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第4話 小船井郁子の穏やかな日常と謎 1

すべての目は同じ景色を見る。隠されるべき真実などない。

 瀬島文さんと初めて会ったのは瓶内荘に引っ越しした直後、同級生のふたりの部屋に挨拶に行った時だった。

 第一印象は断然、怖い人。

 私より頭一つ分は小さいのに、目つきがあまりにも悪くて威圧感があった。


 同室の蒔苗さんに挨拶しているところに現れた文さんを見て、思わず身構えたことを今でも覚えている。

 ある程度仲良くなった今でさえ、あの表情を見ると「怒ってるのかな」と考えてしまうほどだ。


 その印象が変わったのは翌日のことだった。

 私はその時共用の洗濯機を使って洗濯をしようとしていた。

 しかし、ボタンを押しても洗濯機はエラー表示を出して、うんともすんとも言わなかった。

 いや、エラー音は鳴っているのだけれど。


「どうなってるのこれ」


 説明書もないので途方に暮れていたその時、後ろから声がした。


「蓋がちゃんとしまってないんですよ」


 びっくりして振り向いたら文さんがいた。

 思わず声を上げそうになった。

 なにしろ文さんの眼光は迫力がある。

 いきなり見ると心臓に悪い。


 さすがにいまは慣れたからそんな失礼なことはしないと思うけど……、正直ちょっと自信がない。

 とにかく文さんはそんな私の動揺を気にした様子もなく洗濯機を指さすと続けて言った。


「古くなって蓋がちゃんと閉まらなくなってるんです。

 上からなにかで押さえてやればちゃんと動きますよ」

「え、そうなの?」


 私はとっさに言われるがままに蓋を手で押さえてみた。


「あ、動きました!」

「そうですか。

 取りあえずちょっと押さえててください」


 文さんはそう言うと洗濯機のそばに置かれていた水の入ったペットボトルを手に取る。

 どうしてこんなところに置かれているのだろうと思っていたものだ。

 そのままそれを洗濯機の蓋の上に載せ、言った。


「もういいですよ」


 一気に恥ずかしさが込み上げてきた。

 そりゃそうだよね。

 いくら洗濯とはいえ延々と蓋を押さえ続けるなんて非現実的だし、そもそも見た目も相当おかしかったはず。


「ありがとうございます!」


 恥ずかしさから若干早口でそう言った私の様子をからかうでもなく、文さんは少し笑って返事した。


「どういたしまして」


 この出来事で、私の文さんへの印象は一変したのだった。

 第一印象は最悪だったけど、悪い人ではないのだろう。

 実際、それ以後もいろいろと優しくしてくれた。


 だから文さんがあんな事件を起こすとは思えない。

 ちょっと目つきが怖くて、誤解されやすいだけで優しい人なのだ。

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