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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

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第九十二話 「血晶界クリムゾナイト ― 魔王都カルミナサスへ」

世界は赤く染まっていた。


ただ色が赤いのではない。

“染まり方”そのものが異常だった。


山の稜線、地平線、舞い上がる風、

どれもが血晶の光を帯びて赤黒く発光し、

まるで世界そのものが生き物のように脈打っている。


空は対照的に青く澄み、

赤と青の二色がぶつかる境界は、

見ているだけで精神を揺さぶる。


ここは――


血晶界クリムゾナイト


魔界階層の中でも魔素濃度が高く、

地表は血晶、魔素の結晶体に覆われ、

地熱が絶えず吹き上がり、

武を極めた魔人族、魔族たちが住まう世界。


足を踏みしめれば、

血晶が「コォォ……」と重低音で鳴き、

その振動が骨にまで伝わる。


普通の人間なら、

ここに立つだけで膝が砕け、

肺が焼けるような痛みで倒れるだろう。


だが――


この地に住む者たちにとっては、

この“脅威”が生活そのものだった。


血晶を掘り、

魔紋を鍛え、

武器を研ぎ、

敵を斬り、

強きを敬い、強さを誇る。


この土地は、

魔界の文化そのものと言ってよかった。




そんな赤い世界の荒野を、

二つの影が疾走していた。


銀白の長髪が風を裂く。


八魔席エイト・スローンズ第四席――

アルディロ。


無表情。

だがその目に揺らぎは一切なく、

抱えるゼールとゼファルの重傷にも取り乱さない冷静さを保つ。


そして――


赤髪の女性が大地を跳ねるように進む。


第五席――ゼレス。


明るさと豪胆さを兼ね備えた魔族で、

本来なら魔都の誰よりも声が大きく、よく笑う女だが――

今の表情はさすがに強張っていた。


抱えられているのは四人。


ゼール。

ライラ。

セタン。

ゼファル。


彼らは、それぞれが国の中でも名を轟かせる強者たち。

その四人が今――


瀕死。


血に塗れ、

魔紋の輝きもほぼ消え、

呼吸すら細く、荒い。


ゼレスが抱える二人の重さに、

彼女の腕が震える。


「……ひどい……ほんとに……」


ゼレスは歯を噛みしめるように呟いた。


アルディロは淡々と告げる。


「案ずるな、大いに助かる可能性はある」


「わかっています……でも……」


腕に伝わる体温の低さが、焦りをさらに募らせる。


ゼレスの瞳には、

“原因”が脳裏によぎっていた。


黒い右脚。

黒紋。

黒剣。

青黒い炎。

重力を歪める一撃。

そして――暴走した少年の目。


忘れようと思っても、

まぶたの裏に焼きついたまま離れない。




赤晶の大地を抜けてしばらく進むと、

地平線に巨大な黒い影が現れた。


遠くからでもわかる。

それは“城”ではない。

都市そのものが城郭化した巨大建造物。


魔界文明の粋を極めた国家、

血紋国カーミナスの心臓部。


街の名前は――


魔王都カルミナサス。


近づくほどに空気が変わり、

魔力の密度が肌に刺すようにまとわりつく。


高層塔の壁には血紋が脈動し、

街路は魔紋のラインが走り、

魔剣師や魔紋刻士の店がいくつも並び、

武器を鍛える音、魔術式の炸裂音、

商人の声が入り乱れる。


魔界の経済・軍事・学術が集約された巨大都市。

生きている大地の上に築かれた文明の集合体。


そして――

その中心に立つ者こそが、

魔王バル=ドラガス=カーミナス。




大通りに二人の姿が現れた瞬間、

街の空気が一変した。


「アルディロ様……!」

「ゼレス様が……!」

「ゼール様を……抱えて……?」

「ライラ様たちも……あの三人まで……!?」


ざわめきではなく、“震え”だった。


八魔席の帰還は滅多にない。

それだけで大事件だ。


だが今日は違う。


人々のざわめきには、

不安と恐怖が入り混じっていた。


そんな中、ゼレスは――


「ただいまー! みんな元気だったー!?」


と明るく手を振る。


きゃああああ!!

ゼレス様ぁぁ!!


声援が一気に巻き起こり、

通りが華やぐ。


アルディロはため息をつく。


「……軽すぎる」


「だって、怖がられたくないですし?

 アルディロさんは黙ってても威圧感が……」


「事実だ」


二人のやり取りに、

街の緊張がほんの少し溶ける。


だが、その裏では――

鋭い視線がゼールの傷へ突き刺さっていた。


「右半身が……ほとんど……」

「腕すら……再生していない……」

「何が……起こったんだ……?」


魔人族たちは皆、悟っている。


この戦力がここまで傷を負う事象など、

普通は存在しない。


“何かがこの魔界を揺るがす可能性がある。”




ゼレスがふと空間に手を突っ込むと――


ボウッ……


空気が歪み、黒炎が渦を巻き、

一本の刀身が姿を現した。


アイザックが投げた黒い剣。


「あれが飛んできた時は、

 本気で死ぬと思いましたよ……」


アルディロの瞳も僅かに揺れる。


「……あの爆発は異常だった。

 転移先の辺境が青黒い炎で焼け、

 一帯が……消し飛んだ」


ゼレスが苦笑する。


「アルディロさんが障壁張ってくれなかったら

 私、危なかったですね……」


黒剣は、まるで意思を持つように

ボウッ…と小さく黒炎を漏らした。


二人の背筋に、

魔界最強格である彼らですら覚える

“未知への恐怖”が走る。




「見えてきたな」


アルディロが低く呟く。


魔王都の中心。

血紋城カルミナサス。


百メートル以上の高さの城郭、

血晶と黒岩を組み合わせた“生きた壁”。

門には魔王の威光を象徴する紋章が脈打つ。


門兵たちは、二人を見るなり声を失った。


「ア、アルディロ様……!

 ゼレス様も……!

 ゼール様……なんというご容体!」


アルディロは冷静に告げる。


「通せ。急ぎ陛下に会う」


「は、はい!

 陛下はすでに謁見の間でお待ちしております!」


門が開かれると、

魔素が風となって吹き抜けた。


門兵たちは二人を見送りながら、

深く頭を下げ続ける。


彼らには理解できていた――


この一件は、魔界規模の大事件である。


二人は城の奥へ歩み続ける。


瀕死の仲間を抱え、

魔王へと真実を届けるために。


そして――

魔界の運命が静かに動き始めた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回は舞台が大きく変わり、

魔界の一角である血晶界クリムゾナイトを描かせていただきました。


魔王都カルミナサス、八魔席、

そして瀕死で帰還したゼールたち――


アイザックの“暴走”が、

どれほど大きな波紋を魔界にもたらしたのか、

その一端を感じていただけたら嬉しいです。


次回は、ついに魔王が登場します。

この一連の事件に、彼は何を見出すのか。


引き続き見守っていただけると励みになります。

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