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第三話 初めてのダンジョン

第三話 初めてのダンジョン




 講習会場である校舎の裏手。1分ほど歩いた先に、真新しい小さい神社……いや、祠がある。


 木造で、大きさは小屋程度。正直魔法の1発も撃ち込めば壊せてしまいそうだ。しかし、よく見れば表面を魔力が流れている。これは、魔物に有効な施設なのだ。


 何より、『祠』である事が重要なのだろう。



『魔物』とは、異世界からきた魔力生命体なのだから。



 信じられない話だが、奴らはこことは異なる世界……『魔界』と最近呼ばれる様になった空間に住んでいる、独立した魔力の塊だ。


 それが、人間達の魔力を食べる為にこちらの世界へやってきたのである。ダンジョンは橋頭保とも言えるかもしれない。


 こちらへ来た際に、大気中の魔力濃度が僅かに上昇。それに触発され、覚醒する者が現れてしまったが、それでも奴らは食事をやめる気はない。


 そして、魔物が神話や伝説に出てくる怪物の姿をしている事が多いのは、『ガワを被っているから』だとか。


 人間というものは、無意識に魔力を垂れ流している。決して量は多くないが、塵も積もれば何とやら。そして、魔力には微弱ながら意思が乗るもの。


 極端な話、大量の人間が同じイメージを思い浮かべれば、それに合わせた存在が魔力で構成される。中身のない、ハリボテだが。


 魔力生命体はそうして人々がイメージする怪物の姿を()()事で、人間界で活動する為の鎧を得る。


 魔力生命体にも意思はあるが、その魔力に『指向性』を持たせるのは大変らしい。だが、ガワを被る事で伝説に合わせた方向に魔力を使える様になる。


 たとえば、『鬼』。


 日本人が古くからイメージする鬼とは、赤い肌に、大柄で、怪力。そのガワを纏った魔物は、そんな感じの姿で人を襲うし、怪力で覚醒者を攻撃する。


 だが、鬼というガワを被る以上は、鬼の弱点がその魔物の弱点にもなるのだ。一番有名なのだと、節分で撒く豆とか。


 ただし、伝承に合っている物なら何でも良いと言うわけではなく、鬼に普通の豆を投げても何ら効果はない。魔力を帯びた豆なら、少しは効果があるかもしれないけど。


 それと、これは魔物共通の事なのだが、人間界は大気中に魔力が溶けやすい。定期的に外部から魔力を摂取しないと、ガワどころか内側の魔力生命体まで消えてしまう。


 ……と、以前西園寺先生の動画で聞いた。


『だったら八尺様みたいに、元々の伝承からかけ離れたイメージを広めて魔物を無害化しようぜ!ドスケベモン娘カーニバルの始まりだ!』


 という話が出たものの、長く染みついたイメージはそう簡単には覆せず、宗教が関わってくる場合もあるので難しい。そもそも、古くから伝わるメジャーな怪物は昔の人達が無意識に作り上げた『ガワ』があちこちに残っている。大気に溶けるペースよりも、人から発せられる魔力の方が勝っていたパターンだ。


 そういう積み重ねがあるから、今から何かやっても効果は薄いだろう。


 魔物が全て、八尺様みたいに『高身長デカ乳デカ尻ドスケベショタコンお姉さん』だったら、人類ももう少し安全に暮らせるのだが……ままならないものだ。


 閑話休題。そんなわけで、魔物は人々がイメージする怪物の姿と力を借りている。


 であれば、その魔物に有効な物品や伝承も、多少だが通じるという事だ。さっき言った豆みたいに。


 この祠もその1つ。魔の物を封じる力としては、日本においてかなりメジャーである。


 祠という『ガワ』を用意し、そこに西園寺先生みたいな凄い覚醒者が何かしら儀式を行って結界へと昇華する。これにより、ゲートから魔物が溢れてきた時も少しなら時間稼ぎが出来る様になるのだ。


 その祠に、参加者達が2人ずつ順番に西園寺先生と入っていく。観音開きの戸の先には、6畳ほどのスペースが広がり、その中央に楕円形のゲートが浮かんでいた。


 30分から1時間ほどで、それぞれのグループ……いや、『パーティー』が脱出してきた。目立った負傷者はいない。擦り傷っぽい怪我をしている人はいたが。


 講習会場の教室にて、自分の番を待つ。先に試験を終えた人達が小声で感想を言い合っているが、話しかけてもダンジョン内の事は教えてくれなかった。講師の人から口止めされているらしい。


