地香に近づく物語3話 嫌いなものは嫌いでいい
地香の過去篇ラストです。
彼女が知るのは、自分が見失ってはいけない大事な何か…
続きをどうぞ!
八重坂地香は基本的に無敵だ。
余程の事が無い限りは怪我だって早々負わない。例え負ったとしても掠り傷程度だろう。それに一度も風邪全般の病気に掛かった事すらない健康体。
ヤバい位の力も制御も出来ている為、中学では今や地香のいるチームは負け無し。男子チームにも圧勝している。
苦手な事があるとすれば勉強位だが、基本的に好き嫌いはしない正に怖いもの無し!なのだが…
(アレ…蜘蛛じゃん!?デカ過ぎじゃね、てかそれよりも早く動け私の足ィィィィィィィ!!!蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い!クモコワイクモコワイクモコワイクモコワイクモコワイクモコワイクモコワイクモコワイクモコワイよぉぉぉぉぉぉ!!!)
地香が唯一嫌うのが蜘蛛である。
本人曰く『アレって足八本あるじゃん!?キモイよ!怖いよ!それに至る所に巣を作ってるんだよキモすぎ!あのフォルムと目が滅茶苦茶怖い…』
兎に角。地香は失禁しても可笑しくない位に蜘蛛が怖いのである。
まだあの巨大蜘蛛。今はヘル・スパイダーとしておこう。そのヘル・スパイダーが何時地香の気配に気付くかが問題である。
「マズイ。地香の常軌を逸した蜘蛛嫌いのせいで体が恐怖で動けなくなってる…」
「くっ!あの銀蠅女ならともかく、地香先輩が危険な目に遭ってるなんて…どうしましょう」ボソッ
「どっかのブラコン女なら見捨ててたけど、あの子となると話は違うわね。どうしたものか…」ボソッ
2名程、互いにディスりながら地香の身を案じている。
それほどまでに地香の蜘蛛嫌いは周囲が心配する程のものなのだ。
だが、そんな状況でも…
眉一つ動かさずに地香を見据える奴が1人いる。
モチロンそれは…
「…らしくないぞ。バカヒーロー!」
廻は、廻だけは、地香に聞こえる位の声量で喝を入れた。
「―ッ!?」
廻の突然の喝に地香の体は思わずビクッとなって未だに震える体を何とか動かしてなんとか顔だけを廻方面へと向けた。そしてその後に廻は地香に向かって問いかける。
「テメー、何情けねぇ顔してやがんだ。皆を守ると息巻く正義のヒーロー気取りのバカが!そんなチワワみてーな震え様じゃあとてもそうは見えね~ぞ?」
罵詈雑言の嵐。相変わらずの毒舌っぷり。こんな状況下でも彼の舌はキレッキレッだ。そして、まだまだ続ける。懲りるまで続ける。動じず続ける。
「確かにソイツは些か人の手に余る強大な怪物だ。人々の安全を脅かすバケモノだ。恐らく消えちまった連中もソイツの餌食になったんだろう、残念だがな。逃げたくなる気持ちも分かる。怖いものは怖い。嫌いなものはやっぱり嫌いさ。だがな…」
今まで、刺々しい程の罵詈雑言毒舌達者な言葉の刃の嵐は終え…今は全てを吹き飛ばす激励の追い風を吹かせた。
「失ったものはもう取り戻せない。それは変えられない事実だ。だが、まだ救えるものはある!それはお前が守りたい町の人々の笑顔だっ!一歩だけでも踏み出せっ!口角上げろっ!嫌いなものは嫌いでいいさっ!だがなぁ…正義のヒーロー気取るならそれさえぶち壊してみせやがれぇぇぇ!」
そして、地香の失い欠けてた瞳の奥の炎は…
メラメラと燃え始めた。
☆
私ってば、バカだなぁ。
まさかホントにこんな蜘蛛のバケモノが出てくるなんて。最初はどんな奴でも掛かってきやがれって精神で来ていたけど、あの時の勢いは何処に消えて行ったのだろう。私でも分からない。
ただ一つだけ分かることと言えば、私が今まで出会った事の無い恐怖の権化を目の当たりにした時から私のなけなしの勇気は消えてしまい身体中がどうしようもなお恐怖で埋め尽くされてしまった。
これじゃあ…廻に笑われちゃうな。
優にも、優衣ちゃんに、美里っちにも迷惑掛かっちゃうみたいだね。
ゴメンね。もう、足がね…動かないの。情けない事に足が木偶の坊みたいに…もうこれは私の足ではないみたいな感覚なの。
もうそろそろ、あの蜘蛛も私の方向へとあのギョロギョロとして何個も目が付いてる気色悪い眼球は私の事を餌だと認知するだろう。
抵抗する気力もないなんて、情けなくて…情けなくて…不甲斐なさ過ぎるよ。
あぁ、もうこれで―
「…らしくないぞ。バカヒーロー!」
もう目を閉じて現実から逃避してやろうとミヤになっていた私の耳が、廻の声を拾った。
閉じかけた瞼を今一度開き、焦点すら合わない瞳を動かして何とか顔だけを廻方面へと振り向かせた。
「テメー、何情けねぇ顔してやがんだ。皆を守ると息巻く正義のヒーロー気取りのバカが!そんなチワワみてーな震え様じゃあとてもそうは見えね~ぞ?」
いつも通りの、もう聞き慣れた廻の嫌味やら罵詈雑言の嵐。鋭い毒舌。だが、その言葉の1つ1つが私の胸に深く突き刺さる。
「確かにソイツは些か人の手に余る強大な怪物だ。人々の安全を脅かすバケモノだ。恐らく消えちまった連中もソイツの餌食になったんだろう、残念だがな。逃げたくなる気持ちも分かる。怖いものは怖い。嫌いなものはやっぱり嫌いさ。だがな…」
散々私を嘲った後に来る。包み隠さず情け容赦なく現実を突き付ける行為は廻の性格そのものの様な感じがした。大抵の人間はここでキレるの普通だろうけど…私には、そんな気力も…
「失ったものはもう取り戻せない。それは変えられない事実だ。だが、まだ救えるものはある!それはお前が守りたい町の人々の笑顔だっ!一歩だけでも踏み出せっ!口角上げろっ!嫌いなものは嫌いでいいさっ!だがなぁ…正義のヒーロー気取るならそれさえぶち壊してみせやがれぇぇぇ!」
「―っ!?廻…」
そこからだ。私の奥の奥に眠っていた炎が燃える音が聞こえたのが。もう消える寸前の蝋燭に新たな光を灯した。
廻の余計なお節介でようやく思い出した。
私がここに来たのは皆の安全を守る為、皆の笑顔を守る為、皆の明るい明日を…未来を繋げる為だって。
なんてこったい…
私は恐怖の余りそんな事すら忘れていたなんてさ。これじゃあヒーローは名乗れ―
(いや!こっから大逆転するのがヒーローってもんでしょ!廻…!)
