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第一章 プロローグ

よろしくお願いいたします。


第一章 プロローグ




 世界に、変わってほしいと思っていた。


 別に、何か壮大な願いだとか、悲壮な過去があるわけでもなく。ごく単純に、ファンタジーな世界に憧れているだけだった。


 華麗に剣を振るい、大規模な魔法を操り、迷宮を踏破して魔王を倒す。あと綺麗なお姫様に惚れられて、イチャイチャしたい。きっと、そんな『英雄になった自分』の姿を、男なら1回は夢見た事があると思う。


 でも現実には魔法も魔王もいはしない。この憧れを抱いたまま、自分は大人になっていくのだと思っていた。



 思っていたのだ。



『えっと……中継の、山田さん?』


『はい……山田、ですけど……?』


 中学校から家に帰って、リビングで何となくテレビをつけてすぐの事だった。


 一瞬だけ眩暈がして、画面から目を離した直後。


 最初に映っていた時々テレビで見る女性アナウンサーが、別人に変わっていた。


 褐色の肌に、日本人離れした彫りの深い顔立ち。一目で美人と分かる容姿に、スーツを押し上げる大きな胸。


 何より、横方向へ長く尖って伸びた耳。


 アニメで見る『ダークエルフ』に、彼女はなっていたのである。


 ……何かの企画だろうか。ドッキリとか?


 服装は同じっぽいが、どう見ても別人だ。素早く入れ替わったのだろう。


 スタジオの人達は本気で驚いた様子だが、彼らがドッキリを仕掛けられた側だろうか。それとも、演技なのか。


 何にせよ、凄い美人さんである。海外のモデルさんだろうか?