 そう言えば、前に試験の事をネットで調べてもよく分からなかったっけ。口止めは、試験後も有効なのかもしれない。


 盗み聞きするのは気が引けたので、素直に順番を待つ事にする。


 そして、最後。自分の番がやってきた。


「では、ゆくとしようかの」


「は、はい!よろしくお願いします!」


 緊張で、声が上ずる。


 そんな自分に、西園寺先生はカラカラと笑った。


「かっかっかっ!そう硬くなるでない。まずは、装備の確認じゃぞ」


「はい……!」


 服装を確認。これは、動き易く破れにくい紺のツナギ。腰には作業用のベルトと、ベルトに通したランタン型のLEDライト。背中には地図や電池、水筒が入ったリュック。


 手首から先は軍手。靴はスニーカー。およそ戦いに行く格好ではないかもしれないが、そもそも魔力を帯びた装備でなければ魔物の攻撃を防げない。


 そういった理由でヘルメットすら被っていないのだ。


 だが、防具は1つだけ貸し出しされている。左手に持つ、『持盾』。大昔に使われていた木製の四角い盾であり、戦国時代でも屋内戦では使われていた事があるとか。僅かにだが、魔力を感じる。


 そして、武器も貸し出されるのだが……今回は、自前のを持って来た。


「ほう」


 西園寺先生が、小さく息を漏らす。


 見た目は、長さ50センチ程度の木で出来た警棒。


 ネットで購入した広葉樹の木の棒を磨いた後、1年間『自分の血を少量混ぜた水』の中に浸けては乾かしを繰り返し、片方の端っこに髪の毛数本を繋げて巻いた後、これまたネットで買った手の平大の革を上から接着しグリップにした。


 自前の、魔道具……魔法の杖である。


 覚醒者の肉体は、それだけで魔道具の素材になると、西園寺先生の動画で聞いた。


 それを参考に、バケツに張った水、それも『火炎魔法』で煮沸した水に血を混ぜてみたのである。煮沸した理由はその場のノリ。


 めっちゃ痛かったけど。『オリジナル魔法の杖だぁ!』とハイテンションで指をカッターで切ったら、思ったより深くやっちゃって『あがぁああああ!?』となったものである。


 これで失敗したら泣く自信があったが、杖は薄っすらと魔力を帯びていた。


 本当に薄っすらとだけど。でも、魔法の威力が少しだけど上がる……はず。あと純粋に打撃武器としても使えると思う。


「なんじゃお主。講習会のアンケートでは『炎メインでサブに白魔法の魔法使い』と書いておったのに、魔道具関連のスキルもあったのかえ?」


「い、いえ。西園寺先せ……西園寺さんの動画を視ながら、試しにやってみて……」


「先生とな?」


 キョトンとした顔で、西園寺先生が首を傾げる。


「あ、その」


「よい心掛けじゃな!今後も妾を先生と仰ぎ、励むのじゃぞ!」


 だがすぐに、ニパッ!と笑ってくれた。


 ほっと胸を撫で下ろしながら、大きく頷いた。


「は、はい!」


「そして動画にいいねやマイリス、よろしく頼むのじゃ!」


「はい!」


 先生呼び公認である。やったぜ。


「気合は十分らしいのう!では行くぞ、我が弟子よ!しっかりと、見守っておるからな!」


「はい、先生!」


「でも本当に気を付けるのじゃぞ。ダンジョンは危ない場所なのじゃ」


「あ、はい」


 急にマジトーンで言われ、真顔で頷く。それは本当にその通り。


 祠の中に入り、深呼吸を1回。長く吸って、長く吐く。


 緊張と恐怖、そして興奮で高鳴る胸を押さえ、ゲートの前に立った。


「体の一部が触れておらんと、ダンジョン内の別の場所に飛ばされてしまう。腰に触れるぞ」


「はい」


 ペタリと、西園寺先生の小さな手が腰に触れる。講習で既に聞いてはいたが、コンプラ的に直前でもう1回説明する必要があったらしい。


 目視で彼女の手が触れている事を確認し、ゲートへ向き直る。


「……行きます」


「うむ」


 ゆっくりと、ゲートへと足を踏み出した。


 楕円形の銀色の輪と、その内側の暗闇。そこを越えた先は、洞窟の様な場所だった。


 湿った空気が頬を撫で、ランタン型のライトに照らされた地面は濡れた様に濃い色の岩肌。


 壁に近づいてみれば、古い木の補強がされている。天井も同様であった。


 全体的に、大昔の坑道を彷彿とさせる異界……ダンジョンである。


 あまりにも簡単に、違和感なく変わった周囲の景色。それに、かえって強い違和感を抱く。地続きの場所に地獄がある様で、背中を嫌な汗が伝った。


「……これは、独り言なのじゃが」


 内心ビビっていると、西園寺先生が呟く様な声音で喋り出す。


「ここの魔物は弱い。接近戦の訓練内容は聞いておる。落ち着いてやれば、覚醒者ならば誰でも殴り倒せる相手じゃ。魔法は使える時に使えば良い。拘って、余計な隙を晒す方が危険じゃ」