怖くても嫌いでも、そんなのに構ってちゃ“ヒーロー”なんて名乗れない。
今の私に欠けていたのは、恐怖に立ち向かう勇気と私が私をヒーロー足らしめる誇りが無かったんだ。
『KISHAAAAAA!!!!』
もうあの蜘蛛と目が合ったけど、そんなに怖くない。むしろちっぽけに思える位。
今の私に勝てると思う?
私の気迫に少し怯み気味の巨大蜘蛛。それでも、私は歩みを止めない!
「奇声上げんじゃないわよこのデカブツっ!今まで食われた人達の無念の全てを、この私!八重坂地香が全て残さず晴らしてやるぅぅぅぅぅ!!!」
地香は自らの理想へと一歩踏み出した。
☆
そこからは地香の独壇場だった。
虫取編みだけであの巨大蜘蛛と善戦し、足の数本を持っていった。途中で虫取編みが壊れたり、あの巨大蜘蛛の腹部から放たれる糸の攻撃により一時身動きがとれなくなり地香これは大ピンチかと思いきや?
ただ腕力だけで太く硬い糸を引きちぎり、お返しと言わんばかりにその場にあった大樹を根っ子ごと気合いで引っこ抜き巨大蜘蛛をまるでハエたたきの如く大樹でぶっ叩いた。
そして見事にクリーンヒットし、蜘蛛は内臓を汚ならしくぶちまけて死亡。
地香は遂に、恐怖に打ち勝つ事に成功したのだ。
これらの攻防を間近で見た人達の反応は…
美里「目を疑いましたよ。隣を見てみると同じく私の様に目をパチクリさせたブラコン女と目が合い気不味くなりましたが、何事も無かったかの様に視線を戻しましたね」
優衣「まるで特撮モノを見ているのかと思っちゃいましたよ。だって地香先輩、アクションヒーローばりの常軌を逸した身体能力…もうゴリラそのものでしたよ」
優「いや~~~あれはヤバかったね。虫取編みで応戦してから蜘蛛の足をへし折り、虫取編みが使い物にならなくなったら蜘蛛の目ん玉に投擲してから大樹を引っこ抜いてボッコボコですよ。逆にあの蜘蛛より地香が怖くなった!」
廻「…ノーコメントだ」
これが、後の地香の最強伝説の1節となる《地香の巨大蜘蛛退治伝説》となる。
彼女があの時知ったのは…
恐怖とは、自分の前に現れる強大で思わず尻込みしてしまう程の分厚い壁とも取れる。
その恐怖に臆して1度…何度も遠回りしてでもその壁を避けるだろう。
当然だ。恐怖にはいろんな種類がある。
幽霊やゾンビ、怪奇現象などの背筋がゾクッとする恐ろしさ…
暗闇や高い所、自分が苦手とする所の恐怖…
他人と離れていく恐怖…
嫌われてしまうのではないかと言う不安…
そして、いつか来てしまうだろう死への恐怖などと、恐怖の対象は人によって様々だし複数抱えている事も珍しくもない。
誰だって、心の奥底では恐怖を隠し持っているものだ。だけど、土壇場で…自分の限界以上の力が求められた時に、その恐怖の対象と対面する時が来るだろう。
それに臆してしまう時もあるだろう。だが、怖くても立ち向かわなきゃ…何も成せない。
壁の前で立ち止まってる自分を一生越えられないんだ。
何が言いたいかっていうと…怖いもの怖い。嫌いなものは嫌い。それはそれでいい。それを責める人は誰もいない。誰も出来ない。
だけど、それらを嫌でも乗り越えなきゃいけない日は少なからずやって来る。その時にこそ、例え怖くても自分の為に、自分の力で乗り越えなきゃいけないって事だ。
自分から一歩踏み出せない時もあるかも知れない。その時は、廻みたく自分の背中を押してくれる親友や家族等が貴方達の周りにはいます。
その人達を是非頼って下さい。
絶対に力になってくれますから!
次回から本編です。3章もいよいよクライマックス!!!




