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創命理念で異世界ライフを  作者: Izma
戦後療養編

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第八十七話 「本人確認と、胸の奥の違和感」

とうとう――僕の、この“黒くなってしまった右脚”は治るんだ。


そう思うだけで、胸の奥がじわりと熱くなる。

期待とも安堵ともつかない感情が、波のように寄せては引いていく。


カールアさんの背に揺られながら歩く廊下は、やけに静かだった。

屋敷全体が息を潜めているようで、靴音だけが規則的に響いていた。


(……もうすぐ治る。本当に。痛みよりも怖さよりも、その事実が身体の芯まで響いてる……)


「こちらへ。進行方向、右奥の部屋です」


護衛騎士が示した先には、重厚な扉があった。


(あれ……四部屋あるのに、みんな同じ部屋へ?いや広いなら問題ないんだろうけど……

 わざわざ“全員同室”ってどういう意図?)


胸のどこかに、小さな違和感が積もっていく。


扉の前で護衛騎士が恭しく頭を下げた。


「ラフラシアン様、皆さま。お入りください」


扉が静かに開く直前、聖女様は護衛に向き直る。


「近くに誰か来たらノックは二回。緊急時は三回で知らせなさい。……よろしいですね?」


護衛たちはきびきびと頷いた。


(緊急事態……?治療でそんなことが起こるのか?)


胸の奥に、冷たい震えがひそやかに落ちていく。




部屋に入ると、思っていた以上に広かった。

八人全員が入っても圧迫感はなく、むしろ静けさが漂っている。


ベッドが三つ。

深い青のソファと磨かれた木製のテーブル。

壁には上品な風景画が掛けられていた。


(……完全に“特別客室”だ。冒険者の僕が入る場所じゃないくらいの……)


テーブルには、白い布で覆われた三つの物体。

ただそれが視界にあるだけで、胸に妙な重みが落ちる。


僕とハルドさんは、用意されたベッドにそっと横たえられた。


「カールアさん……長時間、おんぶしてくれてありがとうございました」


「全然!気にしないで。軽かったよ」


軽く笑うカールアさん。

初対面のときの刺々しさなんてもう感じられない。


(……変わったのは僕じゃなくて、僕に向いてくれる“みんなの感情”なんだ)


そんなことを思った、そのとき。


「まず、謝らなければならないことがあります。……アイザックさんに」


ラフラシアン様の声が、部屋の空気を一瞬で改めた。


僕は反射的に身構える。


(なんだ……何を謝られるんだ……?)


「本来なら、あなたとハルドさんの治療は別の場所でも可能でした。

 ですが“同時治療”の方が神聖力の消費が少なく……あなたの意識が戻るまで待つ必要があったのです」


(神聖力……そんなものがあるのか)


そこまでなら理解できた。

だが聖女様は、ゆっくりと僕の右脚へ視線を落とす。


「そして……その“黒い右脚”。あれが私たちの判断を大きく鈍らせました」


刺すような沈黙が落ちた。


「こんな場所まで連れてきてしまって……本当に、ごめんなさい」


「い、いえ!とんでもないです……!」


そう返しながらも胸のざわめきは消えない。


(……そうだ。僕が目を覚ましてから、皆の態度がどこか不自然だった。

 視線を逸らしたり、話題をそらしたり……全部、この脚のせい?

 いや、それだけじゃない……)


そんな僕に、聖女様は問いを投げた。


「アイザックさん。

 ハルドさんとララさん以外に、謝るべきことはありませんか?」


「……え?」


言われた意味がまるで分からない。

戸惑いがそのまま顔に出た。


その瞬間――部屋の空気がふっと緩んだ。


「よかった!!今は“本物の弟弟子”なんだ!!」


カールアさんが胸を叩いて笑う。


「ほんとうに……よかったわ、アイザックくん」


シルファさんも静かに安堵した。


「いや~……ここに来るまでずっとヒヤヒヤしてたんだぞ……」


「私もです……はあ……」


レオニスさんもミレナさんも、同じように肩の力を抜く。


「よかったああ……!」


ララさんは胸に手を当て、涙ぐんでいた。


(……“本物”って……どういう意味なんだ?)


そのとき、ハルドさんが僕をまっすぐに見つめた。


「アイザック。お前の剣は、何のためにある?」


迷う必要なんてなかった。


「守るためです。僕が守りたいものを……守るために振るいます」


それが僕の“根っこ”だ。


聖女様は満足したように頷いた。


「右脚を斬られた後の出来事をあなたは覚えていない。

 そして“それ以前のあなた”とも矛盾がない。

 ……安心しました」


(……やっぱり。僕が知らない“何か”があった)


胸の奥で、言葉にならない不安だけが静かに沈む。


「では、本物のアイザックさんだと確認できましたので……

 まずハルドさんから治療します。

 そのあと、アイザックさんも治します」


静かな声が、治療の始まりを告げた。


いよいよ、治療が始まる――。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


今回は、治療に入る前の“確認の回”でした。

少しじれったい展開に感じた方もいるかもしれませんが、どうしてもこの描写は入れたかった部分です。


いよいよ次話からは、本格的な治療と、

アイザック自身も知らない“真実”が語られていきます。


少しずつ物語の核心に近づいていきますので、

楽しみにしていただけたら嬉しいです。


これからもよろしくお願いします。

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