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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

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第八十九話 「黒髪の覚醒」

ここから先の話は、実際にその場にいた方々からお聞きいただく方がよろしいかと思います。


ラフラシアン様の静かな声が部屋に落ちた瞬間、

空気がぴんと張り詰めた。


「仰る通りです。では……私とカールアから話そう」


ハルドさんは深く息を吐き、

僕へ向き直る。


「アイザック。まずは――どこまで覚えている?」


真正面からぶつけられた問いに、

少しだけ喉が鳴った。


「……皆さんが知っている通り、僕はゼールさんに右脚を斬られました。

 その後、這ってでも彼をなんとかしようとしましたが……

 そこから先は、何も」


言葉にすると、記憶の欠落がより鮮明になる。


「次にはっきり意識を戻したのは……城壁の上です」


僕が答え終えた瞬間、

部屋にいた全員の表情が曇った。


重い影が落ちる。


「なるほどな」


ハルドさんが腕を組み、静かにうなずいた。


「王都へ援軍を呼ぶためにシルファが発ったことは覚えているな?」


「はい。でも……戻られた時の記憶は、全くありません」


僕がそう言ったときだった。


「ここからは私が話すわ」


カールアさんが前へ出た。


その瞳には――

覚悟と後悔のような複雑な光が宿っていた。


逃げない。

弟弟子のために伝えるべき真実がある。


そんな表情だった。


「アイザック。あなたは――英雄よ」


不意に投げられた言葉に、胸がひとつ跳ねた。


「だって私たちじゃ絶対勝てない相手――

 “魔人族三人より強い魔族”、ゼールに……あなたは勝ったの。

 圧倒的に、よ」


「え……?」


理解が追いつかない。


「でも、あなたが“圧倒し始めた”のは――」


カールアさんは、唇を噛みながら続けた。


「意識を失って、右脚を失った直後だった」


息が止まる。


「その瞬間、あなたの身体中に“黒い紋様”が浮かび、

 胸元には紋章のようなものが走った。

 赤茶色の髪は漆黒に染まり……

 そのさっきまであった黒い右脚が形成されたの」


「黒い紋様は、まるで生き物のように脈動していて……正直、私……怖かった」


部屋の空気が震えた。


聞いているだけなのに、

自分の身体が別の何かに変わっていく映像が脳内で勝手に再生されていく。


「そして……」


カールアさんは目を伏せ、

苦しそうに息を飲んだ。


「辛いかもしれないけど、聞いてほしい」


顔を上げたその瞳は、真っすぐ僕だけを見ていた。


「――あの時のあなたは、目に映るすべてを“敵”と見なしていた」


心臓が強く締めつけられる。


「瞳には残酷さと憎悪が宿り、

 ゼールを……処刑するようにいたぶったわ」


部屋の温度が一度下がったように感じた。


誰も息をしない。

誰も動かない。


ただ言葉だけが、静かに落ちていく。


「さらに、ゼールより強い魔族が二人現れたけれど……

 あなたは一歩も引かず、むしろ追い払ったの」


「……僕が? 本当に……?」


「本当よ。私もハルドさんも……信じられなかった」


そして。


「魔族たちはね……ゼールを抱えて“次元を歪めて”逃げたの」


次元。

歪めて?


現実感がふっと遠のいた。


世界の規模が急に変わる。


でも、カールアさんの声だけは鮮明に届く。


「あなたが意識を失っていた時間――

 そこには、確かに“別のあなた”がいたの」


僕は息を飲んだ。


胸の奥がざわり、と波立つ。


知らない自分。

覚えていない自分。

それなのに皆が恐れ、そして守られた“何か”。


理解できない。

でも――知りたい。


静寂を破ったのは、聖女ラフラシアン様だった。


「……これが、あなたが知らなかった“真実の入り口”です」


その声音は静かだったが、

どんな刃より鋭く胸に刺さった。


そして、話はまだ続く。


これは――

まだほんの“前編”にすぎない。

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