動画を視聴し、深く頷く。
僕が冒険者になるのはぁ⤴!『非日常への憧れ』とぉ⤵!『社会貢献』でぇ⤴す!
決して『爆乳美少女メイドなゴーレムとキャッキャウフフな日常を送りたいから』ではないのである。それを踏まえた上で、これから両親を説明しにいかなければ。未成年が冒険者になるには、親のハンコが必要だ。
事前に、県庁に新しく出来た『ダンジョン対策課』の無料相談窓口に電話し、各種アドバイスを頂いる。
親への説明をどうしようと匿名で相談したら、非常に懇切丁寧な対応をしてもらえた。正直恐いレベルで。
だが、おかげで両親の説得が可能に思えてきた。
……2人が心配してくれているのは分かっている。でも、大丈夫だよ。父さん、母さん。
西園寺大先生のおっぱ……ゴーレムにより、冒険者の死者は0人。海外からも注文が殺到している。
彼女が作り出した爆にゅ……ゴーレムさえいれば、冒険者になってもそれほどの危険はないのだ。
だから、どうか安心してほしい。
たとえダンジョンに行っても!いずれ美少女になるゴーレムと共に、無事帰ってくるからね!
読んで頂きありがとうございます。
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前作『雑種と未来人の現代ダンジョン』の『最終章 設定 + おまけ』も投稿いたしました。そちらも見て頂けたら幸いです。




