第4話 小船井郁子の穏やかな日常と謎 6
余談をいくつか付け加えておこうと思う。
結局あの絵の代わりに飾るために堀江先輩は別の絵を用意した。
そのためにわざわざ新しく描いたものらしい。
元の絵と構図は似ているが、テーマは夏に変わっていた。
青々とした木々が風に揺れる様子が、先輩特有の繊細な筆致で描かれている。
今度は特に奇抜な色使いもなく自然な色合いだったが、技術的には前の絵と同様に素晴らしかった 。
文さんは口止め料と称して絵を一枚もらったという。
絵は文さんと蒔苗さんの部屋に飾られているらしいが、私はまだ見せてもらっていない。
文さんは「あの絵がよかった」と不満げな様子だ。
文さんはあの絵がもう元通りには戻らないことを知っているのだろうか?
少しだけそんなことが気になった。
私の方は相変わらず漫画を描き続けていた。
せっかくなのでたまに堀江先輩に絵のアドバイスをもらったりしている。
このしばらくあと学校生活でいろいろとトラブルがあって、この一件の経験をもとに描こうと思った漫画をきちんと仕上げるには二ヶ月ほどかかってしまった。
傑作とまではいわないけれど、初めて「他人に見せても恥ずかしくない」と思える作品ができた気がする。
せっかくなので、文さんにも読んでもらうことにした。
文さんはわたしが漫画を描いていることを知って驚いた様子だったけど、思ったとおり馬鹿にしたりはしなかった。
感想は、
「けっこう面白いですけど、この主人公みたいな都合良く身を挺して誰かをかばうような人はちょっとリアリティがなくありませんか?」
だった。
ちょっと面白かったので、あなたがモデルですよとは言わないでおいた。