「は、はい。ありがとうございます……!」


「独り言に返事は不要なーのじゃー。妾は試験官なーのじゃー」


「あ、はい」


 西園寺先生に一礼した後、杖をベルトに挟み、地図を取り出す。


 明かりを頼りに、右側の壁に視線を走らせた。すると、分かりづらいがチョークで小さく『Z-6』と書いてある。


 自衛隊の覚醒者達が、間引きの際にこうやって目印をつけてくれているダンジョンもある。ここも、その1つというわけだ。


 地図と見比べて現在地を把握。『Z-6』で、1メートルほど前方に丁字路があるって事は……回れ右して進んだ方が、出口のゲートに近い。


 覚醒者の侵入を警戒してか、ダンジョン内はその呼び名の通り迷路の様な構造をしている。道に迷わない様に、気を付けねば。


「移動します」


 西園寺先生にそう一言告げてから、杖を握り直して歩き出す。


 スニーカーな事もあって、足音はそれほど大きくないはずなのに、自分の出す呼吸音が、足音が、妙に響いて聞こえた。


 気づけば、頬を汗が伝い落ちる。まだダンジョンに入ったばかりなのに、息が切れそうだ。


 落ち着け。緊張のせいで汗が出て息が荒くなっているに過ぎない。大丈夫……大丈夫……。


 その時、前方の暗がりに魔力の動きを捉えた。


「っ!?」


 慌てて盾を構え、杖を握り直す。


 意識を向けたからか、吐き気を催す悪臭を強く感じる様になった。


 暗がりからのそりのそりと近づく、子供の様なシルエット。だが、よく見れば骨格から人とは違うと分かる。


 あえて言うのなら、二足歩行の犬。


 全身を覆うゴワゴワとした体毛。白濁した瞳。口からはだらりと舌が垂れ、体の各所で毛皮が剥がれ腐った肉が露出している。


 腐臭を漂わせた犬の怪物が、そこにいた。



『ゾンビコボルト』



 本来は、コボルトというドイツの妖精のガワを被ろうとしたのだろう。だが、魔物の中にはそれに失敗して弱体化する者達もいる。ここのダンジョンも、その1つなわけだ。


 白濁した瞳と視線が合った瞬間、ゾンビコボルトは唸り声をあげて近づいてくる。


『ヴヴヴ……!ガァァ!』


 その速度は、普通の人の小走り程度。腐敗した事で、獣の俊敏性は失われた様だ。


 だが、見た目のインパクトと悪臭が凄い。これから冒険者になるのなら、この程度は無視出来ないとダメという事だろう。


 距離はおよそ15メートル。直線の通路。ならば、『魔法』を使う。


 この状況なら、西園寺先生の言う『無理に』ではないはずだ。最初の一戦は、確実にいきたい。彼女が見守ってくれている状況で接近戦に初挑戦というのは、脱出直前でも良いだろう。


 何より────魔物を相手に魔法で攻撃するという浪漫に、抗えなかった。


 敵に杖を向け、魔力を流し込む。『フレイムアロー』と、強く念じながら。



 それだけで、魔法は発動した。



『詠唱』もなしに杖先から飛んでいく、前腕ほどの大きさをした炎の矢。高速で飛来したそれをゾンビコボルトは避けられずに正面から受け、爆炎が広がる。


 悲鳴すらもない。全身を炭化させた魔物は仰向けに倒れ伏した。


 そして、数秒の内に黒い粒子となって消滅する。同時に、何かが自分へと流れ込んでくる感覚があった。


 これが、いわゆる『経験値』というやつか。試験用の弱い魔物だからか、ちょっと少なく感じる。


 何にせよ、初勝利だ。小さく『よしっ!』と呟きながら、杖を持った手でガッツポーズをする。


 周囲の壁や天井にも『焦げ跡1つない』。魔法の調整も完璧だった。


 そして、ちょっと褒められるかもと思いながら、チラリと西園寺先生の方を見る。


 だが、そんな浮かれた気分はすぐに消し飛んだ。


「……ほう」


 彼女は、口元に手を添えて自分を見ていた。


 どこまでも冷静で、冷徹な、品定めする様な瞳。無意識に、硬い唾を飲み込む。


 首筋に、氷柱を押し当てられた様な感覚だった。全身から嫌な汗が滝の様に溢れ出す。


 今更になって、思い出した。目の前にいるのは、圧倒的強者。魔力の流れで分かる。この人は────やろうと思えば、小指1本で自分を殺せる。


 数秒の沈黙。そして、西園寺先生はわざとらしい咳払いをした。


「んん!あー……あー」


「えっと……」


「おっほん!」


 かと思えば、カッ!と目を見開く。



「え、詠唱もなしに、これほどの魔法をじゃとぉ!?」



 ……なんか、ありがとうございます。


 頑張って出してもらったテンプレな台詞に、何とも言えない空気になった。


 この人実は試験官じゃなくって、リアクション芸人枠じゃなかろうか。





読んで頂きありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
この世界線の魔物って魔界に雑種の世界線のマスターの移動する黒い森を放り込んだら全滅しそうですね。
面白かった。 臨場感のある作風ですね、引き込まれます。
基本のじゃロリはTSジジイ枠なはず( きっとあの冷や汗かかされた時はのじゃロリが滾ってたんじゃないですかねぇ(
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