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第3話 正反対の人間 4

 帰りながらも私は反省しきりだった。

 もう少しスマートに行かなかったものか。

 それにあれでは篠原さんの方から関わってくるのは止まらないかもしれない。

 私の方はもうすべてを無視するつもりでいるけれど。


 やっぱり一発ぶん殴って置くべきだったかな。

 そうすれば向こうから話しかけてくることもなくなるだろうし。

 私の気分も多少は晴れる。

 殴ることによる気分の悪さはまああるだろうけれど。

 殴る言い訳もさっきならあったのに……。

 機を逃してしまった。


 校門を出て村尾さんと二人並んでしばらく歩く。

 何も言わないわけにもいかないだろう。

 学校から十分距離をとったところで村尾さんに話しかける。


「すみません。

 なんか面倒くさいことに巻き込んでしまって」


 村尾さんとしてはいい迷惑だっただろう。

 あんなのに絡まれて。

 もしかしたら私の悪口で盛り上がるという選択肢もあったかもだけど。

 まあ、村尾さんはそうはしなかった。


 他人の争いなんて関わりたいものではない。

 巻き込んでしまった気まずさから私にしては多弁になる。

 なにしろ同じ部屋で暮らしているのだ。

 仲たがいしたらこれからの生活に差しさわりがありすぎる。

 言い訳がましく続ける。


「同じクラスの人なんですけど、なんか結構絡まれてて……。

 勉強が嫌いなのはわからなくもないんですけど、それを私をからかうことで発散しようとしているんでしょうか。

 ちょっと困ってました。

 今日のはさすがにやりすぎだったので、きつく言ったのでこれからは減るといいんですけど……」


 まあ私からは二度と関わる気はない。

 何をいわれても無視し続ければ相手としても続けるのは難しいだろう。

 ……そのための言い訳もできた。

 あんなことを言われたならば横やりが入っても、無視し続ける言い訳が立つ。

 代償は大きかったけれど。

 お腹が痛いし、帰ったらふて寝しよう。


 そんなことをぐだぐだ考えている私と違って、村尾さんの返答は相変わらず簡潔だった。


「いいよ、別に。

 巻き込まれたといっても大したことはないし。

 こういう言い方は悪いかもだけど、むしろ瀬島さんのいつもと違う面を見られて面白かったよ」


 だから私のことをなんだと思っているんだ。

 とりあえず不快には思われていないようなので安心した。

 いや本心ではどうなのかはわからないけれど。


 村尾さんは続けていった。


「それにしても災難だね。

 勉強が嫌いな人は多いし、なんか知らないけど勉強していると絡んでくるよね。

 僕もよくからまれたもんだ」


 村尾さんも経験があったのか。

 これまでだいたいの環境で勉強を好んでする人間の方が少数派で一方的に言われっぱなしで困っていたけれど、ここでは私たちが多数派だ。

 少しぐらい溜飲を下げさせてもらおう。


「まったく。

 困りますよね。

 他人が何してるかなんて気にしなければいいのに。

 どうしてあんなに絡んでくるのやら。

 そんな暇があるなら自分のやりたいことを少しでも進めればいいのに」


 それが大きな不満だった。

 続けて言う。


「だいたいあの手の人って個性が大事っていう割には他人のやることを見下すんですよねー。

 個性が大事って口では言いながら、大事なのは自分が好き放題やることなんじゃないかって邪推したくなりますよ」


 まあ他人の内心なんて私にわかるわけもない。

 邪推は邪推だ。

 現実とは分けて考えないと。

 くだらないことを言ってしまったなと反省する。

 村尾さんの返答は少し意外なものだった。


「よく言われるし、僕もたまに思うのはそもそもああいうことを言ってくる人というのは頑張りたくない人だって話。

 自分が頑張りたくなくてさぼっているのに、周りの人が頑張っているのを見て後ろめたくなって文句を言うんだって」


 なるほどな、とは思った。

 そうであればこれまで言われてきたいろいろな文句にも納得がいく。

 ただこれは私の話の振り方が悪かった。

 村尾さんには悪いけれどあまり好みの話の流れではない。


「すみません。

 私から言っておいて何ですが、この話はここまでにしましょう。

 あんまり他人の内心を想像するものでもないですよ」


 いきなり話をさえぎったからか、村尾さんは戸惑っているようだ。


「と言うと?」

「他人の内心なんてせいぜい一人で想像してストレス解消するのに使うくらいまでにしておくべきです。

 それだってあくまで想像にすぎないということは意識してやるべきです。

 他人とあいつの内心はこうなんだなんて決めつけて話をするべきではありません。

 そんなことだと……」


 あいつらと変わらない……、と言いかけてこれも内心を決めつけているかと思いとどまる。

 突然黙り込んだ私を見ても村尾さんは特に戸惑う様子もなかった。

 むしろなんだか面白がっているような気配がする。

 それこそ内心の迷走を読まれたような気分になる。

 ごまかそうと私が口を開くよりも、村尾さんの言葉の方が早かった。


「内心を決めつけるべきではないか、そういう行動原理なんだ。

 面白いね。

 じゃあ僕としても一つ確認して起きたいことがあるんだけど……」


 少し前に出て振り返ると目を合わせてきた。


「あの人……、篠原さんに家族のことを吹き込んだのってたぶんわざとだよね?」

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