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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

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第九十話 「黒き暴走、英雄の影」

部屋の空気が、ほんの少しだけ重くなった。


カールアさんが続けようとしたその瞬間――

シルファさんがその肩に手を置き、静かに引き継いだ。


「カールア、その続きは……私が話すわ」


その声音には、いつもの軽やかさはなかった。

弟弟子を傷つけたくないという思いと、しかし真実を伝えなければならない責任――

両方を背負った者の声だった。


「端的に言うわね、アイザックくん」


僕を見るその瞳は、まっすぐで、逃げ場がなかった。


「暴走したあなたは――

 一瞬だけど、本気じゃなかったとはいえ……

 冒険者SSランク級の私と、レオニスさん、ミレナの三人を相手取ったの」


「……え?」


理解できない言葉ほど、頭に入ってこないものだ。


「しかも、あそこの二人はカールアと同等の強さよ。

 それすら……あなたは圧倒した」


シルファさんの言葉に、胸の奥がざわりと揺れた。


Eランクの僕が――?

SSランクと三人?

圧倒……?


そんな馬鹿な、としか思えない。

だが誰も笑っていなかった。

誰も否定していなかった。


むしろ、その事実に触れたときの空気は、どこか恐怖にも似ていた。


「そして……」


シルファさんは苦しげに視線を伏せた。


「カールアも言ったけど、

 あなたは、まるで“敵しか見えていない”かのようだった。

 誰が仲間で、誰が敵か……その区別すら消えたように」


その言葉だけで、背中がぞくりと冷えた。


「私たち三人と戦っているときのあなたはね、

 さっきまで黒かった右脚と同じように、凝縮された魔力で――

 右半身に“黒い鎧と兜”を形成していたの」


その情景が脳裏にありありと浮かぶ。


「動きは速すぎて、気を抜いたら目で追うことすらできなかったわ。

 それに私はまんまとやられて、エンフォルスを使った剣すらいなされちゃったしね。

 戦っている最中……あなたの左半身の黒紋が、より濃く脈打っていった」


シルファさんは、してやられたみたいに苦笑しながらも、

淡々と事実を並べていく。


それはまるで、別人のような描写だった。


僕じゃない“何か”が動いていたような――そんな感覚。


「レオニスさんがあなたに、

 のしかかるように正面から斬りかかっても、

 あなたは受け止めたの」


「かなり濃いオーラを纏った一撃だったにも関わらずにね」


「……あれは、正直驚いた」


レオニスさんが苦笑する。

だが、その目に宿るのは本物の戦慄だった。


「俺たち三人の連携にも対応し、

 シルファの剣速にもついてきた。

 普通なら絶対にありえない。

 ――誰が見てもアイザック、お前は“災害”だったぞ」


レオニスさんがそう言って、口を閉じる。

代わるように、シルファさんが静かに締めくくった。


「けれど……」


その声だけが、ほんのわずかに震えていた。


「あなたの剣は、“命を奪うため”だけのものではなかった。

 たしかに残虐性に満ちていた。

 ――でも、立ち塞がるものを排除していただけ。

 私は、そう感じた」


「……本当ですか?」


思わず、確認するように問い返していた。


「ええ。断言できるわ」


胸がぎゅっと締めつけられた。


暴走していたのに……

自分が自分ではなかったのに……


それは救いなのか、ただの偶然なのか。


思考がまとまらず、自然と聖女様へ視線が向いた。


ラフラシアン様は、静かに頷いた。


「……あなたは、英雄と呼ばれるに値する方です。

 しかし――それは称号の話ではありません」


目の奥が深く揺らいだ。


「アイザックさん。

 あなたが怖れている“暴走”こそが、

 ――この国を救い、世界を揺るがせる力なのです」


空気が変わった。


部屋全体が、まるで深い水底へ沈んでいくような静寂に包まれる。


聖女様は続ける。


「あなたは……この国にとって、そして世界にとって

 “特別な存在”になり得るのです」


誰も息を飲む音すら出せなかった。


心臓の鼓動だけが、やけに大きく響いていた。


ラフラシアン様の次の一言は、

刃のように鋭く、確信を帯びていた。


「――あなたが恐れている“それ”こそ、

 あなたを英雄たらしめたのです」


その瞬間、背筋に電流が走った。


(……僕は、自分の“怖いところ”にも向き合わなきゃいけない)


そんな気がした。

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