『え……え?いや、あの、私。これはいったい?』


 しかも演技と日本語まで上手だ。モデルさんじゃなくって、女優さんなのかもしれない。


 興味を惹かれてテレビを見つめながら、もう少し音量を上げようとリモコンを操作しようとする。


 そこで、違和感に気づいた。


「うん?」


 袖が、足りない。


 ほんの僅かだが、服が突っ張る気がした。おかしい。このTシャツ、買ったばかりなのに。いやそもそも、さっきまでは何も感じなかったはずだ。


 不思議に思い、自分の腕をペタペタと触る。すると、妙に筋肉質な感触が返ってきた。


 まさかと思い、お腹も触ってみる。最近目立ち始めていたぜい肉が、いつの間にかなくなっていた。シックスパックとは言わないまでも、腕同様筋肉質になっている。


 驚きのあまり固まっていると、洗濯物を畳んでいた母さんが靴下片手にやってくる。


「ねえ、この靴下ってお父さんのだよね?」


「え?あ、うん……そう、だと思う」


「やっぱり。もう、穴が空いているのなら洗う前に言ってよねぇ」


 小さくため息をついた後、母さんがこっちを見て不思議そうに首を傾げた。


「あんた……なんか、シュッとした?」


「……たぶん?」


 親子揃って、首を傾げる。


 憧れていた非日常。それがやってきたというのに、自分の中では喜びよりも困惑が勝っていた。



*     *      *



 大川涼(おおかわりょう)。中学2年生。日本生まれ日本育ち。ド田舎というほどじゃないけど、そこそこ田舎に住んでいるごく普通の学生。


 そう、自分で自分に自己紹介しないといけないぐらいには、混乱していた。


 だがもっと混乱したのは世間の方である。


 地方局とはいえ、地上波のテレビに流れた『変化』の瞬間。普通の日本人女性が、ダークエルフに変わった瞬間が放送されたのである。


 話題になるのは当然であり、彼女の様な事例があちらこちらから報告された事で、混乱は加速した。


 自分にも『変化』があった事を両親に告げると、最初は信じてもらえなかったが、途中から滅茶苦茶心配されたものである。


 2人のその姿を見て、内心『もしかして僕……選ばれし者なんじゃね?』と浮かれていた事をちょっと反省した。


 心配のあまり夜だと言うのに病院にまで連れていかれたが、診てくれたお医者さんからは『ビックリするぐらい健康。というか健康過ぎて変』と言われてしまった。


 それはどうにも自分だけでなく、『変化』が起きた人は全員やたら元気らしい。病院からの帰り道、ネットでその事を知った。


 この変化を、ネットでは『覚醒』と呼んでいる。『変化』では味気ないし分かりづらいので、自分もそう呼ぶ事にした。


 覚醒した者達……『覚醒者』は肉体が健康的に、そして若々しくなる。身体能力が目に見えて上昇し、更には『スキル』や『異能』と呼ばれる不思議な力まで有するのだ。


 自分も額のニキビが消え、体の余分な肉がなくなった。肌艶や髪質も良くなっている。まあ、顔の造形は変わっていないので、イケメンになったわけではないが。


 そして、不思議な力、スキルも使える様になっていた。


 ものは試しと『ステータス』と言ったりしてみたが、特に何かが出てくる気配はない。


 だが、分かる。自分の中を流れる不思議な力、『魔力』が。そして、それを消費して使う数々の技が。


 誰かから使い方を教わったわけではない。だが、分かるし、使えるという確信がある。


 人が産まれながらに呼吸出来る様に、覚醒者はスキルを発動させる事が出来るのだ。


 家に帰ってからもネットで色々調べているのだが、まだまだ不明な事だらけでこれ以上の情報はなさそうである。


 スマホを充電器に繋げて、ベッドに座り天井を見上げた。


 段々と状況が理解出来てきて、興奮で顔が熱くなってくる。


 頭に浮かぶ、ゲームで聞き慣れた単語や、ゲームでも聞き慣れない単語の数々。スキルの存在が、自分が『特別』になったのだと、告げていた。


 口元が、自然と緩む。両親の心配する姿に罪悪感を抱いていたのに、もうこれだ。我ながら、ちょっとどうかと思う。


 だが、興奮が治まらない。心臓がバクバクと音をたて、無意識にガッツポーズをとってしまう。


「っし……よっし……!」


 世界は変わった。それにより、自分も変わったのだ。


 特技と呼べるものはなく、運動も苦手だったのでクラスではいつも隅の方にいた。


 だがそんな退屈な日常は終わり、心躍る非日常がやってくる。その興奮に、何度もガッツポーズをした。


 これから、自分の人生は非凡なものとなっていくに違いない。


 覚醒者なんてものが現れたのだ。きっと、倒すべき怪物も今後出てくる……はず。たぶん。きっと。


 化け物どもをばったばったと薙ぎ倒し、金銀財宝ざっくざく!美少女達から『キャー!すごーい!抱いてー!』とか言われながら、左団扇で暮らすのだ!


 明るい未来が、待ってるぜ!


 勝ちました……。大川涼は勝ちました……。何にかは分からないが、そんな気持ちで拳を突き上げて数秒。


 ふと、思う。



 いや。化け物相手に殺し合いとか、めちゃくちゃ恐くね?



 生まれてこのかた、殴り合いの喧嘩すらした事がない。そして頭に浮かぶスキルの数々も『お前、後衛な』と告げている。


 もしも化け物が襲い掛かってきたとして、自分は普段の妄想の様に、華麗かつ理性的に対応が出来るだろうか。


 ……無理くね?頭からバリムシャーされる光景しか浮かばんのだが?


 自分は、確かに『特別』になった。スキルを、『魔法』を使える様になったのである。それも派手で、結構強いやつを。


 しかし、オンリーワンでもなければ、無双系の主人公になったわけでもない。覚醒者がどういう存在かよく分かっていないが、確かな事が1つ。


 僕は僕だ。大川涼である。


 ……うん。


 化け物云々は、保留!


 そもそも化け物なんて非科学的なもの、いるかどうかも分からんし!


 取りあえず普通に過ごそう。病院に行っていた事もあっていつもより遅い晩御飯を家族で食べて、普通に風呂に入って、自室のベッドで横になった。


 ……これが、全て夢じゃないかと少し不安になる。


 化け物にはいてほしくないけど、折角手に入った『特別』を捨てたくもない。そんな、ゲームやアニメだったら最後に悲惨な結末を迎えるキャラみたいな思いが、胸の中を渦巻いた。


 抑えきれない不安を抱きながらもベッドで横になっていれば、自然と瞼が重くなる。


 未だ『覚醒』の興奮だって冷めていないのに、意外なほどあっさりと自分は眠りについた。


 翌朝、昨日の事は夢ではないし、スキルも消えていない事を喜んだ後。



 全国で発見されたという『無残な死体』のニュースに、凍り付く事となった。



 世界は変わった。


 そして、それによって変わったのは、自分だけではなかったのだ。




読んで頂きありがとうございます。

感想、評価、ブックマークなど、創作の原動力になりますので、どうかよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
おお!新作だ!! また素晴らしい物語に期待しております!!
ランキングから適当に入ってみて、主人公の名前見てたろっぺさんだと気づきました。新作楽しみです!
自動ダイエットだけでもすごい便利でええよな。覚醒した人はたぶん余程じゃなければ健康体のしゅっとした感じだろうしw
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