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第6話 罪を犯す 1

罪を犯さない者だけが、他者を裁く権利を持つ。

 誰にだって魔が差すことはある。

 私の家族にしたってたまたま都合のいいところに憂さ晴らしに最適な相手がいたからといって、私でストレスを解消していたのだろう。


 毎日のように母親から暴言を吐かれていた頃のことを思い出す。

 話し合いでことを解決しようなんて態度は着けこまれるだけだということに私が気づいた頃には、もう私の立場はどうしようもなく弱者の側になっていた。


 悪事を行うのにたいていはたいそうな理由なんてなく、ただ単にできるからやったというだけのことが多いと思う。

 今回私に魔が差したのも大体そういう事だ。

 家族や生沼先輩に嫌がらせをしているような連中と自分が同類であると認めるのは苦しいことだが、やったことを考えると違うと言い張るのも難しい。


 とにかく私は盗みを犯したわけだ。

 違法行為に手を染めた瞬間の、あの奇妙な高揚感と罪悪感の入り混じった感覚が今も残っている。

 盗んだものに私から見て大した価値があったわけではない。

 古びて色あせた、本人にとってしか価値がないような代物だ。


 それでも誰も見ていなくてチャンスがあったから盗んだ。

 反省はしているが、反省をしたからといってしでかしたことに取り返しがつくわけでもない。

 被害を受けた人だって決して私を許しはしないだろう。

 その目に浮かんだ驚きと怒りの表情が、今も脳裏に焼き付いている。


 いっそ罰されれば気が済むのかもしれないが、どうやらそういうわけにもいかなそうだ。

 とはいえ、もし罰されたとしてもなぜ私だけがという思いは拭えないだろう。

 もっと他にも罰されるべき人間がのうのうと暮らしているではないか。

 学校という「安全な場所」で責任を放棄してきた大人たち、見て見ぬふりをした生徒たち。

 私だけが罰されるというのは理不尽というものだ。


 あの事件が起きたのは五月の終わり頃の事だった。

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